第7話デート……僕

 1



 僕は近くの公園で、麻衣子ちゃんを待っている。今日はデートをする。プレゼンの話し合いが中心ではあるが、彼女と二人だけだから周囲から見ればカップルと扱いは同じ。どこかウキウキ感がハンパじゃあない。



 麻衣子ちゃんとのメールのやりとりで、彼女はクルマを持っていることがわかった。そして僕が便乗させて貰うことで話し合いがついた。



 部署では、仕事以外の会話はしていない。いやできない。例えそれがプレゼンの会話だったとしても。だからメールでのやりとりをしている。



 スマホを見る。約束の時間になりつつある。空を見ると、鉛色の雲が広がる。正直、デートには程遠い天気だった。麻衣子ちゃんとの二人きりが、あやしい雲行きとは……。



 一台のベージュの軽自動車が、近くに現れる。洒落ていてどこか可愛い。それを運転しているのは、間違いなく麻衣子ちゃんだった。



 軽自動車を停止させると、麻衣子ちゃんが降りてきた。白いパーカー付きのアウターに、色の濃いデニムが映える。メガネをしているのは少し意外だったけど、それも彼女を引き立たせるアイテムになっていた。



 「お待たせ、服のセンスいいね」



 麻衣子ちゃんの言葉に、顔がほころぶ。心では嫌われなくて良かったと、ホッとしている。僕の服装は普段のを上手く着まわしているつもりだ。だけど自信はなかった。彼女が笑顔をくれるまでは。



 「乗ってよ、カフェに行こう。そこでプレゼンを考えましょう」



 高鳴る鼓動を抑えながら、麻衣子ちゃんに甘える。まさか高鳴る鼓動を経験できるとは、嬉しくもあり僕でいいの? と申し訳なくも感じる。



 吉村さんお願いと、僕が乗り込む。麻衣子ちゃんお願いではない。心では麻衣子ちゃんだけど、言葉の魔法を「麻衣子ちゃん」にするにはおこがましい。



 麻衣子ちゃんが軽自動車に乗り込む。僕との距離が少し縮まり、彼女が軽く香水(コロン)をしているのがわかった。果実のフルーティーな香りで、どこか落ち着く。



 麻衣子ちゃんがエンジンをかける。軽いアイドリングをして、軽自動車が動き出した。僕の胸はますます高鳴る。



 2



 僕と麻衣子ちゃんは公園にいる。市民公園で大きな敷地面積があり、憩いの場でもある。憩いの場なんだけど……



 「ごめんなさい!」



 麻衣子ちゃんが謝っている。もっと言えば謝り続いている。彼女のオススメのカフェが、臨時休業だったからだ。従業員の数人がインフルエンザを発症したとあった。



 「うそー!」



 なんて麻衣子ちゃんが大声あげたのは、今から数十分前のこと。それからすごく落ち込んでいる。今日の曇り空はまるでこのためにあるようだ。僕は励ます。僕だって、いや僕も間違いやアクシデントはよくある。別に彼女は悪くない。



 「ありがとう、キミは優しいね」



 麻衣子ちゃんの弱々しい笑顔は、いつもの気の強い彼女からは想像できない。ある意味、貴重な体験だった。プレゼンの話はまた今度になりそうだ。だけど都合がいい。何故ならまた会える口実ができたから。



 「寒いね、それと寂しい」



 市民公園に僕と麻衣子ちゃんが居るのは、目的地のカフェから近い場所にあったからだ。そこで今からを考えようと、僕が誘った。だけど冬のここは、彼女の言葉のとおり寒く寂しい。雪はかなり積もっている。芝生には雪の冷たい白色が、緑を覆い隠していた。この時期の芝生は色は薄いけど、真っ白にはならない。雪は冷たいそして寒い。当たり前を知った。



 僕はごめんと謝った。吉村さんが落ち込むのは、寂しく冷たく何よりも寒い公園に行こうと誘った僕が悪い。もちろん今、それをしたのは僕だと、少し俯いた。


 

 「違うよ! 私だよ! 私が悪いの。ねぇ、クルマに戻ろう」



 麻衣子ちゃんが言った。そうだね軽自動車に戻ろう。彼女は間違っていない。ここに居ても寒く冷たく寂しいだけ。



 「ドライブしようか」



 麻衣子ちゃんが微笑んだ。弱々しい笑顔は、まだ気にしているのがわかる。僕は大きく頷く。力強く頷く。彼女を元気づけるために。可憐な花を、枯らしたくはない。そんな気持ちだった。






 ※視点が替わります。





 



 



 












 

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