しろいライオン
昔はね、自分のことを
地球のピラミッドの
頂点にいる存在と思ってたんだ
でもね、それは違った
造られた存在
誰かにそう望まれたから
生まれただけの、存在
現代の科学がなければ
生まれてくることもなかった
歪な存在
恋ではなく
責務から
愛ではなく
義務から
生まれ出た存在
それが、白羽 世一
「白い獅子は造られた存在」
「突然変異と見せかけて」
「神性の獣と見せかけて」
「人間が意図的に生み出している」
そう、僕はしろいライオン
「傲慢の…白い獅子」
ーーーーしろいライオンーーーー
強く生きつづける事を望まれた
牙を研ぎ続け
獲物の喉元を切り裂き
返り血を浴び
その黒く変色した血で睨みを利かせて
全ての動物を震え上がらせ
ぜんぶ、支配する
百獣の王
そういる事を望まれた
神性すら付与されて
白は美しい色だから
神様の色だから
白くいなければならない、と
ずっと言われて育ってきた
白羽は強い
白羽は絶対
白羽は完璧
白羽に………足りないものなどない
愛だって、恋だって、友情だって
きっと他のものと同じで
今に、すぐに、手に入る
だって他のものはすぐに
僕の周りにあったから。
手に入らないものなんてない
そう、思いたかった
でも、違った
その三つだけは、手に入らなかった
他の動物が群れを作って
幸せそうに寄り添っているのを見て
羨ましくなって
声を掛けた
「鈴木さん、トランプやらない?」
「水無月さんも、そのお仕事が終わったら…一緒にどうかな?」
どうかな?なんて言葉を使ったけれど
これ、命令になっちゃうんだよね…
何回かやって
いつも同じ結果になって気がついた
僕は、トランプで負けたことがない
ぜんぶ、僕の一人勝ち
ずっとずっと僕は大富豪
他の誰かはみんな貧民大貧民
擦り寄れば怯えられ距離を置かれる
戯れようとすれば切り裂いてしまう
このでかいだけで
のろまな身体
何度いらないと思ったか
もしも次に生まれ変わるなら
燕のように生きてみたいな
自分の翼で海を渡って
相手を見つけて
子供を育てて、強く生きる燕に
燕は雨の日、低く飛ぶ
低く飛ぶ餌を捉えるために
地面を這うように飛ぶ
その刹那
すっ
っと浮かび上がる
早くてかっこいい
くるりと宙返りもできた
僕には、何回やってもできなかった
惨めに、身体を打つだけだった
でも、誰も僕を笑わなかった
そんな事できなくたって
貴方は強いんだから問題ない
燕なんて小さくて
貴方の気にする相手じゃない
みんな、そう言ってくれた
影では、滑稽なやつだって
笑ってたんだろうけど
ライオンも
群れを作るじゃないかって?
そうだね、僕にも群れはあるよ
その群れを英語でなんて呼ぶか
知ってる?
PRIDE(プライド)
傲慢の英訳
傲慢の中で
傲慢のままでいられたら幸せだった
でも、気づいてしまった
自分の存在価値なんて
ないってこと
僕がいたから
腹違いの兄は、
全てを奪われたってこと
僕が生まれたから
…全ての歯車が狂ってしまったってこと
突発的に飛び出した
屋敷をあとにして、敷地を出るだけで
2時間掛かった
無茶苦茶に走ったのに
泥水を踏んで転んで
草に滑って転んで
涙に、濡れたのに
それでも、完璧に足を守るこの靴は
くっついて、離れてくれなかった
史上最高の 革靴は
懐には通帳とか黒いカード
左のポケットには紙の束
そして、
左腕に巻いたものを
何回めかに転んだ時に
地面へぶつけてしまった
燕の真似をして
くるりと宙返りをしようとした
しろいライオンは
惨めに大きな身体を打ち付けて
前脚を捻ってしまった
腕のことはどうでもよかった
ただただ、その時計が気掛かりで
左手を上げて、確認をした
鹿を、象を、インパラを
兎を亀を…隼を
呼びつけていた時のように
ひび割れて
時は見えなくなっていた
薄れゆく意識
雨に打たれ、濡れる身体
生まれてしまって、ごめんなさい
ああ、愛と、恋と、それから友情
一つだけでも、欲しかったな
…いや、やっぱり
全部、ぜーんぶ、欲しかったな
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