第十五話 時の民
早朝、日の光がさし込み、起き上がるモノカ。
と言っても、今日は、「モン・トレゾール」は、休日であった。
「今日は、休日かぁ……こういう時って何すればいいんだろう……」
モノカにとって、休みはありがたいのであるが、暇でもある。
何か、やりたいことがあるというわけではないのだ。
魔法具が作れるわけでもない。
かといって、お店で、何かするというわけでもない。
モノカは、非常に困っていたのであった。
今日、一日をどうやって過ごすか、悩みながら、キッチンに入るモノカ。
すると、アキリオが、すでに、キッチンにおり、朝食の準備を済ませていた。
「おはよう」
「おはよう、アキ君」
「モノカは、いつも、早起きだね」
「うん、慣れたからかな」
お休みでも、早起きする二人。
当初は、あくびばかりしていたモノカであったが、体が慣れたようだ。
アキリオも、それを聞いて微笑んでいた。
「でもね、休日って何すればいいかわからないの」
「そうなんだ。いつもは、何してるの?」
「本を読んだりとか。いつも、図書館に行ってる。魔法の事も勉強してる四」
「そっかぁ」
休日は、何をしたらいいかわからず、苦笑しながら、アキリオに、語りかける。
アキリオは、今まで、休日は、何していたのかを尋ねると、モノカは、図書館にいたようだ。
魔法の事などを勉強しているのだという。
熱心だなと、感心するアキリオであった。
「アキ君は?」
「僕は、魔法具の材料を買いに行ってるんだよ」
「そうなんだ」
今度は、モノカが、アキリオに問いかける。
休日、アキリオは、外に出かけているのをモノカは知っているが、今まで、どこへ出かけていたのかまでは知らなかった。
アキリオは、魔法具の材料の買い出しに出かけているようだ。
それを聞いたモノカは、興味が湧き始めたようで、じっと、アキリオを見つめている。
アキリオは、モノカの心情を察した。
「今日、行くけど、一緒に行く?」
「うん!!」
アキリオは、モノカを誘うことにした。
せっかくの休日だ。
モノカと出かけるのも楽しそうだ。
アキリオは、そう、思っていた。
モノカも、嬉しそうにうなずく。
アキリオと出かけるのは、初めてだ。
ゆえに、楽しみで仕方がなかった。
朝食を済ませ、支度を整えたアキリオとモノカは、店から出る。
アキリオが連れていった場所は、シエル大通りにある魔法具の材料の専門店だ。
「モン・トレゾール」よりかは、広いが、さほど、大きいお店ではない。
だが、「シエル」が、設立されたころから、やっているという。
品ぞろえが豊富であり、アキリオも、いつしか、常連となっていた。
「おはようございます」
「おはよう、アキリオ君。あら?」
専門店に入ったアキリオとモノカ。
そこにいたのは、中年の女性だ。
その女性は、アキリオの事を可愛がってくれている優しい人だ。
アキリオを見るなり、嬉しそうに微笑む女性。
すると、アキリオの隣にいるモノカが視界に入った。
「おはようございます」
「可愛らしい子ね。彼女?」
「違いますよ。でも、家族です」
「はい」
女性は、アキリオをからかう。
だが、アキリオは、それをさらりとかわし、大真面目に家族だと答えた。
アキリオに冗談は通じないのだ。
モノカも、女性が、からかっているとは知らず、嬉しそうにうなずく。
二人のやり取りは、ほほえましく、女性は、ぷっと吹き出しかけてしまうが、二人に悟られないように、静かにうなずいていた。
「で、今日は、何が欲しいのかな?」
「鉄の砂と羽と、あと、赤色の魔法の砂をください」
「OK」
女性は、アキリオ達に背を向け、ツボを開ける。
女性の後ろに多くのツボが並んでると思っていたが、どうやら、魔法具の材料が入っているようだ。
女性は、鉄の砂と羽を取り出した。
しかし……。
「あら?」
「どうされました?」
「鉄の砂と羽ならあるんだけど……赤色の魔法の砂が、切らしててね」
「そうなんですか」
女性は、困惑した様子であったため、アキリオが、問いかける。
どうやら、赤色の魔法の砂が切らしているようだ。
いつもなら、材料の補充は完璧にしている。
ゆえに、アキリオは、あっけにとられながらも、承諾した。
「あ、そう言えば、シエルの人が大量に買ったからね。新作の研究に使うとかなんかで」
「そう、ですか……」
「アキ君?」
女性曰く、「シエル」の社員が大量に買っていったようだ。
それで、赤い色の魔法の砂がないらしい。
アキリオは、納得しながらも、どこか、歯切れの悪い返事をしてしまう。
モノカは、アキリオの様子に気付いたようで、アキリオの顔を見上げていた。
「赤色の魔法の砂は、また、今度にします」
「悪いねぇ」
アキリオは、鉄の砂と羽だけを買い、専門店を出た。
だが、やはり、どこか、様子がおかしい。
大丈夫だろうか。
モノカは、不安に駆られていた。
「アキ君、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
モノカは、アキリオに問いかける。
アキリオは、大丈夫だというが、無理をしているように思えてならなかった。
「モノカは、他に行きたいところある?一緒に行こうか?」
「うん、いいね。でも、また、今度でいい」
「え?」
アキリオは、モノカに、どこか行きたいところはないかと問いかける。
気分を変えようとしているのであろう。
モノカの為に。
だが、モノカは、今度でいいと断る。
アキリオは、驚き、きょとんとしていた。
「アキ君、無理してるから。また、今度でいい」
「ごめん」
「いいよ」
