ここで!?番外編 嫁には幸せになって欲しいですね

「結婚してください」

 彼からその言葉と共に指輪を受け取った、あの夜の函館山は絶対に、一生忘れない。


 彼と結婚する前も、した後も、子供達が生まれた時も、何度も聞いていた事なのに。未だに受け止めきれていない。

 彼も、子供達も……。

 ……ゴリラになるなんて。

 息子と娘を一人ずつ授かり、その息子も小学生になった今。子育てが少し楽になって、自分の時間が増えた。

 そういう自由時間を見つけては、私はいつも決まってやる事がある。

 戦争によって持ち込まれた病気、『剛力羅』について調べる。

「必ず……、あの子達がゴリラにならない方法が見つかるはず」

 あるかもわからないのに、私は必死になって探した。

 インターネットを使ったり、新聞も片っ端から読みまくり、長い時間を取れれば図書館まで出向いた。

 だけれども、めぼしい情報は見当たらない。重要な事を書かれた書物は殆ど消されている。もしくはそもそも書かれていないのだろう。

 じゃあどうやって子供達を救うの?


 そして私は決心した。

「アナタ。……私ね。……」

 ……その次の年。私は国の重要書物を扱う極秘施設の司書になった。

(元々の学力が高くてよかった……)

 試験はすっごく難しかった。


 更に次の年。私はついに見つけた。

 剛力羅の治し方が書かれた書物を!


「ママは?」

「……」

「お母さん、何処行ったの?」

「……」

「お母さんと、新しいグローブ買うって約束したんだよ?」

「……」

「ねぇパパァ」

「……ん?」

「このゴリラ、なぁに?」

 ……

「……慶太。睦美。しばらくの間、このゴリラと四人で頑張ろうな」


 まさか私も剛力羅だったなんて。

 いや、剛力羅になったと言うべきか。

 ……私は完全に、国の書物に騙された。

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