第三十一話 告白

 卒業式の日、アキリオは、セイナの隣に座って、式に参加していた。

 彼らと共にするのも最後だ。

 そう思うと、少し寂しくなる。

 長いようで、短いようであった学生生活。

 これで、セイナと別れてしまう。

 そう思うと、アキリオは、胸が痛んだ。

 式が終わり、アキリオは、セイナと並んで歩く。

 二人だけで。

 友人達は、セイナと一緒に行動を共にしようとするが、セイナが、アキリオと二人がいいと頼んだのだ。

 セイナの心情を知っているのか、友人達は、快く承諾し、アキリオは、セイナと二人で、大学内を歩いていた。

 これまでの事を思い返しながら。


「もう、卒業か……」


「うん、寂しくなるね」


 これで、卒業だ。

 セイナとも会えなくなる。

 毎日、会っていたというのに。

 そう思うと、アキリオも、セイナも、寂しく感じていた。


「いつ、研究所に行くの?」


「三月二十日から」


「もうすぐだね……」


「本当にね」


 セイナは、隣の街の研究所で就職することになっていた。

 学生寮を出て、たった一人で、生活することになる。

 だが、セイナは、不安を感じていないようだ。

 以前、「不安じゃないの?」と聞いたことがあるアキリオであったが、セイナは、「楽しみで仕方がない」と答えている。

 正直、セイナが、羨ましかった。

 そう、思えるのだから。


「アキ君は、どうするの?」


「今日、父さんと話す。大喧嘩になると思うけど」


「叶うといいね、アキ君の夢」


「うん」


 セイナは、アキリオに問いかける。

 アキリオは、式が終わった後、ジンに話すつもりだ。

 自分の夢の事を。

 あれから、彼は、悩みに悩み、決意を固めた。

 自分の夢を叶える事を。

 それは、ジンとの決別を意味している。

 それでも、アキリオの決意は変わらない。

 セイナも、アキリオの夢が叶う事を祈っていた。

 セイナの笑顔が、アキリオの瞳に映る。

 アキリオの心臓は、高鳴っていた。

 なぜなら、セイナに伝えたいことがあったからだ。


「あ、あのね、セイナ」


「うん」


 アキリオは、セイナに呼びかける。

 それも、緊張した様子で。

 何も知らないセイナは、うなずいて、アキリオの次の言葉を待った。


「僕、君の事が、好き、なんだ……」


 アキリオは、ついに、セイナに告白した。

 ずっと、しようと思っていたのだが、中々、言いだせずにいたのだ。

 アキリオに告白されたセイナは、目を見開き、立ち止まる。

 驚いているのであろう。

 アキリオは、顔を赤らめ、カバンから、ある物を取り出した。


「こ、これ、受け取ってください」


 アキリオは、頭を下げて、セイナにある物を渡す。

 それは、羽根だ。

 それも、魔法石がチェーンで繋がれている。

 アキリオが、渡したある物とは、魔法具だったのだ。 

 それは、アキリオが丹精を込めて作った物。

 セイナへのプレゼントだった。

 ドキドキしながら、セイナの返事を待つアキリオ。

 だが、セイナは、返事をしようとしない。

 失敗だったのだろうかと、あきらめかけるアキリオ。

 だが、その時であった。


「ぷっ」


 突然、セイナが、吹きだし、笑い始めた。

 それも、勢いよく。


「え、な、なんで、笑うの!?」


「だって、可愛いんだもん」


 セイナが笑い、慌てふためくアキリオ。

 セイナは、アキリオを愛おしく思っていたのだ。

 今までで、一番、可愛らしく、愛おしい。

 セイナの答えは、とうに決まっていた。


「うん、いいよ。私も、好きだよ。アキ君の事」


 セイナは、返事をする。

 セイナも、アキリオに対して、好意を抱いていたのだ。

 中々、言いだせなかったようだが。 

 返事をもらったアキリオは、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 それも、今までで、一番、嬉しそうであった。


