【3】―― 徒競走4位

 また翌日。今度は箱じゃなく、手紙が届いた。


『3つ目のアイテムは、ユウくんが徒競走で6人中4位だった時の写真だよ。 絶対1位になるから~っておねだりして高い運動靴買ってもらってたっけ。 何度見ても微妙な順位だよね(爆)』


 手紙と一緒に封入されていた写真を見て、オレは一気に鬱モードになった。

 これはオレが3年生の頃、運動会で走った時の写真だ。当時小学生の間で流行っていた“寸足すんそく”っていう高いスニーカーを買ってもらって、友達にも自慢して……。張り切って走ったっけ。でも結局4位で終わって、オレはめちゃくちゃ凹んだんだ。――こんな古傷を掘り返して、一体爺ちゃんになんの得があるってんだよ。


「うっせーよクソジジイ……」


 ――もう止めた。爺ちゃんの最後の遊びに付き合ってやろうと思ったけど、こんなの誰の得にもならない。……こんな写真、オレは二度と見たくなかったよ。

 オレは引き出しから昨日のドングリも取り出すと、投げやりな気持ちでゴミ箱を掴んだ。


「おやユウくん。ドングリいらないのかねぇ。だったら婆ちゃんがもらおうかねぇ」


 菩薩の声がして、オレは咄嗟に手を引っ込めた。なんでだろう。捨てるのが悪いことだと思ったのか?


「そのドングリさぁ。爺ちゃんが大ぃ~事にしてたんだよぉ」

「え……」


 あの爺ちゃんが……――ああ、オレをバカにする材料としてね?


「爺ちゃんさぁ。『ユウくんは自分の好きなものを人に贈れる子だ』ってねぇ。お隣のノブさんにも自慢してたよぉ」


 のんびりと語られたその真実が意外すぎて、オレは何のリアクションも出来なかった。多分、随分マヌケな顔をしてたと思う。

 婆ちゃんはふんわり微笑んで、手を差し出した。


「ほれ。捨てるんなら婆ちゃんがもらうさぁねぇ。その写真も爺ちゃんの宝物だったからねぇ」

「あ、えっと……」


 我ながら単純だ。爺ちゃんがこんなガラクタを大事にしていたと聞いただけで、全部が宝物に思えてくる。

 こんなことなら最初のパンツも取っておけば良かっ……――いや、やっぱあれはいいや。


「ユウくんが持っててくれるなら、婆ちゃんは遠慮するかねぇ」


 オレの心中を察した婆ちゃんはあっさり引き下がり、菩薩スマイルでふふふと笑いながら仏間を後にした。

 オレは手の中のドングリと写真に目を落とす。ふと、写真の裏に何か書かれているのを見つけた。


『ユウくん残念賞。だけど頑張った!』


 あんなに憎らしかった、爺ちゃんの字――。


「爺ちゃん……」


 遺影の中の笑顔が、オレは何だかとても懐かしく思えた。


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