第9話の1 男の娘
「んで斎藤。俺に会いたいやつって?」
「今向かってるみてぇだ」
俺は斎藤と二人ギャストで、俺に会いたいという男を待っている。女子ならば少し期待したのかもしれないが、男と知っててドキドキすることはない。したなら俺はホモか、極端に友達の少ないラブコメ主人公だ。
斎藤が何かに気づいたように、入口を向く。
「おっ。来たみてえだべ」
「ほう。どんなやつだ?」
俺は入口をみた。会計をする母親、その家族らしき無愛想な学生と老人、それからパーカーを着た女の子が一人いるだけだ。
「いなくね? あの学生か?」
「あんなブサイク知らねじゃ」
「ブサイクって……。じゃあどこにいんだよ」
「あのパーカーの子だで」
「パーカー?」
それは、女の子のことだろうか。まさか俗に言う、『男の娘』というやつだろうか。
パーカーの子はこっちに気づくと、手を振ってきた。斎藤もそれに振り返す。やっぱりその子なんだろう。
パーカーの子は早足でこちらに歩いて来る。
「おはよう
「初めまして」
斎藤が先に俺を紹介したので、俺は軽く挨拶をした。
さあ。この未来くんはどんな声なんだろうか。女の子の見た目だからやっぱり、可愛い声か?
未来くんは席に座り、自己紹介をする。
「こんにちは。
その声を聞いた途端、俺は頭が真っ白になった。きっと酷い顔をしていただろう。
いや何故かって。そりゃあさ。
「近藤くん、未来くんの声さ驚いてらべ」
「当たり前だろ」
だって、あまりにもダンディなイケボなんだから……。
「こんなに可愛い顔して……」
声は……。ね?
見た目に騙されちゃだめ。はっきりわかんだね。
「ごめんなさい。気持ち悪いですよね……」
未来くんはそう言って落ち込んでしまった。
「い、いや。そんなことないよ」
なんでだろう。顔だけ見れば可愛い子を泣かせてしまった罪悪感が生まれるのに、声を聞くと何も感じない。
「俺、顔と体型のせいで友達にいつもキモがられるんです」
しかも一人称『俺』かよ!
「えっと……。別に俺は悪くないと思うけど……。うん」
「本当ですか!?」
「可愛い顔をキラキラ近づけるのはいいけど、可愛いセリフをダンディな声で言わないで!」
あ。つい声に出てしまった……。
「やっぱり似合ってないですよね……。そうですよね……」
やらかしたぁぁぁああ! 未来くんが可愛いとかじゃなく、普通に初対面への対応としてミスってしまった!
「ま、まんつ料理頼むが」
斎藤がなんとかフォローしようとしてくれているのが、余計胸に刺さる。
「えっと、じゃあ俺はチーズハンバーグで」
「近藤くん子供だな」
「うっせえ」
斎藤がいればなんとか乗り越えられるかもしれない。こいつは意外とフォローの神かも。
「未来くんは?」
「じゃあ俺は『ガッツリ分厚い黒毛和牛ステーキ』で。お代は自分で出すので」
「めっちゃ男っぽいなぁ!」
ふんわり顔でガッツリすんなよ。いろいろ残念だよ……。
って、しまった。またやってしまった。
「えっと……、えっと……」
やばいよ。何て言おう。
悩んでいると、未来くんから何食わぬ顔で言ってきた。
「まあ、男ですし」
「あ、ああ」
そうだよねー。男だもんねー。顔可愛いから間違えちゃったー。
どうやら本人のコンプレックスは、男らしい声ではなく少女のような容姿の方らしい。
斎藤が店員を呼び注文する。斎藤は『和風おろしきりたんぽハンバーグ』なるものを注文した。
最初に俺のチーハンが到着。
「近藤さん、子供っぽいですね」
「十分でデジャヴってあんの?」
俺のツッコミに未来くんはキョトンとする。まあ、俺でも意味わかんなかったし。
続いて未来くんの黒毛和牛。
「……」
「近藤くん、なした?」
「いや……。美味しそうだなって」
「一口あげましょうか?」
「あ、いや……」
可愛い顔に言われるのはドキッとするけど、声が! 声が!
「俺はチーハンあるし」
「やっぱり子供だなぁ」
「子供ですね」
「ねえやめて!?」
そんなやり取りの中、斎藤のきりたんぽが到着した。
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