「それで、これ、魔法具だよね?」


「あ、うん。あ、会いたい人の所に飛んで行ける魔法具なんだ」


「素敵!」


 アキリオは、セイナに魔法具の事を説明する。

 会いたい人の元へ行けるという。

 セイナは、嬉しそうに、羽根の魔法具を手に取った。


「じゃあ、いつか、会いに行くね」


「うん」


 セイナは、アキリオに約束する。

 この魔法具を使って、会いに行くと。

 アキリオも、うなずき、微笑んだ。

 卒業式は、二人にとって、思い出の日となった。



 卒業式の事を思い返したアキリオ。

 その表情は、とても、穏やかだ。


「素敵な話だね」


「うん。でも、その後が大変だったんだよね……」


 モノカも、本当に、穏やかな表情を浮かべている。

 いい話が聞けたからであろう。

 だが、アキリオは、苦笑し始める。

 そう、卒業後が、本当に大変だったからだ。


「魔法具店を開きたいから、会社は継がないって言ったら、父さんと、大喧嘩して、勘当されて。家を出て、アパートで暮らし始めたんだけど、大変だったよ……」


 セイナに、告げた通り、アキリオは、ジンに夢について語った。

 だが、当然、ジンは、猛反対。

 アキリオも、食い下がらず、ついには、ジンに勘当され、アキリオは、家を出ることとなったのだ。

 アパートは、すでに借りていた。

 こうなる事は、わかっていたから。

 バイト先も、決まり、アキリオは、資金をためる為に、一人暮らしをしながら、働き始めた。

 アキリオは、昼は、お弁当屋、夜は、工事現場で務めていた。

 全てが、初めてづくしだ。

 アキリオにとっては、新鮮でもあり、苦労の連続でもあった。


「セイナさんとは、どうなったの?」


「手紙のやり取りはしてたよ。セイナは、充実してるって書いてあった。正直、羨ましかったな。でもね……」


 アキリオ曰く、セイナとは、手紙でやり取りをしていたようだ。

 高度な魔法が誰でも使えるように、魔法の仕組みを研究していたらしい。

 彼女は、とても、充実していたそうで、アキリオは、彼女がうらやましかった。

 だが、夢を叶える為、一人で、働き続けたのだ。

 


 卒業してから、一年後、アキリオは、昼のバイトを終え、アパートに戻る途中であった。


「はぁ、今日も、疲れたなぁ……」


 アキリオは、疲れているようだ。

 当然であろう。

 一日中働いているのだから。

 最初は、苦労したが、バイト仲間と打ち解け、彼らが、支えとなってくれた。

 しかも、夢の事を話すと、応援すると言ってくれたのだ。

 アキリオにとっては、本当にありがたかった。


――何とか、お金は、たまったけど。まだまだ、足りない。もう一つ、バイト、増やしたほうがいいのかなぁ……。


 一年間、働いてきたアキリオであったが、資金が、なかなか思うようにたまらない。

 生活費も稼がなければならないため、当然であろう。

 アキリオは、もう一つ、バイトを増やすべきか、悩んでいた。

 その時であった。


「アキ君」


「え?」


 セイナの声が聞こえる。

 それも、自分を呼びかけているようだ。

 アキリオは、驚き、振り返る。

 すると、後ろにセイナが、立っていた。

 微笑みながら。


「せ、セイナ!!」


 アキリオは、セイナを見て、驚く。

 セイナと会うのは、一年ぶりだ。

 まさか、セイナに会えるとは、思ってもみなかったのであろう。


「どうしたの?言ってくれれば、迎えに来たのに」


「アキ君を驚かせたくて」


 セイナは、アキリオを驚かせようとしていたようだ。

 久しぶりの為、悪戯したくなったのだろう。

 彼女は、相変わらず、明るく気さくだ。

 アキリオは、懐かしさを感じていた。


「もしかして、魔法具、使ってくれたの?」


「え?あ、うん」


 アキリオは、セイナに問いかける。

 自分が、作った魔法具で、会いに来てくれたのだと、確信していたのだ。

 セイナは、アキリオの問いにうなずく。

 うまく、成功したみたいだ。

 アキリオは、作ってよかったと、喜んでいた。


「会いたかった」


「私も」


 アキリオは、セイナに会いたかったと、正直に自分の気持ちを告げる。

 セイナも、会いたがっていたようだ。

 当然であろう。

 卒業してから、一度も会っていない。

 セイナも、研究で忙しく、アキリオも、バイトで、セイナに会いに行く時間すら、作れなかったほど、ハードスケジュールだったのだ。

 一年ぶりの再会に、二人は、喜びをかみしめていた。


「あ、アパート、来る?ちょっと、ぼろいけど」


「うん」


「僕、夜、バイトに行くから、あまり、一緒にはいられないけど」


「それでも、いいよ。一緒にいたい」


 アキリオは、セイナを自分のアパートに案内する。

 と言っても、アキリオも、夜、バイトがあるため、長い時間、一緒にはいられない。

 もちろん、セイナも、ホテルに行かなければならないため、あまり、遅くまでは、いられないだろうと、アキリオは、推測していた。

 だが、アキリオは、まだ知らない。

 セイナが、ある事を決意したとは。


「そうだ。研究所の事、聞かせてよ。実は、気になってたんだ。どんな研究をしてるのかなって」


 実は、アキリオは、気になっていたのだ。

 魔法の研究について。

 幼い頃、魔法について、猛勉強していた事もあり、セイナに会ったら、話を聞こうと決めていたようだ。

 だが、セイナは、立ち止まり、うつむていしまう。

 何か、考え事をしているかのようだ。

 そして、意を決したかのように、前を向いた。


「あのね、アキ君」


「うん。どうしたの?」


 セイナに話しかけられたアキリオは、振り向く。

 すると、セイナは、真剣なまなざしで、アキリオを見つめていた。


「私ね。研究所、やめてきたの」


「え?」


 衝撃的だった。

 なんと、セイナは、研究所をやめてきたというのだ。 

 アキリオは、驚愕し、呆然としていた。

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