第2話の2 怠惰な眼鏡

 副会長の話が終わり、生徒会室から出た俺はもう一度野球部を見ようと思いグラウンドに向かった。

 すると、誰かに話かけられた。

「やあ。ちょっと話さないか?」

 それはさっきの眼鏡ボーイだった。

「ああ。いいぜ」

 俺達は壁に避け、まずは自己紹介から始めた。

「俺は一年三組の近藤慶太だ。よろしくな」

「僕は沖田清一おきたせいいち。一年二組だ。よろしく」

 二組といえば三組と逆で、勉強はできるが運動は……という奴のクラスだ。

 沖田は眼鏡中指を使ってクイッとあげ、一つため息をついた。

「ゴリ研の話だが、実を言うと僕はあまり乗り気ではないんだ。」

「そうなのか?」

「うん。確かにこの学校に来てゴリラを見て、最初は驚いた」

 窓の外でゴリラ達が部活をしている。沖田はそれを見てさらに続けた。

「ゴリ研も。とても興味深いがやはりどうしても乗り気にはなれないんだ」

「そりゃまた……どうしてだ?」

「学校の秘密を探る。それを学校でやる。非公認部とはいえ、不自然じゃないかな?」

「そうか?学校の事を学校でやるって普通じゃねえの?」

「じゃあ君は親の誕生日、過去の出来事を深くまで詮索せんさくするかい?」

「しねえな。誕生日とかはちっさい頃勝手に教えられたし、昔の出来事なんて向こうから言われねえとそもそも詮索する過去があることすらわかんねえ」

「そうだろう。それと同じだ」

 ん?ちょっとわかんなかったかな。

「親と学校は違えだろ」

 沖田はチラリとこちらを向き、もう一度前を見て考え出した。

「うーん。そうだね。

 じゃあこの学校のゴリラの事を親の誕生日と合わせてみよう。親が存在している事から親には誕生日やさらにその親がいることがわかる。つまり存在するものの起源がわかるんだ。

 しかし、この学校にゴリラが存在する事に関しては起源がわからない。何故いるのか。どうして国が認めているのか。どうしてあらかじめ伝えられていないのか……」

「つまりどういうことだ?」

「知らされるべき事なのに何故自分で調べるのか。そこが不自然なんだ」

 確かに。ゴリラの事は事前に知らされる事だし、そもそもこんな変な学校だと全国ニュースで紹介されかねない。

「成程なぁ。だからお前は乗り気じゃねえのか」

「うん。昔から調べるというのが苦手なんだ。一度教えられれば余程の事がない限り忘れないけどね」

 こいつが二組の理由がわかった。

「だから僕はゴリ研にはあまり参加する事はないと思っ――――――」

『ガラガラガラ』

 ドアが開いて生徒会室から副会長が出てきた。

「君たちまだ残ってたんですか。部活見学は行かないんですか?」

 副会長は相変わらず後輩の俺らにも敬語を使っている。

「いえ。僕達、先程のゴリ研の話をしていて……」

 沖田がそう言うと副会長は目の色を変え、俺らの方へ来て言った。

「ゴリ研!?そうだ!君たちさっきはありがとうございます!えーと名前は……」

 名前を聞いてきたので俺と沖田は答えた。

「近藤慶太です」

「沖田清一です」

「おお!近藤くんと沖田くんですね!いやぁ、ほんとにありがとうございます。助かりましたよ!」

 副会長は俺らの手を片方ずつ握り大きく手を振っている。

「あの……副会長は……」

「土方でいいですよ」

 訂正されたので俺は言い直した。

「えっと……土方さんはゴリ研の部員なんですか?」

「はい。部長をやってますよ」

 部長でしたか。

「まあ、学校非公認で部として成り立ってないから部長って言うのかはわからないんですけどね。ははは」

 土方さんは笑い、少し幼い表情をみせた。

 やっぱり可愛い。綺麗と可愛いを兼ね備えた存在……土方さん女神かよ。

「その……土方部長」

「なんですか?」

 沖田が話しかけた。

「今から一緒に食事なんていかがでしょう。ゴリ研について、もう少し詳しくお聞きしたいので」

「おい眼鏡!てめぇ」

「なんだい近藤くん。誘うが勝ち。君も一緒にどうだい?」

 俺の事も誘ってきた。

 それなら勿論……行くに決まってる。

「そういうことなら俺も。土方さん行きませんか?」

 俺と沖田は真面目な顔で土方さんを見つめる。

「えっと……その……」

 さあ、土方さんはなんと答えるのか……

「その……この後彼氏とデートなので。ごめんなさい」

「「え?」」

 か、彼氏いるのかよぉぉぉぉぉおおおおお!!!

「そういう事だから……さ、さようなら」

 土方さんはそのまま帰ってしまった。

「なあ沖田。提案があるんだけど」

「奇遇だね近藤くん。僕も提案があるんだ」

 俺と沖田は窓の外にいる土方さんと、……その彼氏を見ながら声を重ねて言った。

「「……これから一緒に食事でもどうかな」」

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