第6話 矛盾の感

今思い返せば、あの時の父は獣そのものだった。僕が、女であれ男であれ誰と仲良くしても、多分あの獣が出てくるのであろう。

やはりダメだ。


「依頼だ。早くここに行け。」

帰ってきた椎名さんが、僕の顔を見て地図を渡してきた。

「分かりました。甲さんと空さんは?」

「馬鹿か?いつまでも一緒に仕事できると思うなよ。」

(何これ?僕一人で?無理だよ。)

「でも、僕…」

「うるさいな、早く行ってこい。」

僕の苦言を遮るように、椎名さんが言った。

僕は渋々、了承した。

了承したというよりも、これは強制的だった。


僕は、このあと起こる"最悪"に気づかず、シャボン玉が飛んでいるような空気感で、依頼人が待つ場所へと向かった。


(あっ!写真の男だ。)

ついた場所、前にも依頼があった喫茶店だった。しかも、あの薬物と殺人の件で警察と関わったことを思い出す。

「あの。斉藤 真さんですか?」

「はい。あっ!キリガイの⁈」

「はい、竜と言います。よろしくお願いします。」

なんか、不思議な雰囲気を持っている方で、なぜか初対面なのに親近感があると思った。

それは置いといて、いつもはあの双子がいるのに、もういない。

キリガイの探偵事務所に入って、3人で抱えた依頼は20件以上で、少しは自信もついたと思ったが、やはり苦しい。

「あの、依頼とは?」

僕はそんな心境と裏腹に、依頼を聞いた。

「あの、前にもこの喫茶店で依頼した女の人、いませんでしたか?」

あっ!もしかしてあの女のことか?

ということはこの男は、薬物女の関係者。

「すみません。依頼者のことは、お話しできません。」

そういうと男の顔が青ざめた。

「やっぱり、来たんですね。」

「はい?だから言えません。」

「違う‼︎…彼女は無理やり薬物を飲まされたんだ。それに彼女は僕の妹を殺すわけが無い。」

何を言ってるんだ?もしかして、、、

いや、薬物所有者特有の匂いもしないし正常そうに思う。

「それはどういうことなんでしょうか?」

「多分、あいつらともめた際、捕まってしまい薬物を飲まされてしまったんだと思う。」

僕は、唖然とした。

「河野は多分、キリガイの人にそれを伝えたから、殺されたんだと思う。だって、あいつらは河野を殺人犯にしたかったんだと思うし、、、」

「誤解されているかもしれません。彼女は、殺されたのではなく、自殺したんですよ。」

そういうと男は大きく首を振り、僕に言った。

「違うんです。あいつらは、あらかじめ河野の服に毒薬を忍ばせておき、切羽詰まった河野は自殺を選ぶとわかっていたんです。あいつらは、そういうことができるんです。」

男は非現実なことを言っているが、なぜか否定はできなかった。あの時の女の行動は全てが不自然だったからだ。

確かに、最初にあった雰囲気から大分違う人柄になっていたからだ。


(でもなぜ今になって、改めて調べて欲しいだなんて。)

僕はため息混じりに、彼と彼が言う組織のことを調べることにした。

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