第7話 の2 危険
「それは……、大変な目に会いましたね」
放課後のゴリラ研究部室。土方さんが俺の顔を見てつぶやく。
昨日の一連の出来事を、斎藤が話したのだ。
「しかし近藤殿」
「ウホ?」
「そのようなふしだらな者、殴ってしまってもバチは当たらないで御座ろう。何故殴らなかったで御座るか?」
「そりゃあ、近藤の握力八百でぶん殴りゃその変態が死んじまうだろ」
「そ、そういえば近藤殿は並の剛力羅よりも少々強いので御座った……」
部室はこの話で持ち切りだ。俺が「ウホ」しか言えないのが本当に残念なくらい、盛り上がっていた。
「まあ、その男とは今後絶縁することが妥当であろう」
「んだべな。おらの活躍で妹ちゃん助かったったで!」
「近藤も、早く剛力羅から解放されるといいな」
「そいだっけ待つしかねえべ。おらが助けたったで!」
「そうですね。近藤くんの回復待ち、後で皆でそいつを殺しに……」
「殺しちゃダメですよ!?」
「おらの活躍……」
いや、斎藤確かに助かったけど、流石にウザイ。てか俺抜きで盛り上がらないでくれないかな?
「そうだ。近藤くんもなんか喋ってくださいよ!」
あれ? この人俺の姿が見えてない?
「ウホッ」
「そうだ……。ウホしか言えないんでした……。プッ」
吹笑いで土方さんが言う。殴られたいのだろうか?
「ゴリ藤の剛力羅はいつ戻るんだ?」
「クラスのゴリラを見たところ、だいぶかかりそうですね」
「なんでだ?」
村田さんが首を傾げる。
「近藤のクラスはこれで全員ゴリラになりました。他の生徒が解放されていないのを見ると、さらにかかると思います」
「なんでだ?」
「話聞いてました?」
沖田の顔から、苛立っているのが良くわかる。沖田苛立ちレベル(十三段階)でいうと七くらい。意外と高い方だ。
「剛力羅解放には個体差がある。近藤ひとり明日解放されてもおかしくはない。前にも言わなかったか?」
絶対に初耳だ。
「そうでしたね……。忘れてました」
お前は聞いたのかよ!
「沖田だば
お前も聞いたのかよ!
え、もしかして、聞いてないの俺だけか?
そんな不安を横切るが、今の俺には関係ない。何故なら、「ウホ」しか言えないのであるからだ。ウホしか言えないのだから、聞いていても聞いていなくても反応は同じ。意外と楽だ。この体。
にしても、個体差があるのか。そういえば、中々人間に戻らない人もいるみたいだし、当然なのか。
「へば、近藤くんが今元に戻って全裸ってのもありえらったが!?」
「ああ。そういうこともあるが……。何に期待してるんだ」
斎藤も昨日から危険人物だ。俺を好きかもしれない。普通は喜んだり調子にのったりなんだりするのだろう。しかし、斎藤に好かれても俺はそうならない。
……なんか怖いのだ。
何故昨日、あのグッドタイミングで入って来れたか。何故あったこと無いはずの母さんの顔を知っていたか。
即ち、こいつもまた、犯罪くさい。ストーカー……というのも考えられるかもしれない。どうあれ、あまり関わると危ないだろう。
「近藤くんの全裸……全裸……。近藤くんの……全裸」
……変態。やっぱ危険だ。
「ま、まあ結局、自然に戻るのを待つしかないだろう」
村田さんがそう場を抑える。その目は完全に引いていた。
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