第二十話 嫉妬
「あ、あの、えっと、それって……どういう意味でしょうか?」
トウハに、残酷な言葉を突きつけられたモノカは、困惑してしまう。
アキリオが、モノカを家族と思っていないというのは、どういう意味なのだろうか。
そんなモノカに対して、苛立ちを見せるトウハ。
こんなに冷たく言い放っても、理解できない事が、腹立たしいのだ。
「あら、まだ、わからない?アキリオ君が、貴方を雇った理由は、同情したからでしょ?」
トウハは、さらに、モノカに冷たく言い放つ。
アキリオが、モノカを雇った理由は、モノカに同情したからなのだと。
なぜ、そのような事を言いだしたのか、モノカは、見当もつかず、戸惑っていた。
「かわいそうにと思ったんでしょうね。だから、仕方なく雇ったのよ」
アキリオは、モノカを必要としていたからではなく、同情したから、仕方なしに雇ったのだとトウハは告げる。
モノカは、驚愕して、トウハを見るが、トウハの瞳は、冷たい。
まるで、魔女のようだ。
自分を嫌っているのだろうか。
そんなモノカに対して、トウハは、まだ、続けた。
「それに、貴方、セイナに似てるからよ」
「セイナ、さんに?」
トウハは、モノカが、セイナに似ているからだと告げた。
モノカは、戸惑いながらも、問いかける。
自分が、セイナに似ているというのを始めて知ったからであろう。
セイナが、どのような人かは、モノカも知らない。
写真を見たことがないのだから。
「ええ、アキリオ君とセイナは、どういう関係だったか知ってる?」
「……知らないです」
「そう、言わなかったのね」
モノカは、アキリオとセイナの関係性を知らない。
その事を知ったトウハは、不敵な笑みを見せる。
まるで、勝ち誇ったように。
「あの二人はね、恋人同士だったのよ」
「二人が……?」
トウハは、モノカに告げる。
二人は、恋人だったのだと。
モノカは、驚愕し、戸惑いながら、問いかけた。
「ええ。まぁ、セイナが、突然、姿を消したから、もう、別れたも同然でしょうけど」
モノカの問いにトウハは、肯定する。
と言っても、それは、過去の事だといいたいのであろう。
なぜなら、セイナは、アキリオの前から姿を消してしまったからだ。
だからこそ、トウハは、二人は、別れたも同然だといったのだ。
モノカは、言葉を失ってしまう。
冷たい言葉を突きつけられ、何も言えなくなったのであろう。
「だから、貴方は、セイナの代わりなのよ。自分と同じように、一人で、かわいそうで」
トウハは、さらに、冷たい言葉を突きつけた。
モノカは、同情されて、雇われた。
だが、彼女は、セイナの代わりなのだ。
家族として、接したいというのは、ごまかすため。
トウハは、そう言いたいのであろう。
これは、全て、偽りだ。
トウハが、モノカを店から、追いだすために。
嫉妬に狂って、モノカを追い詰めようとしたのだ。
しかし……。
「そっか。そうなんだ」
「え?」
「私、うれしいです」
「は?」
モノカは、意外な言葉を口にする。
うれしいと告げたのだ。
トウハは、あっけにとられ、混乱している。
なぜ、うれしいと口にできるのであろうか。
あれほど、冷たく、きつい言葉を突きつけられたというのに。
「な、なんで?強がってるの?」
「違います。セイナさんに似てるって言われた事が。なんだか、うれしくて」
トウハは、声を震わせながら、問いかける。
彼女の心情が読み取れないからだ。
モノカは、トウハの問いを否定する。
強がっているわけではない。
セイナに似ていると言われた事がうれしいのだ。
心の底から。
「意味が分からないわ」
「はい。でも、ごめんなさい。私も、理由は、言えないので」
トウハにとって、理解しがたい事なのだろう。
なぜ、セイナに似ていると言われた事が、うれしいのか。
モノカも、トウハの心情を察した。
だが、なぜ、うれしいと感じているのか、理由は、言えない。
モノカの秘密にかかわる事だからだ。
「それに、最初は、同情だったと思います。でも、アキ君、言ってくれたんです。私とは、家族として、接したいって」
モノカは、気付いていたのだ。
アキリオが、なぜ、自分を雇ったのか。
行くあてもない自分をかわいそうだと感じ、同情したのだろう。
だからこそ、住み込みで働かないかと提案してくれたのだ。
だが、アキリオは、モノカと接していくうちに、家族として、接したいと思うようになった。
それゆえに、アキリオは、モノカには、敬語ではなく、ため口で話してほしいと、「アキリオさん」ではなく、「アキ君」と呼んでほしいと頼んだのだ。
本当の家族になれるように。
モノカの感情が伝わったのか、トウハの表情が変わる。
まるで、我に返ったかのように。
「だから、私も、アキ君の事は、本当の……お、お兄さんだって思ってます」