モノカは、アキリオに気を遣ったのだ。
アキリオは、なぜ、様子がおかしいのかは、わからない。
だが、問うつもりはなかった。
言えない秘密を抱えているのは、モノカも同じだから。
モノカに気を遣わせてしまったと悟ったアキリオは、モノカに謝罪する。
モノカは、笑顔で、うなずいた。
「じゃあ、お礼に、魔法を教えてあげようか」
「いいの?」
「うん」
「やったぁ!!」
アキリオは、モノカに魔法を教えるという。
モノカは、嬉しそうに尋ねた。
魔法を習いたいのであろう。
アキリオは、うなずくと、モノカは、嬉しそうにはしゃいだ。
モノカは、しっかりしていて、大人びているとはいえ、やはり、まだ、十代の少女だ。
はしゃぐ姿は、愛らしく思える。
アキリオは、そんなモノカに救われた気がした。
「帰ろう」
「うん」
アキリオは、モノカを連れて、「モン・トレゾール」へ戻ろうとした。
だが、その時だ。
一人の老年の男性が、アキリオの方をじっと見ていたのは。
「あれは、アキリオ?」
老年の男性は、アキリオを知っているようだ。
彼の名は、ジン。
魔法具の会社、「シエル」の社長だ。
ジンは、社長秘書の女性とシエル大通りに来ていたのだが、アキリオを目にした途端、立ち止まってしまった。
社長秘書の女性は、ジンの様子に気付いた。
「社長、どうされました?」
「いや、何でもない。そう言えば、例の計画はどうなっている?」
「はい、順調に進んでおります。交渉の段階には入っていませんが、そろそろ、動くつもりです」
社長秘書の女性に問いかけられたジンは、何でもないと告げる。
だが、二人のやり取りにあった例の計画とは、何だろうか。
社長秘書の女性は、淡々と語っていたが。
「わかった」
社長秘書の返答を聞いたジンは、冷静さを保ちながら、歩き始めた。
アキリオから遠ざかるように。
店に戻ったアキリオは、魔法具の作り方をモノカに教えていた。
まずは、魔法石を作る魔法・シャルム・ビジューからだ。
アキリオの教えてもらった通りにモノカは、魔法を発動する。
だが、魔法の砂は、まとまろうとせず、うまく、形にならなかった。
「うーん。うまくいかないなぁ」
「はじめは、誰だって、うまくいかないよ」
「でも、夢で、過去を見ることはできたのに……」
魔法を唱えるというのは、容易ではない。
アキリオも、何度も、練習を積み重ねたからこそ、できるようになったのだ。
だが、モノカは、それゆえに、疑問に思った事がある。
それは、夢で過去を見る魔法・レーヴ・パッセを唱えることができることだ。
レーヴ・パッセも、高度な魔法であろう。
アキリオでさえも、唱えられないのだから。
だからこそ、疑問を抱いたモノカであった。
「たぶん、モノカが、時の民だからじゃないかな?」
「時の民?」
「あ、えっと……」
アキリオは、モノカが、「時の民」だからではないかと、教える。
だが、「時の民」と言う言葉は、モノカは、聞いたことがない。
アキリオに問いかけるモノカであったが、アキリオは、我に返ったかのように、戸惑っていた。
まるで、無意識のうちに、その言葉を口にしたかのようだ。
アキリオは、一呼吸し、心を落ち着かせ、語り始めた。
「昔ね、時の神様が、人々にある魔法を与えたって言う話があるんだよ。その魔法は、過去へ行くとか、時を止めるって言う魔法じゃなかった」
「もしかして、その魔法って……」
「うん、レーヴ・パッセ」
アキリオは、聞いたことがあったのだ。
かつて、ここで働いていた女性・セイナから。
時の神が、一部の人々にある魔法を与えたらしい。
だが、それは、過去や未来へ行ける魔法や時の流れを変える魔法ではない。
人々の過去を夢で見る魔法・レーヴ・パッセだったというのだ。
「その魔法を使って、人々の悩みを解決したんだって。だから、その人達は、時の民って呼ばれるようになったらしいよ」
「そうなんだ。素敵だね」
「そうだね」
アキリオの話を聞いたモノカは、嬉しそうな表情を浮かべる。
単なる御伽噺だと、笑われるかと思っていたが、信じてくれたようだ。
アキリオは、それが、うれしくてたまらなかった。
「でも、他の魔法も覚えて、魔法具が作れるようになりたい」
「教えるよ、いくらでも」
「うん」
自分が、「時の民」と呼ばれる者であっても、モノカは、魔法を使えるようになりたいと願った。
もちろん、アキリオは、断るわけがない。
モノカにも、知ってほしいのだ。
そして、いつしか、モノカが作る魔法具を手にしてみたいと、アキリオは、心の底から、願っていた。
――やっぱり、モノカがいてくれて、良かった。モノカのおかげで、心が落ち着いたよ。ありがとう、モノカ。
買い物の途中、「シエル」と言う言葉を聞いて、気持ちがモヤモヤしてしまったアキリオであったが、モノカのおかげで、気持ちが落ち着いたようだ。
アキリオにとっても、モノカは心の支えであり、モノカにとっても、アキリオは心の支えなのだろう。
お互いが、お互いを支え合い、必要としている。
だからこそ、「モン・トレゾール」は、潰れることなく、経営が続いているのだろう。
そして、これからも……。
アキリオとモノカは、微笑みながら、魔法具を作っていた。
そのころ、リュンは、病院にいた。
病室に入ったリュン。
誰かのお見舞いに来たらしい。
病室にいたのは、眠りについている老婆であった。
「ばあちゃん……」
リュンは、辛そうな表情を見せる。
なんと、病室にいたのは、リュンの祖母であった。
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