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「いや、私もさすがにこんな感じで付き合うことになるとは思ってなかったんだけどね」

「はい」

「実は、彼が、その、仕事場まで見に来てさ」

 お? お?

「危ないからやめろって言われるのかなって思ってたんだよ。実際みんなそう言うし、もしそう言われたらブッチしようと思ってたんだけど」

 はぁ、とそこで吐いた溜め息が、完全に乙女モードで。いつものスミレさんとは少し違っていて。

「あいつ、格好いいねって言ったんだよ」

「恰好いい、ですか」

「そ。スミレさんは格好いいですね、素敵ですって言ったんだよ」

 信じられないよねー、と言う割にその顔は嬉しそうじゃないか。本当はずっとそう言ってもらいたかったんだろ? だからこそ、付き合う所まで来ているんじゃない。あんなに男はいらないって言っていたのに。

「カースタントやってるのにさ。家族ですら今だにやめろって言うのにだよ。あいつだけは続けて良いって言うんだ。それがスミレさんの才能じゃないですかって」

 どこか恥ずかしげにはにかむ彼女は、スタントウーマンとして仕事をしている。女性で、かつ身長も高い彼女は男性女性、どちらにでもなれると引っ張りだこだそうだ。

 もちろんうら若き乙女の仕事としては、いささかアグレッシブなこともあり、周囲の反対もあった訳で。

 そりゃそうだよな、死と隣り合わせの仕事なのだから。誰だって大切な人に傷を負って欲しくない。

 彼女自身、それで悩んでいる時もあった。だからこそ、今では『私の天職だから』と胸を張って言っている。本当にそうだと、俺も思う。

「だからさ、まぁ、その、付き合ってもいいかなって。純粋に目をキラキラさせてあんなこと言ってくれるやつ、そうそういないかなって思って」

 はは、と笑ってからグラスを傾けた。ごっごっ、と鳴る喉に、こちらまで嬉しくなった。

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