開花
昨晩の夜遊びの末、自らのベッドへとボロボロになりながら倒れ込むドレスの女。いや、男が一人。倒れ込むなり、すうすう……と寝息を立てて眠り始めた。
そこに、カツンカツン、と小さく革靴の男。いや、女がベットへと近づいてくる。女は起こさないようにベットの縁へと腰を下ろし、化粧の残る寝顔へと唇を近づけ……
「王子、また無断で街に出たでしょう!?」
メアリーが叫んだ。
メアリーにドレスを脱がされ、ブラジャーとパンティだけの王子は不機嫌そうに、
「ゆっくり寝かせてくれよ……オレは疲れてるんだ」
「何が疲れているですかっ、夜遊びしなければ疲れないでしょうに!」
「だから、耳元で叫ぶな!!」
王子のウィッグが外れる。王子は外れたウィッグを拾うと
「だってよ~。新しいウィッグとドレスがあったら、着たくなるものだし。誰かに見てもらいたいじゃん」
いじめっ子のような目で
「あの有名な マ リ ー ・ ス ー 様の作品だからなあ~」
メアリーに手渡す。
「こんな素晴らしい服を作ったり、更にウィッグまで作れるのだから、さぞや女性らしい気品あふれる、ステキなヒト、なのでしょうねえ~」
メアリーの眉がピクピクし始める。
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話は2,3日前にさかのぼる。
王子はメアリーとともに街のバーへとやってきていた。静かな雰囲気で、マスターは不必要なことを喋らない。男として来てたときには、色々な女をここに連れてきていた。王子はいつもバーを経営する人がいるのならば、このマスターを手本にすべきだと言っていた。間違いなく、女の前で「王子、昨日と違う女性ですね」なんて、絶対に言ってはならない。王様や王子が変わっていれば、国民も基本的に変わっているのだ。当たり前と思うかもしれないが、そういうのがこの国には多いと言えた。
「おう、お姫様じゃねえか! 今日もいい乳してんじゃんzy……アレ? この前より縮んでねえか?」
メアリーが代わりに答える。
「女性の胸は常に形を変えているのです。縮んでいても不思議ではありません。と言うか不敬罪で訴えますよ」
「お~、こええ」
「旦那様」
後ろからマスターが男に声をかける。
「このお酒は、時間が大事なのです。この間にも味が落ちてしまいます。是非ともお早めにお飲みを」
そう言って、男のテーブルにカクテルを置く。そして二人の方を向いて、
「カップル様ですか。あちらの席へ」
席へと促した。
その様子を見ていた男がマスターに言う。
「あの男装してるのはオンナだぞ、マスター。さすがのマスターでも分からないほどオトコなんだな」
「ああ、そうでございましたか。失礼いたしました」
マスターが謝る。
二人は気にしていないと止め、席へと向かう。
そのとき、マスターは王子に
「女の方に荷物をもたせたままの王子を初めて拝見いたしました」
と小さく言った。
「本当に良いお店ですね」
聞いていたメアリーが言う。
「お気に入りの店だからな」
女装であることがバレたくないのか、周りを気にして小声で言う。
「あら? 誘っておいて弱気なこと。女たらしだったのが聞いて呆れますね」
「ちげ、……違いますわ。そんなことより、何を注文するかお決めになって!」
注文を終え、頼んだものが届く。グラスを持ち、メアリーが言う。
「お綺麗なお嬢様に乾杯」
「んえへへ~、次はスクリュードライバーにしよ~かな~~!」
普段の男らしさ、いや、瀟洒な雰囲気はどこへやら、メアリーは酔っ払っていた。
「ちょっと、もうおやめになさいませ」
王子が止める。
「モスコミュールも良いかも、あ! レディーキラーなんてありますよ! どんな味なんでしょうか。スイマセーン!」
居酒屋でビールでも注文するかのようにマスターを呼ぶ。
「そ、それは注文しては駄目です!」
マスターがこちらに来る。
メアリーが
「このレディーキラーってなんでしゅか~?」
「レディーキラーは、王子のために考案したカクテルです。ラム酒とウォッカなど。これ以上、具体的にはお店の味なのでお教えできませんが、王子が女性の魅力に酔わされないように、お酒の度数を高くして、女性を口説くために飲んでいたものです」
メアリーがとろん、とした顔で王子の方を向く。
「あ~、やっぱり王子は女たらしであったんですねえ~」
王子がメアリーから目をそらす。マスターは続けて話し始める。
「……と言うのが表のレディーキラー。実際に飲んでいたのはノンアルコールカクテルですがね」
「え?」
「酔いすぎると、オトコとして最後まで楽しめない。でも度数が高いお酒を男が飲んでいたほうが、女性も安心して飲める。そういう事で出来たカクテルです」
「なんか、あまりの話にお酒が抜けました」
普段の顔に戻ったメアリーが言う。
マスターは王子から目をわざとらしくそらす。
「面白いマスターですね。ますます気に入りました。今度、一人で来ようかな」
「絶対にやめてください」
「冗談ですよ。こんなおしゃれな所は好意を抱いた方と来たほうが楽しいですしね。
