第二十八話 セイナとの出会い
「僕ね、学生の頃は、友達いなかったんだよ」
「そうなの?」
「うん。まぁ、ひねくれてたからね。その頃は」
学生の頃、アキリオは、友達がいなかったのだ。
「シエル」の一人息子であり、小・中・高は、エリート学校に進み、魔法の勉強もそつなくこなしていた。
彼は、成績優秀で、魔法の才能もあったのだ。
だが、アキリオは、やる気がなかった。
なぜなら、父親の後を継がなければならないからだ。
やりたいことがあっても、言えずに。
そんなアキリオは、性格は、ひねくれており、友達を作ろうとしなかった。
彼は、常に一人だったのだ。
アキリオの話を聞いていたモノカは、驚く。
想像がつかないのであろう。
アキリオは、苦笑しながらも、答えた。
「でも、変えてくれたんだ。セイナが」
アキリオは、ゆっくりと語り始めた。
始めて会った時の事を思い出しながら。
アキリオとセイナが出会ったのは、大学の時だ。
アキリオは、会社を継ぐため、魔法の技術を習得するために、大学に通った。
だが、アキリオは、いつまでも、ひねくれており、同学年の生徒と打ち解けることはなかった。
いつまでも、一人だったのだ。
昼休みに、図書館で、経済学の本を読んでいたアキリオ。
やる気はなかったが、後継者として、覚える事が多かったため、自主勉強していたのだ。
その時であった。
「アキリオ君?」
入学して、一か月の事だ。
アキリオが、声をかけられたのは。
誰が、声をかけたのだろうか。
めんどくさい。
アキリオは、そのような事を思いながら、顔を上げる。
彼の前にいたのは、金髪の少女だ。
長いウェーブの髪の少女は、可愛らしかった。
彼女こそが、セイナだったのだ。
「そうだよね?」
「そうだけど、何?」
セイナに尋ねられたアキリオは、冷たく突き放す。
勉強の邪魔をしないでと、言わんばかりの表情で。
それでも、セイナは、気にも留めていなかった。
「話したことないなって思って、話しかけてみたの」
「そう」
セイナは、気さくに話しかける。
なぜ、自分に、話しかけてきたのだろうか。
アキリオは、そんな事を考える事も、面倒で、そっけない返事をした。
早く、立ち去ってほしいと願いながら。
「私、セイナって言うの。よろしくね」
「よろしく」
セイナは、自己紹介をする。
だが、アキリオは、知っていた。
セイナは、人気だったから。
容姿も完璧であり、性格も明るい。
自分とは正反対だ。
だからこそ、覚えたのだ。
アキリオは、またまた、そっけない返事をして、立ち上がった。
「あれ?もう行くの?」
「うん。講義に遅れるといけないから」
アキリオは、この場から逃げる事を選んだ。
一人になりたいと願って。
講義に遅れるからと言うのも、嘘だ。
ただ、一人になりたかった。
しかし……。
「そっか。またね」
セイナは、アキリオの心情に気付くことなく、満面の笑みを浮かべて、手を振る。
アキリオは、目を背け、すぐさま、セイナから遠ざかった。
まるで、逃げるように。
だが、アキリオは、セイナの事が気になり始めていたのだ。
不思議な子だと。
次の日、アキリオは、廊下で、セイナを見かける。
セイナは、多くの生徒に囲まれ、楽しそうに話をしながら、廊下を歩いている。
セイナに気付かれないようにアキリオは、すぐさま、教室に入った。
――人気だなぁ、彼女。
アキリオは、改めて、セイナが、人気者だと悟り、椅子に腰かけた。
隅っこの方で、たった一人で。
誰にも気付かれないように。
――なんで、僕なんかに話しかけたんだろう。
アキリオは、理解できなかった。
なぜ、セイナは、自分に話しかけてきたのか。
入学当初、アキリオは、誰も近づかないように。
そっと、一人でいたのだ。
それなのに、なぜ、彼女は、自分を見つけたのだろうか。
思考を巡らせたが、やはり、見当がつかなかった。
その時であった。
「あ、居た。アキ君」
「あ、アキ君!?」
セイナが、アキリオに声をかける。
それも、アキリオの事を「アキ君」と呼んで。
突然の事で、アキリオも、思わず、驚いてしまった。
その場にいた生徒達もだ。
アキリオが放つ冷たい雰囲気を感じ、近寄らなかったというのに。
「うん、アキリオ君だから、アキ君」
「やめてくれる?女の子みたいなんだけど」
「えー、いいじゃない。かわいくて」
――だから、嫌なんだけど。
勝手に、あだ名で呼ばれたアキリオ。
女の子みたいだからと言って、断ろうとするが、セイナは、やめようとしない。
全く、何なんだろうか。
なぜ、自分に近寄ろうとするのか。
あれほど、冷たく言い放ち、避けてきたというのに。
アキリオには、セイナの心情が理解できなかった。
「で、何か用?」
「今日、お昼一緒に食べない?みんなと」
「僕は、遠慮しとくよ」
セイナは、アキリオを誘ったのだ。
ほかの生徒とも打ち解けられるようにと配慮してくれたのだろう。
