第10話の1 姉ぇ
駅前広場で待ち合わせ。稀に見る光景だ。俺の背後にいるハチ公が、「彼女とデート? 青春だねー」と冷やかすような目をしている。違うんだハチ公。ある意味青春かもしれないけど。
「おまたせしました」
「遅れてわりぃ」
腕時計を見ると同時、未来くんと斎藤が来た。斎藤の言葉は、方言なんだろうけど口悪く聞こえてしまう。
「じゃあ早速行きますか?」
「あ、いや。ちょっと待ってくれ」
「なんでしょう」
「実は、沖田も呼んでるんだ」
「え!?」
予想通りではあったが、未来くんはだいぶ驚いている。
「沖田さんって、姉と同じクラスの人なんでしょう? お姉ちゃん、受け入れるかな……?」
「ダメだったら帰らせるから」
沖田にしちゃいい迷惑だろうけど。
「呼んでおいて帰らせるのか」
その声は沖田だ。噂をすればなんとやら。
「初めまして。山南未来と言います」
「初めまして。沖田清一だ。よろしく」
二人は丁寧に挨拶を交わす。
「それにしても、僕より男らしい声の女の子だ。失礼なことを言ってるかもしれないが、素直に羨ましいと思う」
「いえ。僕男なんですけど……」
「…………」
あ。沖田が黙った。無理もない。女の子だと思うって。可愛いもん。
「し、失礼した! 性別を間違えてしまうとは」
「いいんですよ。よく間違えられますし」
「いいや! 日本男児としてこれは、切腹をっ!」
「ハチ公の前で恥ずかしいからやめてくんない!? ああ! 腹出すな! しまえ!」
沖田は服をめくり、プラスチック定規で腹を抑えている。山崎先輩に変なことでも教えられたのだろうか。
「ま、まぁ、行きましょうか」
表情筋が壊れそうなほどの作り笑顔で、未来くんは俺たちを案内した。
到着したのは集合から15分ほど後。マンションの十階だった。
「でかいマンションだな」
「この部屋です。どうぞ」
未来くんが開けた扉は一番エレベーター側。
「おじゃましまーす」
俺たちは未来くんに続いて中に入っていった。
あ、いい匂い。
「散らかってますけど、リビングへどうぞ」
謙虚すぎるよこの子。案の定リビングは片付いている。
「今姉に話してきますから、待っててください」
「はーい」
可愛いなぁ未来くん。これで声も可愛ければ……。
廊下からは何やら声が聞こえる。
しばらくして未来くんが戻ってきた。
「おまたせしました。申し訳ないのですが、慶太さんだけこちらへ来て頂けますか?」
「え、俺だけ?」
「はい。まあ、元々慶太さんが目的だった訳ですし」
目的って、その言い方……、なんかな。
「わかった」
俺は未来くんについて行き、お姉さんの部屋へ案内された。
未来くんはドアをノックして中の住人に呼びかけた。
「お姉ちゃん、慶太さんが来てくれたよ」
すると、中からBB弾が発砲される音が聞こえた。
「な、なんで発砲するの!?」
「今のは「入っていいよ」の合図です」
「弾込めてる必要なくない!?」
「そういう人なので」
未来くんはドアを開け、そっと中を覗く。俺も開いたところから中を覗……。
汚い。部屋が汚い。
女の子の部屋ってもっと綺麗なもんだと思ってたけど、なんだこれ! 下着とかも散らかしてるし、ゴミがゴミ箱に入ってないし、よくこれで人を通そうと思ったな!?
いや、初対面の人にここまで言うのはちょっと非常識か。
「お姉ちゃん、この人が近藤慶太さん」
未来くんが俺を紹介した。相手の顔は毛布で隠れて見えないが、どうやら今は剛力羅でないようだ。
「慶太さん、僕の姉の」
未来くんがそういうと、少しだけ顔が見える。
「山南、
自分で名乗ったその少女は、左目を眼帯で覆っている。腕には包帯。フリルの付いたロリータファッションが毛布から覗いた。
「あ、近藤慶太です。よろしく」
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