第27話 きっかけ

テレビ画面には屋上から1階まで、渡り廊下が一直線に裂けているマンションの映像が映し出されていた。

ドローンも使った、すさまじくインパクトのある映像だ。

建物の映像を見ながら、本間氏がまくしたてる。


「建てたときの施工不良が原因の欠陥ですね。倒壊を免れたとはいえ、こんなにひどい亀裂ができたのでは、もう、このマンションには住めないでしょう。住人の方は建てたゼネコンを訴えるべきです。私も協力しようと思います。」


画面が変わる。


例のテレビクルーが撮影した、震災直後の舞波工務店の様子と、小屋の建設のときの映像が流れている。

社長、専務、小林くんもあかりさんも映っている。

作業を手伝っている近所の皆さんは楽しそうだ。完成した小屋の周り、さまざまなクロスや壁材で色とりどりの小屋の中で子供たちが笑顔で走り回る。

震災が起きてから数日の映像とは思えない。

お祭りか、町内会のイベントみたいな感じだ。


画像が切り替わり、舞波工務店の敷地にさまざまな車両が駐められ、この小屋をベースに警察や自衛隊が救援活動を行った。という紹介がされる。


次の画面には田尾さんが映った。


「彼の工務店は、河川の氾濫で水没してしまった」というテロップとともに、自社で施工した家の復旧工事を行うための窓口として、場所を提供した、親友の舞波工務店専務の紹介。工務店情報交換ネットワークの補修救援活動の紹介がされている。


次の映像は、震災で被害を受けた家らしい。

外壁が剥がれ落ち、外から内部が丸見えだ。

その部分を淡々と補修していく職人の映像が続き、「3日後、外壁は修理され、施主さんは、2カ月ぶりに自宅のお風呂に入ることができた。」のテロップが映し出される。


「震災直後でどこも助けてくれない中、舞波工務店さんと工務店情報交換ネットワークだけが助けてくれました。本当に助かりました。」と話す初老の女性の嬉しそうな表情が写る。


震災被害の支援活動は未だに続いています・・・。のテロップとともにVTRは終了。


「すばらしいですね。地元に根差した工務店さんや職人さん達。自ら手を動かせる技術を持っている人達ならではの活動ですね。」女性アナウンサーが言う。


「はい、私は地震の当日に、偶然、舞波工務店さんに居たんですが、みなさん、すぐに救援活動に入ってフットワークが抜群でした。VTRに映ってた女性の方もかっこよかったです。指示もよかったですけど、ご自分も道具使って作業してましたし。」


しゃべっているのは、あかりさんにこき使われていた例のテレビクルーの一人だ。


「本間さんはこういった活動をどう思われますか?」



「私が思うに、こんな小屋を勝手に建てるのはとんでもないことだと思いますよ。

10㎡以上の建築物を建てるには、確認申請を取らないといけないのに、無断でこんなことやってるなんて非常識も甚だしい。

こんないい加減な材料で建物を建てるなんて、倫理観を疑いますね!」


求めていたコメントとは違う、ピントの外れた発言に女性アナウンサーは苦笑いする。

さらに本間氏は続ける。


「それにね、いつも私が言っているように、工務店や職人なんてのは、いつもいい加減でひどい仕事しかやってないんだから、こんな時くらい、無償で働くのがあたりまえだと思いますよ。

当然のことをやってるんだから、賞賛なんかしてやる必要はないと思いますね。」

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