モノカは、アキリオの事を本当の兄だと思っているようだ。
なんて、純粋な子なのだろうか。
自分の心が、ひどく汚れているのだと、トウハは、悟ってしまった。
「それに、私、アキ君に、お店を続けてほしいって思ってるから。私も、手伝います。ずっとじゃ、ないけど……」
モノカは、自然と自分の想いを口にしていた。
ずっと、とはいかないが、店を手伝いたいと。
その時だった。
トウハは、自然と涙をこぼし始めていたのは。
「ごめんなさい……」
「え?」
「ごめんなさい!!」
トウハは、逃げるようにその場を去った。
涙を流しながら。
モノカは、なぜ、トウハが、謝ったのか。
なぜ、涙を流していたのか、わからなかった。
「トウハ、さん?」
モノカは、トウハを追いかけようとするが、トウハは、人ごみの中に紛れ、姿を消してしまった。
これでは、探す事は、不可能であろう。
モノカは、トウハの事を心配しつつも、店に戻った。
店に戻ったモノカであったが、モノカの帰りが遅いと感じていたのか、アキリオは、何かあったのではないかとモノカに問いかける。
だが、トウハの事を話すことができず、モノカは、買い物に時間がかかってしまっただけだと、はぐらかした。
その日の夜。
モノカは、夢を見る。
それは、トウハの過去だ。
学生時代。
トウハは、セイナと楽しそうに話すアキリオを見ていた。
ただ、羨ましそうに。
まだ、セイナが、「モン・トレゾール」で、働いている頃、トウハは、店にも立ち寄った事があった。
幸せそうな二人を見て、羨ましく感じ、二人に知られないように、涙を流していた。
その後、セイナが、行方不明になったと聞かされたトウハは、怒りを露わにした。
それ以来、トウハは、セイナを憎んでいたようだ。
朝の光が、差し込み、モノカは、目を覚まし、起き上がった。
「今の、トウハさんの過去だ……」
モノカは、トウハが、どのような思いで過ごしてきたのかを知る。
友人だったセイナを憎んでしまった事も、悟って。
そう感じたモノカは、涙を流していた。
「ごめんなさい。トウハさん……」
セイナの過去、心情を知り、モノカは、謝罪した。
申し訳ないと感じて。
夢を見たせいかモノカの表情は暗い。
アキリオも、その事に気付いている。
だが、いくら、モノカに尋ねても、何でもないというだけであり、アキリオは、しばらく、様子を見ることにした。
仕事の方は、いつものように、明るい。
それゆえに、余計に心配になった。
昼頃、作業を終えたアキリオは、作業場から、店に入ってきた。
「モノカ、休憩、入ろうか」
アキリオは、モノカに話しかける。
だが、モノカは、上の空だ。
返事をしなかった。
「モノカ?」
「あ、ごめん」
「何かあった?」
「ううん、何でもない」
アキリオに再度、問いかけられたモノカは、やっと、気付く。
やはり、何かあったのだろう。
アキリオは、もう一度、問いかけるが、モノカは、何でもないと答える。
夕方になると、モノカは、買い出しに出かけ、アキリオは、店の片づけをし始めた。
――モノカ、どうしたんだろう。今日、元気なかったなぁ……。
アキリオは、外に出て窓ふきをしながら、モノカの事を考えている。
問いかけても、当の本人は、答えようとしない。
モノカは、いつも、抱え込んでしまうのだ。
だからこそ、アキリオは、余計に心配した。
その時であった。
「アキリオ君」
呼ばれたアキリオは、振り向く。
すると、アキリオの前に、トウハが立っていた。
「トウハちゃん。どうしたの?」
「あ、あの……モノカちゃんは?」
「今、買い物行ってるけど、モノカが、どうかしたの?」
トウハは、モノカの事を問いかける。
モノカの事が気になっているようだ。
しかし、なぜ、トウハが、モノカの事を気にするのだろうか。
「えっと……ちょっと、気になって……」
「そっか……」
トウハは、昨日の事が言えず、はぐらかしてしまう。
アキリオは、モノカの事を思い返していたのか、暗い表情を浮かべた。
「何かあったの?」
「うん、ちょっと、元気なかったから……」
トウハは、何かあったのではないかと悟り、アキリオに問いかける。
アキリオは、元気がなかったと答えた。
その瞬間、トウハは、察してしまった。
なぜ、元気がないのかを。
「私のせいだわ」
「え?」
「ごめんなさい」
突然、トウハは、アキリオに頭を下げて、謝罪する。
だが、アキリオは、見当もつかなかった。
なぜ、トウハが謝罪をするのか。
アキリオは、答えが見つからず、ただただ、困惑していた。
「私、昨日、モノカちゃんを、店から追いだそうとしたの」
トウハは、衝撃的な言葉を口にする。
なんと、トウハは、モノカを追いだそうとしたのだと。
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