第6話の1 ゴリラは握力六百

「プハハハハハ!」

 ゴリ研の部室に女の甲高い笑いが響く。

「近藤くんもついに剛力羅になったったな。ヒャヒャヒャ。いやあ、本当にゴリラにならったな」

 詳しくどこなのかはわからないが東北地方の方言だと思う口で、斎藤ゆいかは笑いながら言った。

「斎藤。それくらいにしておいてやれ」

「そうで御座る。近藤殿も好きで剛力羅になった訳では無いので御座るよ」

 既に剛力羅を経験した先輩二人はフォローに入ってくれた。

「わがったす」

 斎藤は俺の腰をポンと叩き、自分の席に戻った。

「さて」

 土方さんが話を切り出す。

「私たちゴリラ研究部の一年生にもついに剛力羅がでました。そこで私から提案があります」

 土方さんは俺をじっと見つめ言った。

「近藤慶太くんを……、実験台にしましょう」

「ウホォォォォォウ!?」

 ウホしか言えないが俺は「はいぃぃぃぃい!?」と言った。

 というか、この人は何を言い出すんだ。怖すぎる。

「これはゴリ研にとって良い機会チャンスです。剛力羅がどれほどゴリラに近いのか、調べる事ができます」

「異論はないな」

「賛成で御座る」

「僕もいいと思います」

「やってねが?」

 皆怖い……。

「近藤くん、よろしいですか?」

 まあ、怖いことしないなら良いだろう。これももしかしたら他の人を剛力羅から救う事になるかも知れないし。

「ウホッ」

 俺はウホだけしか言えないがこれは承諾したという事だ。

「ありがとうございます。では始めましょう」


「ウホイホウホウホウホウホウホウホウホォォォォ!」

「近藤くん。うるさいです」

「頑張れ近藤!」

 これはどういうことだ?

 なんで俺は今、剛力羅化した山崎さんに四の地固めをくらってるんだ?

 痛いに決まってる。

「すまぬ近藤殿! 剛力羅の未来の為で御座る!」

 剛力羅の未来痛すぎ!

 ただでさえムキムキの山崎さんが剛力羅化したら、いくら剛力羅化した俺でも痛すぎる!

「成程。痛みに耐える力は個体差があるようですね。これはゴリラ共通しています」

「ウホォ!」

 土方さん、解説いらないからあとやめさせて!

「山崎くん、もういいですよ」

 よ、良かったぁ……。

「次は握力を測ります」

 握力?

「しょーちゃん、あれを」

 そう言われ村田さんが持ってきたのは……、巨大な握力測定器だ。

「ウホ?」

「これは七百まで測れるようになってます。さあ、思いっきり握って下さい」

 なんで七百?

 そう思いながらも俺は測定器を思いっきり握った。

「ウホォォォォ!!」

 バギィッ!

 ん?

 変な音がなって俺は恐る恐る右手を見る。

「こ、壊れてら……」

「凄いな……」

 測定器は綺麗に割れていた。

「ウ、ウホ」

 なんでやねん!

 俺の握力は八十だ。七百まで測れる測定器が壊れる筈がない。

「今までの研究結果では、剛力羅化した人は握力が百倍になりました」

 百倍?じゃあ俺は……八百?

 はぁ?

「近藤くん、貴方、握力強いですね……」

 知ってます。わかってます。壊してすんません。

「まさか拙者よりも握力が強いとは……」

 いや、山崎さんそんなムキムキで俺より弱いのかよ。


 その後も色んな方法で研究、基俺いじめは続き、日もすっかりくれた。

「いやあ近藤くん、本当に力強えったな」

 帰り道、何故か斎藤がついてくる。

「好きになったかも知んねえわ」

 あっそー。……は?

「ウホッ!?」

 ななななな、何を言ってるんだ?

「ハハハハ。冗談だって。おめ、ほんとおもしれえな」

 冗談か……。良かったと思うがちょっとショックだ。冗談抜きで好きでも別に嫌では……ない……かな?

 斎藤は見た目でいけば可愛い方だと思うし、いじってくる時はイラッとすることもあるが、一緒にいて楽しいと思うし……。

 あれ?なんだこの気持ち……。

「まあ、んだども……」

 下を向きながら斎藤が言った。

「近藤くん、嫌いではねえど。今はゴリラだども、結構イケメンだしや」

 俺の胸がぽっと熱くなる。

 なんだこの気持ち。本当になんなんだよ。

 成程。そうか。これが十五年ちょっとの間、本当の意味では経験したことのなかった感情。

 ……恋か……。

「あ、今近藤くん、恋したって思ったべ」

 ………………。

 何故わかったし。

 俺の熱くなった胸は冷め、もうすぐで家につくことを思い出す。

「近藤くんの家、そろそろだな。へば、まんつな」

 斎藤はそう言って来た道を戻った。

 ……マジで、あいつなんでついて来たんだ?

 家の前に立ち、俺は玄関の扉をそっと開ける。

「ウホウホー(ただいま)」

「あ、おかえり」

 出迎えたのは妹だった。

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