第11話スポンサー2
1
ランチは野菜料理とあった。
捻りがない。
しかしこういったのは、好きだ。
私は真っ直ぐなんだろうか。
違う融通が効かないたけ。
五回にわけて、小出しで料理が出てくる。
一日一食限定とのこと。
手間がかかるから、それが理由。
あまり需要もない、高いから。
「ここのマスターは、元々はフレンチのシェフだったんだ。若い頃は、よく食べに行った」
会長がそう言いながら、オードブルの野菜の蒸し焼きを食べる。
頷いている。
美味しいのだろう。
私は淡々と口に運ぶ。
美味しい、しかしどこか美味しくない。
理由はわかっいる。
会長と居たくないから。
スポンサーでありながら、貰うものを貰いながら……私は最低だと思う。
「この冬は冷える。雪は降りそうだ」
そう言いつつ、ワインを飲む。
ノンアルコールのワインらしい。
つまりはグレープジュース、因みに私もそれを飲んでいた。
普段はかなりいけるらしい。
しかし私に気を使っている。
「違うぞ。後で女房と、夕食をする。今酔うわけにいかない。今日は外食の一日だ」
なるほど。
外食続き、なんだか良い生活ね。
お金持ちが、羨ましい。
ただ私はお金持ちに寄生している。
一番羨ましいのは、私だろう。
だって楽して、大金を貰っている。
その上に就職もエスカレーターで階を上がるように、スムーズに行った。
「違うぞ、麻衣子の能力だ」
会長が私の目を見る。
真顔で少し険しい表情に、嘘はないと言いたげである。
私は嬉しいと、頭を下げた。
会長の顔から険しさがなくなり、いつもの雰囲気に戻る。
気を使っている。
疲れる。
2
野菜料理はメインに入っている。
さっき五回とあったが、これが四回目だった。
一応細かく説明すると、前菜、スープ、魚系、肉系、デザートつまりコースのこと。
パンの代わりに、ご飯がありその付け合わせの漬け物もある。
今は冬野菜中心、ロールキャベツの昆布だし煮込みを食べている。
箸で切れるほど柔らかく、大きさ、量、味、申し分ない。
美味しい、そして美味しくない。
この反比例は、セットになっている。
「いい食べっぷりだ。昔から変わらない。お母さんもそんな感じだった」
会長が笑う。
力のない笑い顔は、どこか遠くをみているようだ。
みている先に、母がいるのは間違いない。
好きだったんだな。
少しだけ、センチになった。
「好きだったよ。愛していると、バカな言葉を贈るくらいにな。大笑いされた。重いと言われた」
会長が言う。
当たり前よね。
愛なんて、恥ずかしい言葉。
私なら笑うかも知れない。
「笑えるか、だけどね、他人から大笑いされるくらいに、激しく愛し合ったのは間違いない。お母さんが演じていたのかもしれない。それでも演じてくれたことが、嬉しかった」
会長が涙まじりになった。
今でも、好きなんだと実感する。
「さっ、どんどん食べなさい」
会長が勧める。
私は無言で頷いて、食べている。
3
今、私はクルマにいる。
解放された。
ようやく、私の時間が始まる。
私の時間とは言っても、やることはない。
少し寄り道して、帰るくらいね。
クルマを近くの駐車場に停める。
そしてバックミラーを覗く。
するとそこに写る私が、笑い出した。
「お金持ち! やったね!」
『麻衣』がはしゃいでいる。
私はため息を吐く。
「お金持ちでしょ? 麻衣子は恵まれてるよ。確かに家族とか、父親とかには飢えてる。けど、お金みたいな実感はないでしょ?」
確かにね。
家族とか、絆とか、私はほしてない。
あったって、面倒な……急に私の心に、キミが現れる。
キミの笑顔に、唇を噛む。
「麻衣子、あなたは好きな男の人がいる。その男の人に、近くならいずれは麻衣子を知らせないといけない。それが好きから恋になる。そして……重たい言葉の『愛』に……なったらいいね」
『麻衣』は清々しく、凛とした表情をしている。
その表情のまま、消えていった。
バックミラーに、私が冴えない顔をしてる。
恋……そして、愛か。
私は少しやるせない。
キミは悪い男だ。
重い世界に、導かれる。
おかしな話ね。
だって私、まだキミとろくに話したことない。
それを……さて、少し買い物をしよう。
近くの大通りで、明日は良い日を思いながら。
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