第4話の2 近藤

 会議はまだ続いた。

 話し合う事も無いのになぜ続くのか。

 それは、村田さんが俺に驚くべき事実を告げたからである。

 その事実とは……


「近藤、お前の親父さんの名前は?」

「え、父さんの名前?」

 村田さんが俺に聞いてきた。何故聞いたのかはわからない。しかし、答えない理由もないので俺は教える事にした。

「俺の父さんは近藤こんどう伊三郎いさぶろうです。」

 俺の答えを聞いて村田さんはニヤリと笑い、俺の方に歩いてきた。

「近藤伊三郎か……確か、校長と同姓同名じゃないか?」

「校長……?」

 校長先生がどんな人だったか思い出してみる。

 校長、校長、校長……校長?

 校長はそういえばゴリラだったな。

「校長先生の名前は覚えて……というか知らないんですが、同姓同名って凄いですね。奇跡でしょうか」

「凄いですねじゃない!」

 俺の返答に村田さんは激怒し、俺の胸ぐらを左手で掴んできた。

「な、なんですか!?」

「なんですかだと?貴様わかってないのか?校長のクソゴリラ野郎こそがお前の親父さん。全ての元凶だよ!!」

「は?、はい?」

 俺の父さんが全ての元凶?なんのだ?

「お前の親父さんはな、この学校生徒をゴリラにしてるんだ」

「お、俺の父さんが……なんで」

「理由なんて知らない。ただの噂でしかない」

 ただの噂に俺は怒鳴られてんのか?

 ……理不尽過ぎんだろ。

「しょーちゃん、やめてください」

「お前は黙っていろ!」

 土方さんが止めに入ったが村田さんは止まらない。

「お前は理不尽と思うかもしれないが、父親の罪は息子に償って貰う!」

 そういうと村田さんは右手を振りかぶり、俺を殴ろうとした。

 その右手は……ゴリラの腕だった。

「俺たちをこんな目に合わせた罪、息子のお前が償え!!」

 ゴリラの右手が俺に向かって飛んでくる。

 ゴリラは彪をワンパンチで殺せるらしい。

 そのパンチが俺に当たれば……

 確実に死ぬ。

 俺は歯を食いしばり、目をつぶる。痛みは少しでも和らげたいと思った。

 しかし、飛んできた右手は俺の顔に当たる事はない。

 恐る恐る目を開けてみる。

 目の前は茶色かった。

 どうやらその茶色はゴリラの腕のようだ。だが、村田さんの腕ではない。

 俺は誰の腕か確かめる。

 その腕の人物は……

「村田殿、やめるで御座る」

 山崎さんだ。

「おい山崎。先輩の行動に手出しすんのかよ」

「先輩後輩など関係ない。拙者は村田殿の行いが誤っていると感じたので御座る。誤りを正した。それだけで御座る」

 山崎さんは俺を守ってくれたようだ。

 二人の腕が人間に戻り、村田さんと山崎さんの言い合いが始まる。

「誤りだと?こいつの存在自体誤っているんだ。誤りを正してるのは俺だろう」

「いいや。誤っているのはお主だ。ただの噂だけで剛力羅ごりらになっていない者を殺そうとしてはいけないで御座る」

「は?お前はいつもいつも御座る御座るうるさいんだよ。何侍気取ってんだ気持ち悪い」

「お主こそ喋り方を統一した方がよいで御座る。秀才ぶったり不良ぶったり。そっちこそ気持ち悪いで御座る」

「あ?やるのか?」

「勝負いたすか?」

 いや、もはや俺関係なくね?

 二人は向かい会いながら体ゴリラにした。

「や、やべえど。剛力羅同士の喧嘩が始まってしまう。止めねえど死人ばしでてしまう……」

 斎藤は体がゴリラになることについて何か知っている様だ。

「斎藤の言う通りだ。さっきの体がゴリラになる現象は謎だが、あれで喧嘩が始まったら死者が出てしまう!」

 沖田も斎藤も危険だと感じているらしい。

 確かに、握力六百同士の戦いは危険にも程があるくらいだ。どうにかして止められないか。

 その時だ。

「やめてください!」

 土方さんの声で部屋中が静まる。時が止まったようだ。

「私が生徒会副会長として集めた情報を全部教えます。だからしょーちゃんも山崎殿も喧嘩はやめてください」

 土方さんに言われ、二人は人間に戻った。

「皆さん、座ってください」

 指示が部屋中に響き、全員椅子に座った。

 村田さんと山崎さんはゴリラになったときに服が破けたのだろう。上半身は何も着ていない。

 はぁ、とため息をついて話始めた。

「では、これからお話したいと思います。人体猛獣化症候群。通称『剛力羅』について」

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