第2話の1 ゴリラ研究部

 ゴリラばかりのグラウンドを、ただじっと見ていた。

 何故ゴリラ達が野球のルールを知っているのか。

 日本語を理解した事から、並のゴリラとは違うことがわかる。まあ、野球の動きやルールを覚えることは見るだけで(俺は)十分だし、言語を一から習うよりは簡単だろう。

 それにしても、やっぱりゴリラだ。人間とは全然違う。

 迫力、球速、打撃、守備、体臭……

 どれも人間以上だ。

『ピンポンパンポン』

 俺がゴリラ野球に集中していると、校内放送が流れた。ゴリラ、人間、全ての生徒が動き止め、放送を聞いた。

『生徒会副会長、土方冬紅から連絡です。新入生の全人間生徒オールヒューマンスチューデンツは生徒会室に集まってください。繰り返します――――――……』

 お呼びのようだ。

 てか、オールヒューマンスチューデンツとかかっこよく言ってなかったか?あの副会長ってもしかして厨二びょ……

 ま、まあ、生徒会室に行くか。

 そして俺は生徒会室へと旅立った……!!

 すいません。普通にやります。


 生徒会室に来ると、十数人の人間がいた。

 俺が椅子に座ると副会長が話し出した。

「よし。これで人間生徒十三人が揃いましたね。では話をしたいと思います。」

 土方副会長は十三人で全員という絶望的な数値を伝えると、一呼吸おいて立ち上がり、後ろを向いて二・三歩下がり、こちらをバッと向いて……

 って、溜め長いわ!!!

「すいません副会長。早くしていただけないでしょうか。」

 そう言ったのは俺の隣にいた眼鏡ボーイだった。

「ああ、すいません。ちょっと溜め過ぎましたね。本当に……話を始めます」

 副会長は謝って話を切り出した。

「皆さん、朝驚いたと思います。教室に入るとゴリラがいる事に……正直言って、嫌だと思う人も少なくない筈です」

 確かに驚いたし、ゴリラだらけだと嫌だと思う。

「この学校に何故ゴリラが通っているのか。そもそも何処から来たゴリラなのか。それは私にも、先生達ですら分かりかねます」

 先生達でも分からない……ゴリラの謎……

「そこで皆さんにお願いがあるんです。先生達や、私からのお願いです」

 お願いか。どんなものでも自分にできる事ならやろうと思うが……

「皆さんに……『ゴリラ研究部』に入部して欲しいんです!」

 入部か。そういう事ならよろこ……

 は?

「い、今なんて?」

 俺の聞き間違いかもしれない。そう思って聞いてみたが

「ゴリラ研究部です」

「あ、聞き間違いじゃなかった」

 ゴリラ研究部……そこに入れと……

 ……何故?

「何故僕達がそのような部に入らなければいけないのですか」

 質問したのはさっきの眼鏡ボーイだ。

 眼鏡ボーイに続き、どの生徒も文句を言い出した。

「そうだ!なんでそんな部に……」

「そうよ!私はバレーをしたくてここに来たのよ!」

「ウチだって!なんでそんな部活入らんといけんのや!」

 部屋中が騒がしくなった。

「お、落ち着いて聞いてください!」

 副会長がストップをかけた。

「強制的にとは言ってませんし、皆さんの入りたい部活と掛け持ちしても構いません。ゴリ研は学校非公認の部活ですので、入部の手続きなどは不要ですし……ですからどうか……」

 副会長が一年生に頭を下げて言った。

 副会長でありながらも一年生に頭を下げる……社会的にはみっともない姿を見せられてはもう……

「もう……」

 俺は立ち上がり、大声で言った。

「俺は入るぜ!ゴリラ研究部!こんな姿見せられたら入るしかねえだろ!」

 全員が俺に注目する。尊敬の眼差しで見る奴もいれば、ドン引きする奴もいる。

「い、いいの!?」

 副会長は俺に熱い視線を送って言った。

「勿論ですよ!俺野球部入るんで、それと掛け持ちで良ければ入ります!」

「あ、ありがとう!」

 俺の手を握り、キラキラした顔で俺を見つめて来る。

 元々綺麗な顔だと思っていたが、こうして至近距離で見つめられると少し恥ずかしくなる。

「フッ。では僕も入るとしましょう。さっきはあんな事言いましたが、なんか面白そうですしね」

 眼鏡ボーイも入るようだ。

「らしいですよ。良かったですね!」

「うん。ありがとう……」

 副会長は涙を流しながらお礼を言った。その表情が凄く可愛い。

「お、俺も入る!」

「俺もだ!寧ろサッカー部入んないでゴリ研だけでもいいぞ!」

 副会長の可愛さにつられ、男子は全員入部する事になった。

 しかし女子は……

「は?マジ有り得なーい」

「顔につられるて、アンタらゴミ以下やな」

 乗り気では無いようだ。

 それでも部員は集まった。

 ゴリラ研究部……楽しいかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る