ブラッディ・メアリー

カゲトモ

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「っさむ」

 かろん、とベルが鳴ると同時に震えた声が聞こえた。

「いらっしゃいませ、スミレさん」

「マスター、ヤバいよ。外ものすごく寒い」

「今夜あたりから寒くなると言っていましたからね。お帰りの時に雪など降らないと良いのですが」

「降ったら泊めてよ」

「宿泊のお代は皿洗いで結構ですよ」

 はは、と快活に笑う彼女はピッタリとしたスキニ―パンツにブーツ、黒いライダースジャケットをそつなく着こなす背の高い美女だ。もうほんとモデルみたいな。

「いつもの」

「かしこまりました」

 彼女の“いつもの”は、トマトジュースがたっぷり入ったブラッディ・メアリー。すらっと背の高いクールなスミレさんに良く似合う。

「そういえばさ、あの事だけど」

「あの事、ですか?」

「あれだよ、一ヶ月くらい前に言ったじゃん。見合いしてきたってやつ」

 あぁ~! あれだ、いつもと違って白いブラウスと黒いタイトスカート穿いていた時のことだ。

 確か、お見合いの後店に来たやつ。

「なにか進展でもあったのですか?」

 あの時の口調からするに見合いは失敗したっぽい感じだったけど。

「あー実はさ」

「はい」

「付き合うことに、なったんだよね」

「っ」

 ぶなーい。つい『えっ!?』とか大きめの声で言ってしまう所だったわ。

 マジか、あのスミレさんが!

「まぁいろいろあって付き合うことになったんだけど」

 聞きたいのはその“いろいろ”何だけども!

 あの仕事一筋のスミレさんが付き合うとは・・・! いやはや人生何が起こるか分かったもんじゃないな、って失礼か。

 でも本当にそれくらい、色恋沙汰には興味がないと思っていたから。

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