第四話 オーダーメイド、再開

 モノカと男性を助けたアキリオ。

 騒ぎが収まらない中、警察が駆け付け、事情聴取が、行われた。

 男性は、反省したようで、頭を何度も下げ、警察も、二度とこのような事がないようにと厳重注意をして、終了となった。

 アキリオは、ひとまず、モノカと男性を自分の店へと連れていく。



 店に戻ったアキリオは、紅茶をモノカと男性に差し出した。

 だが、モノカも、男性も、ティーカップを手に取ろうとしない。

 気まずい空気が流れ始めた。

 しかし……。


「本当に、申し訳ございませんでした」


「いえ、お怪我がなくてよかったです」


 男性は、アキリオに頭を下げる。

 迷惑をかけてしまったと思っているのであろう。

 だが、アキリオは、気にも留めていなかった。

 モノカと男性が無事だったのだ。

 怪我がなくて、良かったと安堵しているのであろう。

 それに、男性は、何か、深刻な事があったに違いない。

 ゆえに、アキリオは、男性を咎めるつもりはなかった。


「お嬢ちゃんも、ごめんね」


「いいえ、大丈夫ですよ」


 男性は、モノカにも頭を下げる。

 モノカを巻き込んでしまった事を悔いているようだ。

 同時に、モノカに助けられ、感謝しているのであろう。

 男性の声色から伝わってくる。

 ゆえに、モノカも、男性を咎めるつもりはなく、微笑んでいた。


「あの、もしよかったら、話を聞かせてもらえませんか?」


「はい……」


 アキリオは、男性に問いかける。

 何があったのか、気になったのであろう。

 以前、アキリオは、お客の悩みを聞き、オーダーメイドを作っている。

 ゆえに、男性の事が放っておけなかったのだ。

 男性もうなずき、ゆっくりと語り始めた。 


「実は、詐欺の被害にあってしまって、借金を作ってしまったんです。妻と子供がいたのですが、いなくなってしまったんです」


「そうでしたか」


 男性には、家族がいたようだ。

 子供も生まれ、順風満帆だったという。

 しかし、ある時、男性は、詐欺にあい、借金を作ってしまったようだ。

 それが原因で、妻と子供は、姿を消してしまったという。

 男性にとっては、悲しい過去だ。

 妻と子供が姿を消し、借金だけが、残ってしまったのだから。

 アキリオは、男性に同情した。


「私は、妻に何度も、やり直そうと説得したのですが……」


 男性は、妻と子供の居場所を調べ、会いに行ったようだ。

 だが、門前払いを食らってしまったらしい。

 男性は、続きを語ろうとしなかったが、アキリオは、察した。

 しかし、男性は、被害者だというのに、なぜ、妻は、彼の元から去ったのであろうか。

 共にやり直すという選択肢もあったはずだ。

 アキリオは、疑問を抱き始めた。


「もう、何もかも、あきらめて、命を絶とうとしたんです」


 男性は、全てに絶望し、命を絶とうとしたようだ。 

 シエル通りのビルの屋上から。

 アキリオとモノカは、それ以上、何も言葉にできなかった。

 慰める事も、励ます事も、できずに……。


「ですが、こちらのお嬢ちゃんの言う通りでした。命を無駄にしてはいけなかったですね」


 自ら命を絶とうとした男性であったが、モノカの説得により、もう一度、やり直す事を決意したらしい。

 男性は、アキリオとモノカに感謝しているのであろう。

 やり直すチャンスを二人は、くれたのだから。

 しかし……。


「何とかして、説得できればいいんですが……」


「そう、ですね……」


 問題は、妻と子供を説得する事だ。

 門前払いを食らっているという事は、今後、会いに行ったとしても、会ってくれそうにないだろう。

 いくら、男性が、借金を返したところで。

 アキリオは、彼の願いをかなえてあげたい。

 だが、それには、少々、難があった。

 方法が見つからず、うなだれる男性。

 しかし、男性の目には、アキリオが作った魔法具が目に映った。

 装飾品が美しく、どれも、宝石のようだ。

 まるで、宝物が、置かれているかのように。

 店の中を見回した男性は、ある事を思い浮かんだようで、アキリオの方へと視線を移した。


「そ、そう言えば、貴方は、オーダーメイドを作ってくれるんですよね?」


「そ、その事なんですが……」


 男性は、気付いたようだ。

 ここは、魔法具店であり、しかも、オーダーメイドを発注できると。

 それほど、「モン・トレゾール」は、有名だという事だ。

 だが、それは、前の話。

 今は、品ぞろえも少なく、オーダーメイドもやっていない。

 アキリオは、申し訳なさそうな表情を浮かべ、男性にそのことを説明しようとした。

 しかし……。


「お願いします!!家族が、戻ってくるような魔法具を作ってほしいんです!!い、今は、お金がありませんが、必ず、お支払いしますから!!」


 アキリオが、説明しかけた時、男性は、突然、床に、手と膝をつき、頭を下げて、懇願し始めた。

 お金のないのに、オーダーメイドを作ってほしいなど、無茶苦茶もいいところだというのは、男性も、わかっている。

 だが、もう、それしか方法はない。

 アキリオに助けを求めるしかなかったのだ。

 やり直すには、アキリオの魔法具が必要であった。


「そうしたいんですけど、一人では、難しいんです。作る時間も、限られてきますし、店番もありますから」


「そうですか……」


 アキリオも、男性を助けたい。

 魔法具があれば、男性の願いを叶えられるであろう。

 だが、アキリオ、一人では、難しいのだ。

