第6話の2 妹はウザイか可愛いか二択
妹の
「それにしてもお兄ちゃん、おっきくなったこと〜」
お前はおばあちゃんか。そしてゴリラになったことへの嫌味を言ってるのか。どうせ言っても「ウホウホ」だから心の中にしまっておいた。
「ゴリラってやっぱり臭いね」
「ウホウホッホ!」
『おい黙れ!』の意だ。
「きゃはは。やっぱり何言ってるかわかんないや!」
睦美はそう、無邪気に笑った。こうしていれば普通に可愛いと思う。
よく考えて見れば、俺は今まで『恋』というのをよく知らなかったし今もよくわからない。「可愛いな」などという思考はあったが、よく言うような「この人と付き合えないと嫌」といった感情まではいたらなかった。
土方さんも綺麗だと思ったし、こういう人が彼女ならいいなとは感じた。でも、それは俺の聞いた『恋』とは違った感情だ。保証もある。彼氏がいると聞いても、驚いたが「候補からはずれたな。残念」くらいだった。
俺ってもしかして、最低野郎?
「何ボケーッとしてるのお兄ちゃん?」
睦美の声で、俺は現実世界へと戻された。
「ウッホ」
人間には戻されてなかった。
「ゴリラだとやりずらいなー」
睦美がつぶやく。それは俺も同感だ。
ピンポンと、呼び鈴が鳴った。俺は瞬間的に玄関に出ようとしてしまう。
「あああ、お兄ちゃんは待ってて。その体で出て行ったら……、ね?」
睦美に言われてソファに腰を降ろす。剛力羅状態に慣れてしまい、すっかり忘れていた。
玄関から扉の開く音が聞こえ、なんと言ってるかはわからないが睦美が盛り上がっていた。睦美の友達だろうか。
バタバタと足音が聞こえ、リビングのドアがバンっと開く。
「お兄ちゃん大変だよ!」
ドアを開けた睦美が慌てて言った。
「ウホ?」
そうだ。ゴリラだった。いい加減覚えろよ俺。
んでして、妹よ。どうなさったのか。声には出さず、視線で伝える。ゴリラの目で伝わるかはさておき……。
「そ、そう……」
ハアハアと息を切らしながら睦美が言った。それ程の距離でもないだろ。
「そうちゃんが来たよ!」
おお。そうちゃんか……。そうちゃん?
「ウホッ?」
誰の事だ?
★★★
妹が連れて来た『そうちゃん』を見て思い出した。
「いやー。にしても」
颯治が口を開けた。相変わらずのタラ口だ。
「慶太んち、ゴリラ飼い始めたんだー」
……は?
「そういえば慶太は?」
……は?
「むっちゃん。お兄ちゃんどこ?」
……は?
こいつはさっきから何を言って……、あ、そうだ。
俺ゴリラだった。覚えろよ俺マジで。
「えっと……、お兄ちゃんは……」
睦美が返答に困る。
剛力羅の事は一般には極秘である。睦美にも両親が伝えた筈だ。昨日の険悪な食卓がこの心が覚えてる。
「お兄ちゃんは、まだ学校です……。多分」
睦美。ナイス。
「ええー。慶太いないのかー」
「は、はい。残念ながら……」
睦美が下手な作り笑いをする。こんなので騙される颯治。ありがとう。
「じゃあ、帰って来るまで待つわ」
っておい。そこは帰れよ。
「いや、その、あの……」
睦美がどんどん困っていく。その表情だけ見れば、やはり我が妹ながら可愛い。
「お兄ちゃんは……、今日は多分、すっごく遅くなるかなー」
睦美。ナイス。
「そっか。慶太帰り遅いのか」
颯治は残念そうな表情を浮かべたが、少ししてニヤリと笑う。
「そういえば慶太んち、親が帰ってくるのも遅かったよね?」
「は、はい。二人とも早くて十時くらいです」
睦美がそう言うと颯治は時計を確認した。今は八時だ。
「じゃあ、慶太が帰って来るまでこのゴリラと二人っきり?」
「まあ、そうです」
颯治のニヤニヤがいっそうましてきた。
「じゃあ俺が一緒に待っててあげる」
「い、いいですよ。ゴリラがいればいいですし……」
「所詮ゴリラだろ。俺ならもっと楽しませてやるよ」
こいつ、何をするつもりだ?
いや、わかってるだろ近藤慶太(ゴリラ)。こういう台詞言うやつのやる事は決まってる。
「な、何をするんですか?」
「すっごくいい事だよ」
そう言うと颯治は睦美を押し倒した。
「キャッ!」
「楽しませてやるよ!」
そう言いながら颯治は睦美が履いていたジャージのズボンを下ろそうとする。
「やめて!」
「いいじゃねえかよ。どうせこのゴリラしかいねえし」
なぜ俺の足は動かないんだ。妹が嫌な目にあってるのに。目の前で性犯罪が起きようとしてるのに……。なんで……。
もしかして俺……興奮してる?
そう思って俺はしたを見る。
俺のゴリラが剛力羅状態だった。
ああ。俺、最低だ……。
「やめて!」
妹の声が聞こえる。でも俺は動けない。
股間に手をあて……
「助けて、お兄ちゃん!」
その声を聞いた瞬間、俺は気付かないうちに颯治を殴ろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます