小説ットモンスター ~ウルトラソウル\ヘイ!/~

ちびまるフォイ

モンスターいるところにはトレーナーだけじゃない

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はじめまして! 小説ットモンスターの せかいへ ようこそ!


わたしの なまえは ウーキド(ネイティブ発音)


このせかいには 小説ットモンスター とよばれる いきものが


カークヨム地方で すんでいるよ!   ▼

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引っ越し先の町では小説で交流が進んでいる不思議な場所だった。

近所に住む「マツザ・キシゲル」という友達に連れられて研究所へ訪れた。


「さぁ、この3小説ットモンスターから好きなのを選ぶんだ。

 それがこの先の冒険のパートナーになってくれるだろう」


小説管理ボールと呼ばれるものの中には、モンスターが収められている。

左端の小説を手に取った。


「それは異世界ファンタジー。ステータスも高くておすすめだよ。

 バトルできっと活躍してくれるだろう」


「こっちは?」


「それは恋愛ラブコメ。

 なつきやすくてペットにする人も多い小説だよ」


「いいですね。これは?」


「それはミリタリー。

 なかなかなつかないけれど、うまくハマればあるいは……」


「これにします!」


「いいのかい? クセが結構ある小説だよ」


「きっと使いこなしてみせます!」


パートナー小説を決めると、幼馴染のキシゲルがさっそく勝負を挑んだ。


「じいさんにもらった小説でさっそく勝負してみようぜ!

 俺の異世界ファンタジーに勝てるかな」


「よーーし!!」



異世界ファンタジーの チートこうせん!

こうかはばつぐんだ!


ミリタリーは倒れてしまった。



「よわっ……」


研究所はなんともいえない静寂に包まれた。


「ま、まぁ、最初だからな。遅咲きの小説でもある。

 根気強く育てていけばきっと強くなれるよ」


「そ、そうですか……」


「ちょうど、このカークヨム地方ではたくさんの小説トレーナーがいるから

 そこで腕試しをしながら小説を強くしていくといい」


「はい、行ってきます!」


かくして、ミリタリー小説との冒険がはじまった。


小説の続きを書けば書くほどモンスターは成長する。

旅の道中でもたくさんの小説たちとめぐりあい、インスピレーションを刺激され

いつしか手持ち小説にはミリタリーだけでなく、たくさんの小説たちが増えていった。


それでも、全然勝てなかった。


「あはは、なんでミリタリー小説なんて手持ちに入れてんの?」

「そんなの完全に足手まといじゃん」

「流行にもなっていないジャンルを手持ちに入れるなんて意味不明」


カークヨムのジムにいるトレーナーたちに敗北すると、散々な言われようだった。

言葉はわからなくても話している内容はわかるのかミリタリーは寂しそうな顔をした。


「タイセンシャライフリュ...」


「そんなに落ち込むなって。今回勝てなかったのはお前のせいじゃない」


「カラシニコフ?」


「どんなことがあっても俺はお前を見捨てたりしないよ。

 きっと最強の小説モンスターにしてやるからな」


最初に選んだ小説がこのミリタリーだった。


途中で書いた「エッセイ」のが強かったりするけれど

それでも愛着や絆がこのミリタリーには深くあった。

弱くても手放すことはできない。


悩んでいると久しぶりにキシゲルに出会った。


「よぉーー! こんなところで会うなんて偶然だな!

 お前、バッジはいくつ持ってる?」


「2つ」


「2つ!? ははは、俺はもう全部コンプしたぜ!

 これで小説リーグへ挑戦できる。

 同じスタートラインだったのに、こんなに差が開くなんてな」


「俺は小説ガチ勢じゃないんだよ」


「ま、どうでもいいよ。小説勝負しようぜ!」


「よーし! 負けないぞ!」


キシゲルはすでに100話以上も更新された異世界ファンタジーを繰り出した。

キャラ設定やら世界地図やらも書き込まれているほど熟練されている。


一方、俺のミリタリーはというと……。


テンプレな展開とありきたりな戦争の策略バトルばかりで、

技のレパートリーも少なく、評価(レベル)も低いままだった。


開始数秒でノックダウン。


「おいおい、弱すぎるだろ。バッジ2つ取ったことが信じられないぜ」


「バッジはエッセイで勝ったようなものだから」


「そんなに弱い小説を手持ちに入れてもしょうがないだろ?

 通信交換でもしたらどうだ?」


「え? なにそれ?」


「別の作者と小説を交換するんだよ。

 向こうからは下地ができている小説が来るから

 新しい発見もあるかもしれないだろ?」


「キシゲル……!」


「ライバルが弱いってんじゃ、俺もサマにならないからな、へへっ」


小説の通信交換。そんなものがあるなんて知らなかった。

自分の小説をひたすらに鍛え上げていればいいとだけ思っていた。


評価に伸び悩む小説トレーナーは多いらしく、通信交換の相手に事欠かなかった。



ミリタリーを 相手に送ります! ばいばい、ミリタリー!