 高度な魔法具を作るには、時間がかかる。

 その時間が、圧倒的に足りない。

 店を休めば、作ることもできるが、売り上げが乏しい、今、それは、できない。

 ゆえに、アキリオは、断るしかなかった。

 店の現状を悟った男性は、残念そうに、うなずく。

 これ以上、無理強いはしてはいけないと察したのであろう。

 だが、その時であった。


「あ、あの!!」


 モノカが、意を決したかのように、アキリオに声をかける。

 一体どうしたのだろうか。

 アキリオと男性は、モノカの方へと視線を向けた。


「み、店番をしてくれる人がいたら、オーダーメイド、作れますか?」


「え?あ、うん……」


 モノカは、察したようだ。

 従業員がいれば、アキリオは、オーダーメイドを作る事に集中できる。

 つまり、男性を助けられるかもしれないと。

 そう思ったモノカは、決意を固め、アキリオに尋ねる。

 アキリオは、戸惑いながらも、モノカの質問に答えた。


「なら、住み込みで、働かせていただけませんか?そしたら、作れますよね?」


「そ、そうだね……」


「こ、ここで、働かせてください!!」


「お、お願いします!!」


 モノカは、さらに、アキリオに問いかけ、アキリオは、うなずく。

 これを聞いたモノカは、頭を下げて、懇願する。

 住み込みで働かせてほしいと。

 男性も、慌てて、頭を下げる。

 ここまで頼まれたら、アキリオも、断るつもりはない。

 むしろ、うれしいくらいだ。

 モノカや男性の力になれるのだから。


「わかりました。承りましょう。モノカちゃんも、よろしくね。」


「あ、ありがとうございます」


「ありがとうございます!!オーナーさん!!」


 アキリオは、男性の為にオーダーメイドを作る事を決意した。

 そして、モノカを雇う事を。

 モノカと男性は、嬉しそうにアキリオにお礼を言う。

 心の底から。

 それが、伝わったのか、アキリオも、微笑んだ。


「ですが、少し、お時間をもらえますか?」


「はい!!もちろんです!!」


 アキリオは、男性に懇願する。

 オーダーメイドを作るのは、容易ではない。

 お客の願いを叶える魔法具なのだから。

 繊細な作業と言っても過言ではないだろう。

 もちろん、男性は、承諾する。

 家族に会う機会を与えてもらえるのだ。

 反対するわけがなかった。

 アキリオは、男性の連絡先を聞き、男性は、お礼を言って、店を出た。

 アキリオとモノカに見送られて。

 こうして、アキリオは、モノカを従業員として雇い、オーダーメイドを再開させた。



 お店を閉めたアキリオは、モノカと夕飯の買い物に出かける。

 そこで、リュンの元を立ち寄り、これまでの事を語った。


「そっかぁ。オーダーメイド、やることにしたんだな!!」


「今回だけ、ね」


 話を聞いたリュンは、嬉しそうだ。

 当然であろう。

 アキリオが、オーダーメイドを再開するというのだ。

 しかも、モノカを従業員として雇う。

 つまり、店が、以前のように、繁栄するという事だ。

 店の危機を感じていたリュンにとっては、喜ばしいことなのだろう。

 と言っても、オーダーメイドは、あくまで、一時的なものだ。

 今後、続けるつもりはないらしい。

 それでも、リュンは、うれしかった。


「で、時間をもらいたいって言ったってことは、その人、訳ありって事?」


「まぁ、そうなるかな」


「訳あり?」


「アキリオは、人の心情を読み解く魔法が使えるんだよ」


 アキリオが、時間をもらいたいと男性に懇願したのには、理由があった。

 男性は、訳ありらしい。

 と言っても、モノカには、その訳ありと言うのが、どういう事なのか、見当もつかない。

 モノカの問いに、リュンが、説明する。

 アキリオは、人の心情を読み解く魔法を発動できるようだ。

 魔法の名は、「クラルテ・オイユ」と言う。

 おそらく、高度な魔法の一種なのであろう。


「すごいですね!!オーナーさん」


「あ、うん。あのさ、アキリオでいいよ?」


「あ、はい。アキリオさん」


「う、うん」


 リュンの話を聞いたモノカは、感激する。

 先ほどの宙に浮かせる魔法と言い、一般では、発動する事は、容易ではないのだ。

 それをアキリオは、発動できるとなると、才能の一つなのであろう。

 アキリオは、照れながらも、モノカに、オーナーではなく、アキリオと呼んでほしいと頼む。

 オーナーと呼ばれるのに、慣れていないからだ。

 モノカは、うなずき、アキリオさんと呼ぶ。

 だが、なぜだろう。

 アキリオは、さん付けでも、違和感を覚えた。

 不思議な事に。


「でも、読み解くの時間がかかる人もいるんだ。今回の人は、何か、隠してるみたいだから。それが、本当の願いなのか、知りたくてね」


「そうなんですね」


 人の心情を読み解くのは、アキリオでさえも、容易ではない。

 本心を隠している人間もいるからだ。

 そう言った人間は、時間がかかる。

 ゆえに、アキリオは、時間が欲しいと懇願したのだ。

 男性の願いを叶える為に。


――まぁ、この子も訳ありみたいだけどね……。


 アキリオは、密かに、モノカの心情も読み解こうとしていた。

 彼女の事が、気になったのだろう。

 だが、彼女も、訳ありらしい。

 ゆえに、アキリオが、彼女の真実にたどり着くには、まだまだ、時間がかかりそうであった。

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