第9話の2 下り坂
ギャストには本当に色んな料理があるんだなと、改めて感心する。以前来た時も、冬季限定で『本場韓国のキムチを使った激辛コーンポタージュ(甘口、中辛、辛口、地獄、致死)』なんてのがあった。甘めなのが売りのコンポタにキムチを加えるという、誰得料理。相当な辛いもの好きには良いかも知れないが、流石に辛さ表示の「致死」はダメだろう。
今さっききた斎藤のきりたんぽも、メニューを見ると「塩分濃度(2%、5%、10%、30%、57%)」と書かれているのだが......。
「斎藤。お前のきりたんぽ、塩分濃度何%だ?」
「5%だども?」
「ああ......。うん、それでも多いよね」
「7%があったら
「なんでそんな細かい数値気にするの!? 普通でよくね!?」
そもそも表記の「57%」って何だよ! 50%か60%でいいだろ!
「少数じゃないからそこまで細かくもないんじゃ......」
前方から良い声。ごめん未来くん。君も細かいな、なんて、ちょっと引いてしまった。
「そういえば、未来くんはなんで俺に会いたかったんだ?」
「よくぞ聞いてくださいました!」
未来くんは机を叩き、大きめの声で言う。びっくりして、思わず後ろに下がった。
「近藤さん! 姉を助けてください!」
「姉?」
「はい」
「お姉さんがどうかしたのか?」
「実は......」
未来くんはステーキを食べながら事情を話し始めた。
「僕の家系もお二人と同じ、剛力羅の家なんです」
「へぇぇ......」
「僕は既に剛力羅を終えているのですが、先日、姉が剛力羅になりまして......」
「お姉さんは何歳なんだ?」
「お二人同い年ですよ。超獣高校一年の、二組だった筈です」
「二組ってば、沖田と同じクラスだな」
「はい。その人のことも斎藤先輩から伺ってます」
「んで、剛力羅化したお姉さんをどうすればいいんだ?」
「......勇気づけてあげてくれませんか?」
「? 勇気づける?」
「はい。姉は剛力羅化してからショックで引きこもってしまいまして......。周りも皆ゴリラだからと言っても、「こんな恥ずかしい姿、見せられるはずが無い」と......」
「それ、俺でもダメなんじゃないか?」
「近藤さんは自由に剛力羅化出来る人の中でも特に優れていると伺いました。或いはと思ったんですが......。可能性だけでも......」
「俺が特に優れてるのは筋肉だけで......いや待て」
俺はチラリと斎藤を見る。呑気にきりたんぽを加え、真ん中の穴で呼吸する遊びをしていた。
斎藤は俺と目を合わせると、ニコッと微笑んだ。可愛いには可愛いんだが、なんかムカつく。
そして俺は理解した。おそらく斎藤が、俺に好意を寄せていることで過大評価し、自分の中で作り上げた「近藤慶太」をそのまま未来くんに伝えたのだろう。
「ハァ......」
俺はため息をつき、未来くんを見つめる。
「な、なんですか。恥ずかしいです」
未来くんは頬を赤らめて言う。可愛いんだけど、声が全て台無しにしている。
「要は、同じ剛力羅の立場から声をかけてやってくれってことなんだろ?」
「あ、はい。そうです」
「んなら、仕方ないな」
「え、本当ですか!?」
「ああ」
未来くんが嬉しそうに言ったので、俺も笑顔を返した。
「さっすが近藤くん。といった人さも手を差し伸べる超絶イケメン!」
「飲み込んでから言え。よく口に入ったままちゃんと発音できるな」
秋田の人って色々凄くない? いや、斎藤が特別なのか?
「それじゃあ来週の土曜日、渋谷駅集合でいいですか?」
「渋谷? ちょっと遠いな」
「すみません。家が渋谷なもので」
「未来くんのお姉さん、剛力羅化する前は渋谷からわざわざ来てたんだ」
それこそ寮に住めばいいのに。
「じゃあ土曜日にな」
チーズハンバーグを既に食べ終えていた俺は、代金をテーブルに置いて颯爽とかえった。......用事があるわけではない。ただ、かっこいいことをした気がするからかっこよく帰ってみたかっただけで......。
恥ずかしくなってきた。
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