第3話怪盗ジュエリー編①〜そこそこ名の売れた探偵です〜

広い広い海の上に浮かぶ一隻の船。その船は名目上は裕福な人間を集めた豪華客船の旅。その実態はとある宝石のオークション会場だった。私、リョウ・レイモンはイギリスではそこそこ名の売れている探偵で、ここの主催者リージェルさんから依頼を受けてここにいる。その依頼とは、今夜オークションに出品される宝石を奪う、という怪盗ジュエリーからの挑戦状に対抗するためのものだった。怪盗ジュエリーが来るのはオークション中。私はその時に備えて昼間から情報を集め、動き出している。



赤いカーペットの上、白衣を着た女性が歩いている。そこは、今夜、宝石のオークションが行われるという豪華客船の最深部。そのオークションの会場となる遊戯室だった。金の螺旋階段を降り、見えるはビリヤード、ダーツ等の遊具と今夜あそこに宝石が置かれるであろうステージ。そして、バー。昼間からは基本使われない遊具は物寂しく、昼間から酒を飲んでいる人もいないからバーもガランとしていた。しかし、人はいる。その人はバーのカウンターの向こう側、背を向けてガラスのコップを棚に戻していた。白衣の女性はその人、少女を見つけるとまっすぐにバーへ行き真ん中の席についた。少女の反応は特にない。

女性は呟く。

「見つけた。希。」

その言葉を聞いた少女はゆっくりと女性の方と振り向く。この船のウェイトレスの制服を身にまとい、長い髪を下に2つに分けた少女。見た目は違えど、それはネタ屋の店長、希だった。希は自分を呼んだ相手を見るとその相手の名を口にする。

「悠。」

悠と呼ばれたその女性、ネタ屋常連の悠。彼女も見た目が違っていた。少女だった悠は大人の女性となり、白衣を身につけ、少し短くなった髪を横に1つでまとめていた。

「ハズレを引いたよ。役職的にすごく動き辛い。」

そう言って希は苦々しくため息をつく。それを見てニヤニヤ笑う悠。

「私は動きやすいよ、客だし。」

「闇医者ね。」

「しっかりとした医者ですー。」

そこまで言うと2人は冗談を言い合うのを止め黙った。最初に口を開いたのは悠。

「それでこれは?」

悠が問う。

「まんまだよ。豪華客船での怪盗vs探偵もの。」

希は答えに1拍おくと言いづらそうに話を続ける。

「一つ厄介なことがあってね。…犯人がわからない。」

悠は一瞬希が何を言っているのかわからず、耳を疑った。希はそんなこと気にせず、真剣な表情で淡々と言う。

「ポーさんのネタ、誰が犯人になってもいいように決められた登場人物全員に犯行手順が載っていたの。つまり…」

そこまで言って口を濁す。希の代わりは悠が言った。

「犯人がランダムで今回は誰が犯人だかわからない、と。」

頷く希。そのまま希は自分の考えを話す。

「犯行手順がないのは探偵だけ。生憎私達はどこからどう見ても探偵じゃない。つまり、私達は容疑者側。」

悠もそれに続く。

「初めての語訳は高確率で主役になるから、涼が主役かー…不安だな。」

そこまで言うと悠はハッとして周りを気にし始めた。

「ねぇ、ここでこんな風に話してても大丈夫なの?」

心配そうに聞く悠に希は平然と答える。

「昼のバーにはほとんど人なんて来ないから平気。」

希の言うとおりこの場には2人しかおらず、薄暗い部屋はただただ広く感じた。

「そっか。今回はウエイトレスの演技だね。楽しみにしているよ!」

悠のその言葉に希は微妙な顔してうつむき、特に反応しなかった。そんな様子の希を見ると悠は一息つく。そのまま席を立ち、上の光が漏れている階段へと向かった。希はまた後ろを向きグラスに手をかける。そこで、二人は別れたのであった。

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