第十三話 悩みを抱えたまま

 早朝、アキリオは、あくびをしながら、キッチンへ入ろうとするが、モノカと出会った。


「モノカ、おはよう」


「あ、アキ君、おはよう……」


 いつものように、挨拶を交わす、アキリオ。

 だが、モノカは、浮かない表情を浮かべている。

 夢を見れなかったのだろうか。

 アキリオは、モノカを心配し、モノカに歩み寄った。


「夢は、見れたかな?」


「あ、うん」


 アキリオは、モノカに確認するように、尋ねると、モノカは、うなずく。

 嘘をついているようには見えない。

 つまり、夢は、見れたようだ。

 だが、モノカは、暗い表情を浮かべている。

 なぜなのだろうか。

 女性の過去は、それほど、悲しいことだったのだろうか。


「何かあった?」


「何でもないよ」


 アキリオは、モノカに、何かあったのではないかと尋ねるが、モノカは、否定する。

 どうやら、何か、隠しているようだ。

 アキリオは、モノカの心情を察した。


「どんな夢を見たか、聞いてもいい?」


「……」


――困ってる?


 アキリオは、どのような夢を見たか、モノカに尋ねるが、モノカは、黙ってしまう。

 困惑しているようだ。

 どうやって、答えればいいのか、わからないのであろう。

 モノカの心情に気付いたアキリオは、これ以上、問いかけることはせず、モノカの頭を優しくなでた。


「まぁ、無理にとは、言わないから。話したいときに話してよ」


 アキリオは、優しく、告げると、モノカは、静かにうなずく。

 やはり、今は、語りたくないのであろう。


「さて、朝ごはん食べたら、準備するよ」


 アキリオは、モノカと朝食を準備しようとキッチンに入ろうとする。

 だが、モノカは、立ち止まったままだ。

 どうしたのだろうか。

 アキリオは、振り向き、モノカの様子をうかがう。

 その時であった。


「ねぇ、アキ君」


「ん?」


「お願いが、あるんだけど……」


「どうしたの?」


「明日、休みもらえない?」


「え?」


「駄目、かな?」


 モノカは、アキリオに明日、休みたいと懇願する。

 突然だったので、アキリオは、驚いていた。

 彼の様子を見たモノカは、やはり、駄目なのかもしれないと、悟り、問いかける。

 驚いていたアキリオであったが、反対はしなかった。

 アキリオは、静かに、モノカに歩み寄り、モノカの頭を優しくなでた。


「いいよ。モノカ、頑張ったもんね」


「ありがとう……」


 アキリオは、休息を許可した。

 モノカが、今まで、頑張ってくれたのもある。

 それに、モノカは、夢について、何か、知っているからだと察したからだ。

 モノカは、少しだけ、微笑んだ。

 安堵したのであろう。

 アキリオに、休息を許可してもらえて。

 その後、アキリオとモノカは、お店を開き、仕事に励んだ。

 アキリオは、モノカの様子をうかがっていたが、異変は見当たらない。

 迷惑をかけないように、感情を押し殺しているのかもしれない。

 だが、アキリオにとっては、不安だった。

 大丈夫なのかと。



 次の日、モノカは、朝から外に出て、夕方になると戻ってきた。

 一日、何をしていたのだろうか。

 アキリオは、モノカに問いかけようとするが、モノカは、部屋に閉じこもってしまったのだ。

 食事も、部屋で取るようになってしまった。

 次の日も、次の日も。

 アキリオは、モノカを心配し、声をかけるが、大丈夫の一点張りであった。



 次の日。

 今日は、お店は、休日だ。

 アキリオは、魔法具の材料を買いに、シエル大通りに向かい、買い物をして、戻っていく途中であった。


――どうしたんだろうな、あの子。ずっと、閉じこもって……。


 アキリオは、モノカの事を心配しているようだ。

 だが、モノカは、何も語ろうとしない。

 ずっと、閉じこもりっきりだ。


――彼女の事で、何かわかったのかな……。


 アキリオは、魔法具を依頼した女性の事で、モノカは、何か、知ったのだと推測している。

 と言っても、モノカが話してくれなければ、わからないままであろう。

 アキリオは、モノカに尋ねるか、はたまた、自分で女性の心情を読み取るしかないと考えながら、店にたどり着いた。

 だが、その時であった。


「アキリオ?」


「あ、リュン」


 アキリオは、リュンに遭遇する。

 リュンは、バケットを手に持っていた。

 どうやら、アキリオに差し入れを持ってきたようだ。


「どうしたんだよ」


「魔法具の材料の買い出し」


「そっか」


 リュンは、アキリオに尋ねる。 

 アキリオが、外に出る事は、滅多にないからだ。

 アキリオは、材料が入った袋をリュンに見せながら、答え、リュンは、納得した。


「モノカちゃん、元気?」


