第3話の1 ギャスト

「ただいま〜……」

 家のドアをあけ、まっすぐ部屋に向かう。リビングから「おかえり」と聞こえてきたが返事はしない。

「ふぅ」

 バックを床に投げ、ベットに横になる。いつも通り、ベットが硬い。

「慶太……?」

 部屋のドアが開き、母さんが入ってきた。

「どうしたの?疲れてる?」

 俺のいつもより低いテンションを疑問に思ったんだろう。

「……大丈夫だよ。」

 少し疲れてはいるが、健康的に問題はない……はずだ。

 わからない。一日中ゴリラといたんだ。獣に関する……なんか……病気みたいなのにかかってたりかかってなかったりするかもしれない。

「そう?なんかあったらちゃんと言ってね?ご飯もあるから……」

 そう言って母さんはリビングに戻って行った。

「ゴリラか……」

 今日一日、ずっとゴリラばかり見てきた。

 巨大で臭い、清潔感のないゴリラ。

 その中にポツリといる人間。

 先輩達はよく精神崩壊しないな。

 それにしてもやっぱり……

「土方さん、綺麗だったな……」

 彼氏とデートに行ってしまってから、俺と沖田の二人でファミリーレストラン『ギャスト』へ行った――――――


「土方さんと来たかったなー」

「全くだ。まさか彼氏がいたとはな」

 俺と沖田は料理を食べながら話をしていた。

「沖田の和風おろしハンバーグ?って旨いのか?」

「勿論。日本人は和風に限る」

「大根おろし苦手なんだよな……」

「近藤の口はまだ子供なんだな」

「うるせぇ」

「いやいや。チーズハンバーグを食べているのが何よりの証拠だ」

「チーハン馬鹿にすんなよ!超旨いから!」

 それにこれはただのチーズハンバーグではのく、『チーズINハンバーグ』だ。チーズがかかっているか中に入っているか、それだけで全然違う。

「ハイハイ子供。子供は騒いで食べていたまえ」

 沖田はニヤリと笑いながらナイフでハンバーグを切り、フォークで口に運んだ。

 コイツマジでうぜェ。

「それにしても……」

 沖田が話を切り出してきた。

「やはり土方さんと来たかったな」

「それマジでな」

 この話題は今日十三回目だ。学校を出てからずっとこの話。

「彼氏の顔みたか?」

「勿論見たぞ」

「すげえイケメンだったよな〜」

「全くその通りだ。あれでは僕達に勝ち目はないだろう」

「土方さんと付き合えたらか……」

 いったいどんなデートをしただろうか。

「遊園地に行ったり、動物園に行ったり、カフェに行ったり、ホテルに行ったり……」

「ホテル?」

 沖田は何が言いたいのかわからないという様子で食べるのをやめ、俺を見ていた。

「ホテルだよ。ラブホ。デートの後は一発――――――」

「それ以上言うな。ハンバーグが汚れる」

 だって男の子だもん。性欲くらいあるよ。

「話題を変えよう」

「お?」

 完食した皿を並び直し(几帳面だな)、エヴォンゲリオンの至司令いたりしれいのようなポーズで俺を見つめてきた。

「ゴリラの事だ」

「おお……」

 俺は身を乗り出して真剣な顔をした。

「僕達はゴリラ研究部にも入り、これから想像以上にゴリラと関わる事になるだろう」

「確かにな」

「そもそも何故法律で認められているのか……」

「そっからかよ」

 そこは色々都合が……

「こういうところをちゃんと知らなければ何も始まらないだろう」

 ……………………

「そうだな」

 ちゃんとしないとダメですよねぇ。ははは……

 その後会計を済ませ、解散した。

 ――――――――――――――――――


 思い出しながらスマホを弄る。中学時代の同級生と話していると思ったよりもゴリラが悪いものではないと思えてきた。

 何故なら……

 慶太『今日できた友達とギャスト行ってきたわ』

 颯治そうじ『もう友達できたのか。さっすが慶太。俺の恋人www』

 慶太『ホモかよwww』

 颯治『ウホッ。いい男wwwwwwwwww』

 ……ここにゴリラよりウホウホ言ってる奴がいるからだ。

 慶太『ホモは無理です』

 颯治『俺萎えちゃうわ〜www』

 そんな馬鹿な会話をしているとドアが開いた。

「お兄ちゃんいるー?」

 妹の睦美むつみだ。

「ああいるぜ」

 携帯をいじったまま返事をする。

「ご飯食べないの?」

 俺を心配してきたんだろう。優しい妹だ。

「大丈夫。もう少ししたら食いに行く」

「そう?」

 睦美は何故か残念そうだった。

「どうしたんだ?」

 俺が気になって聞いてみると……

「いや……お兄ちゃん食べないならその分唐揚げいっぱい食べれたのになぁって……」

 心配してなかった。

 まあ、中学二年で食べ盛りだ(俺もだが)。そういう事を思うのも普通かもしれない。

「じゃあ俺の唐揚げも食っていいぞ」

「ほんとに!?」

 俺が唐揚げを譲ると嬉しそうに部屋を出ていった。

 本当に……可愛い妹だな。

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