第二十七話 ずっと、気になっていた事

 ジンが、アキリオの魔法具・「思い出のスノードーム」を受け取り、アンティカ通りをなくす計画は、中止となった。

 アキリオ達は、アンティカ通りから、撤退する必要はなくなり、誰しもが、喜びをかみしめた。

 それから、二か月後。

 モノカは、焦っていた。

 真実をアキリオに打ち明けなければならないのに、打ち明けられず、時が過ぎてしまったからだ。

 どうしても、言わなければならないというのに。

 その時であった。

 モノカは、夢を見る。

 それも、アキリオの過去だ。

 学生時代、アキリオは、金髪の少女と出会う。

 その少女は、気さくで、アキリオにいつも声をかけていた。

 アキリオが、その少女を避けようとしても。

 だが、アキリオが考えを改めたのか、少女と仲良くなり、卒業後、アパートで一緒に住むようになった。

 そして、ついに、自分の店を持ち、「モン・トレゾール」をオープンさせる。

 少女も、女性に成長し、アキリオは、幸せであった。

 それなのに、女性は、姿を消してしまう。

 アキリオの前から忽然と。

 何があったのかは、わからなかった。

 朝の光が、差し込み、モノカは、夢から覚めて、起き上がった。


「今のは……アキ君と……」


 モノカは、悟った。

 アキリオに話しかけていた女性は、セイナなのだろうと。

 二人の身に何があったのか。

 セイナは、どのような人だったのか。

 モノカは、気になり始めていた。



 その後、アキリオと朝食を食べるモノカ。

 だが、考える事は、セイナの事ばかりであった。


「今日も、魔法具、売れるといいね」


「そうだね」


 モノカは、アキリオに悟られないように、さりげなく、話しかける。

 アキリオは、気付いていないようだ。

 モノカは、少し、安堵していた。


「そう言えば、モノカ」


「ん?」


「魔法具、作れた?」


「うん。魔法石とか魔法装具とかは作れるようになったよ。靴とかキーホルダもね」


「頑張ってるね」


 アキリオは、モノカに、尋ねる。

 夏、モノカは、アキリオから、魔法具の作り方を教わっていたのだ。

 それ以来、店が終わった後や休日に、魔法の修業をしている。

 アキリオのように魔法具を作れるように。

 モノカは、魔法石や魔法装具、道具などを作れるようになったようだ。

 これも、アキリオの教え方がうまいからだ。

 モノカは、アキリオに、褒められ、うれしくなった。


「でも、魔法を埋め込むのが難しいんだよね」


「ソール・アンスタラシオンの事だね。あれは、本当、難しいからね。僕も、苦労したよ」


「あと、もう少し、なんだよね……」


 モノカは、魔法を魔法具に埋め込むことができず、苦戦しているようだ。

 だが、アキリオも、同じように苦戦したらしい。

 ソール・アンスタラシオンは、本当に、高度な魔法だ。

 それゆえに、習得する人が少ない。

 モノカは、あともう少しで、魔法具が作れるようになる。

 だが、時間がない。

 モノカは、焦っていた。

 すると、ふと、セイナの事を思い出す。

 セイナは、魔法具が作れたのだろうか。

 いや、それよりも、どんな人なのか、やはり、気になっていた。


「あのね、アキ君……」


「ん?どうしたの?」


「セイナさんって、どんな人だったの?」


「え?」


 モノカは、思わず、アキリオに尋ねてしまう。

 セイナの事を。

 聞くつもりはなかった。

 あまり、聞かないほうがいいのではないかと察していたからだ。

 だが、夢を見てしまい、どうしても、気になってしまい、思わず、尋ねてしまったのだ。

 突然の事で、アキリオは、あっけにとられていた。


「や、やっぱり、何でもない!!もうそろそろ、準備してくるね!!」


 沈黙が生まれ、モノカは、我に返る。

 慌てて、立ち上がり、アキリオから、逃げるように去っていった。

 アキリオは、呆然としていた。

 何が、起こったのか、見当もつかず。



 店をオープンさせたアキリオとモノカ。

 アキリオは、いつものように作業場で、魔法具を作り、モノカは、いつものように、店番をしている。

 アキリオは、そっと、モノカの様子をうかがうが、特に変わった様子はない。

 だが、やはり、気になってしまう。

 モノカが、なぜ、セイナのことを聞いてきたのか。

 夕方になり、モノカが、買い物をしている間、アキリオは、パン屋へ行き、リュンに今朝の事を相談した。


「え?モノカちゃんが、セイナさんの事、聞きだしたの?」


「うん、どうしてだろうね」


 話を聞いたリュンも、驚いている。

 なぜ、唐突にと思っているのだろう。

 アキリオも、同じことを考えていた。

 しかし……。


「よくよく考えれば、変だ」


「何が?」


「モノカ、セイナの事、一度も聞こうとしなかった」


「それが、何?」


「普通、聞く気がするんだ。ほら、前の従業員は、どんな人か、気になったりしない?」


「まぁ、確かに。でも、アキリオに気を遣ったんじゃないか?」


「そっかぁ」