「あ、うん……」


「あれ?なんか、あった?」


 リュンにモノカの様子について、質問されたアキリオであったが、アキリオは、歯切れの悪い答え方をしてしまう。

 アキリオの様子を見て、リュンは、察したようだ。

 何かあったのではないかと。


「実は、モノカ、最近、部屋にこもりっきりでね……。仕事は、うまくいってるんだけど……」


 アキリオは、正直に話しだす。

 モノカの様子を。

 仕事は、本当にうまくっているのだ。

 何事もなかったかのように。

 だが、仕事が終わり、家事を終えると、モノカは、部屋に引きこもってしまう。

 アキリオと共に食事をすることなく、部屋で食べると言って。


「そっかぁ。なんか、調べ物してるのかな。この前も、図書館にいたみたいだし」


「え?図書館?」


「おう。三日ぐらい前だったかな。母ちゃんが、見かけたらしくて……」


 アキリオの話を聞いていたリュンは、モノカが、図書館にいたという事をアキリオに告げた。

 これには、さすがのアキリオも、驚いているようだ。

 まさか、モノカが、図書館に行っていたとは、想像もしていなかったのだろう。

 リュン曰く、モノカは、三日前くらいに図書館に行ったらしい。

 彼女を、リュンの母親が、目撃したようだ。


――モノカが、休んだ日だ。


 アキリオは、その日は、モノカが休んだ日だと推測する。

 やはり、モノカは、彼女の過去を知り、調べ物をしていたようだ。

 今も、悩んでいるのかもしれない。

 解決策が見いだせずに。


「そっか、ありがとう。モノカに、聞いてみるよ」


「おう」


 アキリオは、もう一度、モノカに尋ねる事を決意した。

 きっと、今も、一人で、抱え込んでいるのであろう。

 自分が、寄り添う事で、解決策を見いだせるかもしれない。

 アキリオは、リュンにお礼を言って、バケットを受け取り、お金を渡す。

 リュンは、何があったのかは聞かず、にっと、笑みをアキリオに向けた。



 モノカは、部屋で閉じこもっている。

 考えているのは、あの女性の事だ。

 あの女性の願いを叶える為に、ずっと、思考を巡らせていたのだ。

 しかし……。


「はぁ……」


 モノカは、ため息をつく。

 願いを叶える方法が思いついていないのだ。

 あの夢を見た時から、ずっと。

 アキリオに、相談するべきか否か、迷っていたのだが、もし、アキリオでさえも、方法が見つからなかったらと思うと、モノカは、言いだせなかった。


「どうしよう……」


 モノカは、涙ぐみそうになりながらも、手で涙を強引に拭う。

 泣いてはいけない。

 まだ、あきらめてはいけないと、自分に言い聞かせながら。

 そうでなければ、あの女性の願いを叶える事ができなくなってしまうと考えたのだろう。

 だが、その時であった。

 コンコンとノックの音が聞こえたのは。


「モノカ、ちょっといい?」


「あ、アキ君……えっと……」


 アキリオは、モノカの部屋を訪れたのだ。

 モノカに話を聞こうとしているのであろう。

 モノカは、ためらってしまう。

 相談するべきなのか、迷っているのだ。

 しかし……。


「じゃあ、このまま、聞いて」


「うん」


 アキリオは、モノカに部屋から出ず、そのまま、聞いてほしいと伝える。

 尋ねてきたわけではないのだろうか。

 モノカは、戸惑いながらも、うなずいた。


「……一人で、抱え込んじゃ駄目だよ」


「え?」


「一人で、悩んでても、解決できない時ってあるんだ。僕も、そう言う経験したことあるから。だから、もし、どうしたらいいかわからない時は、話していいんだよ。一緒に、考えてあげるから。僕は、君の家族なんだから」


 アキリオは、モノカに語りかける。

 モノカが、ずっと、一人で悩んでいた事を考慮しての事だ。

 一人では、解決できない時もある。

 それは、アキリオも、わかっていた。

 だからこそ、頼ってほしいのだ。

 自分達は、「家族」なのだから。

 「家族」と言う言葉を聞いたモノカは、顔を上げる。

 そして、何も言わずに、扉の前に立ち、扉を開けた。


「アキ君、どうしよう……」


「モノカ……」


 モノカは、顔を上げ、涙を流し始める。

 アキリオは、モノカが、ずっと、一人で悩んでいたのだと、改めて、気付いた。


「あの人の願い、叶えられないかもしれない」


 モノカは、衝撃的な言葉を口にする。

 なんと、女性の願いを叶えられないかもしれないというのだ。

 モノカは、どのような夢を見たのだろうか。

 そして、女性は、何を隠しているのだろうか。

 アキリオは、モノカの頭を撫でながら、心を落ち着かせ、話を聞くことにした。

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