だが、アキリオは、断り、逃げるように、セイナから遠ざかる。
セイナは、きょとんとしていたが、ほかの生徒、セイナの友人であるトウハは、嫌悪感を抱いていた。
当たり前であろう。
セイナが、誘ってくれたというのに、断ったのだから。
一人で昼食を食べ終えたアキリオは、教室へと向かう。
だが、その時だ。
セイナの姿をアキリオが見かけたのは。
――あ、あの子だ。
アキリオは、セイナに見つからないように、後ろを歩く。
気付かれないように、遠くから。
セイナは、トウハと次の教室へ向かっていた。
「ねぇ、セイナ」
「ん?何?」
「なんで、あの子に、話しかけるの?すごい冷たいし。もう、いいんじゃない?」
トウハは、セイナに問いかける。
なぜ、アキリオに話しかけるのか。
突き放すような冷たい言い方が、癪に障ったのだろう。
だからこそ、トウハは、セイナに話しかけなくてもいいのではないかと尋ねたのだ。
アキリオも、そうして欲しいと願っていた。
しかし……。
「アキリオ君は、一人でいたいんだよ。放っておいていいと思うよ」
トウハの言葉を聞いたアキリオ。
確かに、一人になりたくて、セイナの事を冷たく突き放した。
当たっているというのに、なぜか、心が痛む。
なぜだろうか。
――なんか、勝手なこと言われてる。まぁ、仕方がないか……。
一人になりたいと思っていたアキリオであったが、なぜか、複雑な感情を抱いている。
なぜだろうか。
その理由がわからない。
ずっと、一人でいたのだから、気にすることはないはずなのに。
その時であった。
「そんなことないと思うよ」
「え?」
「ただ、接し方がわからないだけ。そんな気がするの」
セイナは、否定する。
アキリオは、接し方がわからないだけなのだと。
セイナの言葉を聞いたアキリオは、思わず、目を見開く。
思いだしていたのだ。
子供の頃、アキリオは、友達が欲しくて、級友に声をかけた事があった。
だが、級友達から、「シエル」の息子と、言われ、僻まれていたのだ。
いじめられた事もあった。
それゆえに、アキリオは、心を閉ざしてしまったのだ。
それ以来、友達を作ろうとせず、壁を作っていたのだ。
セイナは、アキリオの心情を読み取っていた。
「そう、かな?」
「うん。だから、私、アキ君と友達になりたい」
トウハは、疑問を抱くが、セイナは、確信を得ているようだ。
それゆえに、セイナは、アキリオと友達になりたいと願った。
まさか、アキリオが、それを聞いているとは知らずに……。
――初めてだ。友達になりたいって言ってくれたの……。
本当に、生まれて初めてだった。
誰かに、友達になりたいと言ってもらえたのは。
アキリオは、心の底から、喜んだ。
涙が出そうなほどに。
アキリオは、一呼吸し、心を落ち着かせる。
心情を悟られないように。
平常心を装ったまま、歩くと、セイナが、アキリオを見つけ、駆け寄ってくれた。
「アキ君」
「何、かな?」
セイナに呼ばれたアキリオは、尋ねる。
それも、ぎこちなく。
だが、どこか優しさがこもっているようであった。
「次の講義、一緒だよね?一緒に行かない?」
「……いいよ」
「え?」
「一緒に、行っても……」
「うん!!」
セイナに誘われたアキリオは、少し、うなずく。
セイナも、セイナの側にいたトウハも、驚きを隠せなかった。
だが、セイナは、すぐさま、嬉しそうな表情を浮かべる。
アキリオも、つられて、微笑み、セイナと共に次の教室へ向かった。
モノカに、セイナとの出会いと印象を語ったアキリオ。
モノカは、ワクワクしながら、アキリオの話を聞いていた。
「それから、かな。少しずつ、セイナと打ち解け始めたの。皆とは、ちょっと、時間がかかったけど」
「トウハさんとも」
「トウハちゃんも、かな。本当、ひねくれてたから」
アキリオは、苦笑しながら、答える。
それ以来、セイナと一緒に行動するようになったのだ。
セイナと共にいたトウハも、生徒達とも、少しずつではあるが、仲良くなっていった。
と言っても、相当時間がかかったのだが。
「でも、なんで、僕に気にかけてくれたのか、すごく気になって。魔法を使ったんだ」
「もしかして、クラルテ・オイユ?」
「そう」
アキリオは、その当時を思い出しながら、語り始める。
セイナと仲良くなって、一か月後の事だ。
アキリオは、どうしても、気になったのだ。
なぜ、自分の事を見抜いたのだろうかと。
気になったアキリオは、クラルテ・オイユを唱え、セイナの心情を読み取ろうとしてしまった。
しかし……。
――あれ?心情が、読めない……。何か、隠してる?
アキリオは、違和感を覚えた。
セイナの心情が読み取れなかったのだ。
つまり、セイナは、何か、隠しているという事であった。
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