「これでいいんだ、これで……」


伸び悩む小説トレーナーの手元で飼い殺しにするくらいなら、

いっそ別のトレーナーのもとで化学反応に期待する方がミリタリーのためになる。


向こうからは、殺人事件と幽霊による事件解決ミステリー(ゴーストタイプ)が送られてきた。


自分ではまったく書かないジャンルだし思いつきもしない内容。

やっぱり他人と自分の頭の作りが違うのを感じ、これでトレーナーとしての再起を狙う。


はずだったが、交換後に向こうのトレーナーが悲鳴をあげた。


「げっ! ミリタリーかよ!!

 こんなの専門知識ないと育たないうえ、人気もないんだよ!

 やっぱり交換なし!!」


「え、ええ……!?」


まさかのクーリングオフ。

ふたたびミリタリーが手元に戻って来たそのとき。



おや!? ミリタリーのようすが……


おめでとう! ミリタリーはミスタリーに進化した!!



「なんだ!? 進化した!?」


戦車のような丸っこい体だったミリタリーには羽が生えて、

口から炎を出す雄々しいドラゴンの姿へと変わった。


俺より驚いたのはクーリングオフした向こうのトレーナーだった。


「聞いたことがある、通信交換で進化する小説があるって……!」


一度、ミステリー作家の手元を経由したことで

小説にはただの戦争だけでなく幽霊が登場したり、密度の高い人間模様も描かれた。


それにより小説モンスターは爆発的なほど強くなった。

とめどなく評価が寄せられて、もう昔の面影はなくなるほどの成長だった。


そして、ついに念願の小説リーグへとやってきた。


「俺もここへ来れるなんて……!」


鍛え上げた6匹の小説たち。

これでどこまで戦えるのか、自分の限界を決める戦い。


待ち受ける四天王との闘いへと足を踏み出した。


「俺は短編つかいのちびまるフォイ。

 君は本当に強い小説トレーナーはどんなものだと思うふぉい?」


「推敲と挑戦を重ねた小説モンスターを持つトレーナーです」


「ちがうね。数だよ!! 数!!!

 さぁ、俺からの300体もの小説モンスターによる猛攻を耐えられるふぉい!?」


四天王たちは誰もがそれぞれのスタイルで勝負をしかけてきた。


「クソクソクソ!! どの小説もクソだ!!

 流行なんてクソだ!! テンプレ脳どもは爆散しろ!!」


批判エッセイ使いのシバ。


「あなたはイケメン? うふふ、お姉さんはイケメン以外興味ないの。

 小説にはお話なんていらないのよ、キャラに萌えられればそれでいいの」


乙女ハーレム小説つかいのカンナ。


「雑魚小説は不要だ。真の小説トレーナーとは1匹をどれだけ洗練したかで決まる。

 さぁ、最後の勝負といこうか」


現代ドラマ使いのワタル。

手持ちの小説はなんと1作品しかないものの圧倒的な力だった。

激しい戦いの末、ついに四天王全員を倒すことができた。


「素晴らしい、君は君なりに小説を洗練したようだね。

 おめでとう君が今日からチャンピオンだ。




 ……と、言いたいところだが、君はもう一人戦う人がいる」


「まさか、キシゲル!?」



「いいや、ウーキドだ。君より先に四天王を倒したんだ」


「そっち!?」


最後の部屋に行くとウーキド博士が待っていた。


「やぁ、待っていたよ。まさか君がここまで成長するとは思わなかった。

 私はね、成長していく子供を努力値と個体値を計算し尽くした

 ガチ小説でボコボコに蹂躙するのが好きなんだよ」


「それで最初に俺に小説モンスターを……?」


「ワシに君の絶望を見せてくれ!! ハハハハハ!!!」


チャンピオンのウーキドが しょうぶをしかけてきた!!



一進一退の攻防の末、ついにウーキドを倒すことができた。

最後に残ったのはミスタリーだけだった。


「負けたよ、完敗だ。さぁ、君の小説を書籍化して一生のものにしよう」


ウーキドに連れられて奥の部屋に入ると、そこは製本所だった。


「おめでとう、今日から君が新しいチャンピオンだ。

 書籍化すればサイトが無くなっても君の小説は残り続ける」


「やった!! ついに書籍化されるんだ!!」


小説リーグを制覇してミスタリーは晴れて小説化された。

チャンピオンになってからはほかの小説も育てつつ連載を続けていた。


やがて、その日は訪れた。


「ミスタリー、お前は本当に強くなったな」


「ミシュ!」


「でも、これで完結だ。この先もうお前を書くことはないだろう」


「ミシュー…」


小説の完結。

それは小説モンスターを手放すことに等しい。


「1つの人気小説を書き続けることもできるけど、

 俺はもっと小説トレーナーとしての腕を磨きたいんだ。

 お前には本当に世話になった、ありがとう」


「ミスタリ!」


「完結してからも元気に暮らせよ」


俺は小説に「完結」マークをつけた。

トレーナーとモンスターとの契約が解除され、広い空にミスタリは飛んでいった。




― FIN ―





狩 猟 解 禁 !!!



ここカークヨム地方は小説モンスターが住む不思議な場所!

小説ハンターたちは今日も目につく小説モンスターたちを片っ端から狩っていく!!


ちょうど狩りごたえのあるバカでかいドラゴンが今、この世界に放牧された!!


「うおおおおい!! やっぱり完結なし!!」


俺は慌ててミスタリを呼び戻すと

エピソードゼロとか外伝とかスピンオフとか別視点など続きを書いた。

ミスタリは瞬時に手元に戻った。

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