面白い話をされてる時の顔を見るのも楽しいですし」
メアリーがふふっ、と笑う。酔いが覚めたとは言っても、目がとろんとしている。これ以上、マスターとメアリーに話されると気分がよろしくない。王子は話を切り替える。
「そういえば、クローゼットに入ってるブランド、マリー・スー? ってのが多いよな。何でだ?」
マリー・スー自体は王子も昔から知っていた。オトした女がよく着ていたからだ。女性らしい体を強調しつつも、女の子さも感じさせる。男受けも良いが、女性もお気に入り。一着も持っていない女性は居ないと言われるほどであった。更に服に合わせたバッグやアクセサリー。果てにはウィッグにまで幅を広げ、女性のファッションを支えていると言えるブランドである。
王子はふと、ある考えが浮かぶ。
「マリーとメアリー。綴りが同じだよな」
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「まさか」
「そうです。私ですよ。マリー・スーは」
メアリーが続けて話し始める。
「昔から服を作るのが好きで、でもある日、作った服を着て、学校に行った時に……」
先ほどまでの酔いによる、目の潤みが別の感情であふれ始める。
「似合わないほど、女らしい格好って言われまして。まあ、それがあって、バッグとかアクセサリーみたいな小物にも気を使い始めたり、ウィッグまで作っちゃったんですけどね。でもいまいち自分では身につける勇気がなくて、そこから誰かに代わりにつけてもらおうと」
無理に笑顔を作り、そう言う。
「私の服を着て、女性が自分を出せるようになって欲しい。その願いが叶った結果ですし、王様に王子を任せてもらうキッカケにもなったんです。実際、私が身につけるよりも王子のほうが似合ってますから作ってよかったって思います」
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「割といい話だったはずなのに」
メアリーが怒りを通り越して、蔑みの目で王子をみる。
「何故に、弱味を握ったように、言ってくるのでしょうかね」
メアリーが、ジリジリと王子に近づいていく。その目は一点、股間のあたりを見つめている。
「な、なんだよ」
「可愛らしい、お嬢様のこんなところに、オトコのモノがあるのっておかしくないですかね」
「そ、それは……」
王子自身、少し思っていることであった。どれだけ着飾ったところでオトコのモノがある。それは女の子にはなりきれない証拠のようにも思えた。
「私がなんとかしてあげます。さあ、パンツを脱いで下さい。マリー・スーは女性が自分を出せるようになってもらうために、手を尽くします」
そう言うとメアリーは王子のパンティをずらしにかかる。しかし、王子も必死に抵抗をする。
「何を嫌がっているんですか。女性に情熱的に迫られるのがお好きではないのですか」
「お前のは、別の情熱に燃えてるだけに違いがないだろ!」
その抵抗もむなしく、王子はパンティをはぎ取られ、股間が露わになる。
「では、始めます。痛かったり、違和感があったら言ってくださいね」
言われた瞬間、王子の睾丸はなにかに持ち上げられるような感触を感じた。その感触は指だとわかった時、股間の奥へと押し込もうとしていると気づいた。
「お、おい、なにを」
そのとき、するり、と体の中へと睾丸が入りこんだのが分かった。同じようにもう片方も指が押し込む感触があり、入りこんだ。
「違和感しかないんだが……」
王子は自分のモノがあるべき場所にないことに不安そうに言った。
「安心して下さい。私に任せておけば、後遺症が残ることはないですからね」
「そんなに危ないことなのか」
メアリーが真剣そうな顔で王子に話し始める
「まあ、血が回らなくなってそのまま切除とか、ありえる話ですからね」
「少なくとも、人に言えるような生き方してないと思った」
「うっかり手が滑って、片方が取り出せなくなった。って言ったらどうしますか?」
「も、もうやめよう」
王子が言う。
「駄目です」
メアリーは王子のペニスを握ると、そのまま王子の股の間へ挟ませ、中身のなくなった袋で包み込んだ。ひんやりとした感触を感じ、思わず目をつぶってしまう。ぐいぐいと袋が引っ張られるのが分かる。
「終わりましたよ。自分で見てみて下さい」
何が終わったのだろうか。オトコとしての終わりだろうか。そう思いながら、目を開き、股間を見てみる。
そこには女性の鼠径部があった。
「これは女装する人が行う方法の一つです。まあ長時間はしないほうが良いんですけど、街に出かける時にはやっておいたほうが良いかもですね」
メアリーが手を差し伸べる。王子はその手を掴み、引き起こしてもらう。引っ張られるように全身鏡へと連れられ自分の姿を見る。
本当の女性がそこにいる。そう王子は思った。
「少なくとも、これが自分で出来るようになるまでは街へ出るのは禁止です」
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