第4話の1 頭のネジの締め付け具合

 一日の授業が終わり、俺はグラウンド……ではなく、ゴリ研の活動場所へ足を運ぶ。理由は単純。『土方さんに呼ばれた』だけだ。

 ゴリ研の活動場所は北校舎三階の端っこ。最も暗く、生徒があまり……というより、まったくこない場所。

 北校舎は現在はあまり使われていないらしく、授業で行くのは数学で距離を測るためとかそれくらいのようだ。

 活動場所についた俺は、いつもの元気さとはうって変わりそっとドアを開ける。

「し、失礼します」

 声もいつもより小さい。

 俺は何に緊張しているのか。

 答えはわかっている。それは勿論、土方さんだ。

 土方さんは綺麗な人だ。それだけでも緊張する要素ではあるが、昨日食事に誘って断られた。昨日の今日で気まずい。

 それだけ緊張するのにも関わらず、呼ばれた時は俺個人。つまり二人きりだ。

 それはそれは、思春期男子は緊張しますよ。

 しかしその緊張は、室内から聞こえてきた声ですぐに解けた。

「やあ近藤。遅かったじゃないか」

 ……………………

 お前もいんのかよ沖田!

「どうしたのだ近藤。さあ、早く座りたまえ」

 ショックなのか怒りなのか安心なのか。よくわからない表情を浮かべた俺を見て、沖田は自分の隣の椅子を引いた。

 元からなのか、それとも土方さんがいるからか、どちらにせよ気持ち悪い優しさだ。こいつといると俺のフレンドリーキャラが崩壊してドS根暗キャラになりかねない。

 俺は沖田が引いた椅子に座る……フリをしてその隣の椅子に座った。

 沖田の驚いた顔は写真に収めなくとも俺の記憶に永久保存されるだろう。

「それじゃ揃ったみたいですね。これからゴリ研会議を始めます」

 土方さんの心に響く美しい声で始まった『ゴリ研会議』なるものには、俺と沖田だけではなく他にも数名参加していた。

 上級生だろう。体つきがよく、椅子に座っている姿が勇ましい人がいる。

 その隣には昨日集まった時に見た女子の一人が。

 他にもいたが、俺が特に目をつけたのが土方さんの隣で腕を後に組んで応援団の様に立っている男だ。そいつの顔には見覚えがある。

「それでは自己紹介から始めましょう。しょーちゃんからお願いします」

 自己紹介が始まり、しょーちゃんと呼ばれたその男、さっきの見覚えのある男が声を出した。

「俺は村田むらたしょう。一応土方とは恋仲にある。皆、よろしく頼む」

 村田翔……。思い出した。こいつは昨日土方さんと一緒にいた男だ。昨日は遠くて顔が少し確認できたくらいだが……厳つい。かといってブサイクではなく、顔は整っている。

 非常に腹立たしい。

 それはさておき、自己紹介は続く。俺がこの学校に来て初めての理解できる自己紹介だ。名前位は覚えておこう。

「拙者は山崎やまざき定男さだお。剣道部に所属している二年生で御座る」

 座った姿が勇ましい先輩はいかにも『武士』を気取っている様な人だった。

「オイば斎藤さいとうゆいか。一年生だっす」

 昨日も見た顔の女子は東北の方だと思われる方言を喋った。

 勿論他にも人はいたが、皆印象が薄いのであまり覚えてない。やはりゴリラ後は印象のだいぶ強い人じゃない限りは覚えられないな。

「僕は一年生の沖田清一です。よろしくお願いします」

 沖田のしっかりした挨拶終わり、次は俺の番だ。

 クラスで自己紹介は周りがゴリラでうまく行かなかった(言い訳)が、今回はちゃんと人間。成功させてやる。

「俺は近藤慶太!野球部に入部予定の一年生!よろしくお願いします!」

 決まった。元気のいいキャラという印象をちゃんと与えたはずだ。きっとゴリラみたいに拍手もある。

 ……と思ったが拍手はなく、会議は次に進んだ。

「では次に新入生ためにゴリ研の説明……だけど、昨日したからいいですね!」

 投げやりな可愛い土方さんの発言で俺の心は晴れた。

「次は……………………しょーちゃん、なんかありますか?」

 土方さんは村田さんに委ねた。

「は?お前が進行役だろ。お前で決めろ」

「えー!しょーちゃん酷いです!そんなだから今まで彼女できなかったんですよ!」

「俺はお前さえいるならいいんだ!」

「し、しょーちゃん!?みんないるところで……」

「あ、悪い……後でパフェ奢るから」

「じゃあ許します!」

「「「そこ!イチャついてんじゃねえ!!!!!」」」

 部屋中の声がハモる。これは奇跡と呼べる……じゃなくて。

 イチャイチャを見せられるのは……しかも土方さんとのイチャイチャを見せられるのは本当に腹が立つ。沖田を校庭で全裸にして倒立させて『僕は一生童貞を貫きます!』って言わせたい程に。

 ……俺、マジでドSにクラスチェンジしよっかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る