 だが、よく、考えてみれば、聞かないほうが違和感がある。

 セイナの事は、あまり、語らなかったアキリオであったが、彼女は、前、「モン・トレゾール」で、働いていた。

 気になるはずだ。

 リュンの言う通り、おそらく、自分に気を遣って、尋ねようとしなかったのだろう。

 だとしたら、なぜ、突然、問いかけたのだろうか。

 アキリオは、思考を巡らせた。


「もしかしたら……」


 アキリオは、気付いたようだ。

 なぜ、モノカが、セイナの事を聞いたのか。

 アキリオは、リュンに説明し、相談に乗ってくれた事に対して、お礼を言い、去っていった。



 その後、モノカが帰宅し、夕飯を食べる。

 いつもの和やかな会話をしているが、どこか、ぎこちなく感じる。

 やはり、モノカは、気にしているようだ。

 今朝の事を。

 夕飯を済ませたモノカは、すぐさま、部屋に戻り、椅子に座った。


「はぁ、なんで、あんなこと聞いちゃったんだろう……」


 モノカは、反省しているようだ。

 セイナの事は、聞いてはいけないと感じていた。

 彼女は、アキリオの前から、姿を消している。

 ゆえに、セイナのことについて尋ねれば、アキリオを傷つけてしまうことになるだろうと。


「気になったんだよね……」


 アキリオの過去を夢で見て、気になってしまったのだ。

 セイナが、どんな人だったのだ。

 モノカは、ため息をつく。

 だが、その時だ。

 ノックの音が聞こえてきたのは。


「モノカ、ちょっといい?」


「あ、うん」


 アキリオが、部屋に入っていいか尋ねる。

 モノカは、戸惑いながらも、うなずき、アキリオは、部屋に入った。


「どうしたの?」


「モノカに聞きたいことがあってね」


「え?」


「もしかして、僕の過去を夢で見たのかな?」


「え!な、なんで、そう思うの?」


 アキリオは、モノカに問いかける。

 自分の過去を夢で見たのではないかと。

 気付かれてしまったモノカは、思わず、飛びあがり、驚愕した。

 なぜ、気付いてしまったのだろうと。


「わかるよ。モノカは、僕の家族なんだから」


「そうだよね……」


 簡単なことだ。

 アキリオとモノカは、家族だ。

 血がつながっていなくても。

 ずっと、一緒に暮らしてきた。

 だからこそ、モノカの心情がわかるのだ。

 モノカも、納得したようだ。


「無意識にだよ?無意識に見ちゃったの」


「わかってる」


 モノカは、必死にアキリオに話す。

 アキリオの過去を知りたくて、見たわけではない。

 無意識だったのだ。

 アキリオも、理解している。

 モノカが、夢を見た時は、お客の悩みを解決したいと願った時に魔法を発動するからだ。

 もちろん、どうしても、気になったり、助けたいと強く願うと無意識に発動してしまうらしい。

 今回は、後者だとアキリオは、悟っていた。


「そう言えば、詳しい事、話したことなかったよね?」


「うん」


「気になる?」


「すごく……。ずっと、聞かないようにって思ってたんだけど……」


 アキリオは、モノカに問いかける。

 セイナの事が気になるのかと。

 モノカは、うなずいた。

 正直、すごく、気になっていたようだ。

 それでも、アキリオの事を思って聞かないようにしていた。

 今も、ためらっている。

 聞いてはいけないことだと察しているのであろう。

 モノカは、本当に優しい子だ。

 アキリオは、そう感じながら、モノカの頭を優しくなでた。


「いいよ、教えてあげる」


「いいの?」


「うん。ちょっと、待っててね」


 アキリオは、モノカに告げる。

 セイナの事を話すようだ。

 モノカは、アキリオに問いかけるが、アキリオはうなずく。

 すると、アキリオは、部屋を出て、自分の部屋へに入った。

 すぐに、モノカの部屋に入ってきたアキリオは、モノカに歩み寄った。


「はい」


 アキリオは、モノカに写真を見せる。

 写真に写っていたのは、アキリオと金髪の女性。

 長い金髪のウェーブが、美しさを物語っているようだ。

 どうやら、二人は、「モン・トレゾール」で写真を撮ったらしい。

 二人とも、穏やかな表情を浮かべている。

 おそらく、「モン・トレゾール」ができた時に、撮ったのだろう。


「この人が、僕の恋人で、前にここで働いてたセイナだよ」


「綺麗……」


 アキリオは、モノカに説明する。

 その写真に写っている女性こそが、セイナだったのだ。

 やはり、モノカによく似ている。

 笑っている顔は、特に。

 モノカは、セイナに見とれているようだ。

 本当に、彼女は、美しかった。

 特に、彼女の笑みは、心を癒してくれた。

 モノカのように。


「僕が、彼女と出会ったのは、学生時代の時なんだ」


 アキリオは、椅子に腰かけ、語り始める。

 それは、アキリオにとって運命の出会いであり、幸せな思い出でもあり、悲しく、辛い思い出でもあった。

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