第26話 1か月後
1か月ほどして、ライフラインが回復。道路の通行が概ね可能になったところで、舞波工務店で建てた家の総点検が開始された。
倒壊や深刻なダメージを受けた家は無し。
揺れでクロスが破れたり、左官部分にひびが入ったお宅については、後日相談。
初代が建てた築30年以上のお宅は瓦葺きが多く、棟瓦が揺れですっとんでしまったお宅があって、そこから雨漏れの可能性があった。
板金屋さんや瓦屋さんはあちこちの補修工事に忙しいので、板金を使って、簡易棟を作成して、それぞれ2人体制で取り付けに行った。
あたしは社長と作業をしたが、5寸以上の急勾配の屋根に平気で上り、器用に銅線で棟の補修をしていく社長に驚く。
「社長って現場作業もできるんですね!」
「昔とった杵柄ってやつだよ。先代の工務店で修行してた時は、お前は不器用だから大工に向いてないってさんざんいわれたけど、なにくそ。って頑張った時期があったからね。体は覚えてる。
でも、あのころは、現場作業ができても、なかなか仕事が取れなかった。
バブルの頃はブランドイメージが大事だったからね。
いい家を建てることよりも、サービスで温泉旅行に招待するとか、芸能人とか有名なスポーツ選手なんかと知り合いだとか、そんなブランド力がないとだめだった。
だから、俺は技術やデザイン、設計以外で仕事を取ることしかできない。
おかげでこのざまさ。今回のことはいすみや、あなたにも迷惑かけて悪かったね。」
田尾さんの足立の事務所周辺は、津波による河川の氾濫で浸水。
事務所機能がほとんど失われてしまったそうだ。
他にも近隣の大規模火災に巻き込まれて、事務所が全焼してしまった「工務店情報交換ネットワーク」のメンバーの工務店もあった。
それでも、彼らの建てた家からは地震で受けたダメージを補修してほしいとのSOSが届いている。ということで、あの小屋を田尾さんはじめ、営業ができなくなった工務店の仮事務所として設定した。
震災の時、協力してもらったケーブルテレビ会社の回線を活用して、ネット電話やWEBが使えるようにして、司令部として設置。例のクラウドネットワークを使って、情報を一元管理。
舞波工務店スタッフはもちろん、工務店情報交換ネットワークの工務店社員、職人一丸となって、補修の支援活動を行った。
そんな復興中のある日、事務所に電話が入った。
「すいません。本間さんに連絡を取りたいんですけど、連絡が取れなくて。メールも通じないので、こちらに電話してみたんですが・・・。」
お話しを伺うと、築5年で本間氏の例のチェックを受けたお宅だそうだ。
最初の混乱が収まってから、本間氏はテレビに出まくっていた。
倒壊した建物の画像を見ては、「これは工務店の施工が悪かった!設計に問題があった!」と元気よくコメントをしていたが、最近は「クチだけでなにもしない。コイツ何様?」といった意見もネット上では出始めている。
震災直後に行った我々の小屋建設や、その後の救援活動を例のテレビクルーが撮影していて、ニュース番組で流したこともあって、他の局でも救援活動を行う工務店や職人の映像を流したことにより、本間氏が作りあげた職人や工務店に対するネガティブな世論のイメージは変わりつつあった。
「突撃!本間建築士があばく欠陥住宅!」は、震災の関連ニュース番組に差し替えられ、休止状態だ。
「本間氏なら、よくテレビに出られてますが、連絡取れないんですか?」
「連絡取れないんです・・・。地震直後は、しょうがないと思ってたんですが、1か月以上経つと。どうかと。地震の揺れで外壁が剥がれてしまったので、風が入って寒くてしょうがないんです。
水道も揺れで壊れてしまったようで、水が出せないので、お風呂にも入れないんです。建てた工務店に連絡しても、<あれだけケチ付けられたあなたのお宅になんで行かなきゃいけないんですか?もう、お宅の家の面倒は見られません。それに、地震や天災について発生した破損の補修については、免責です。
それに、あなたのお宅には、本間さんっていう立派な建築士さんがついていらっしゃるんですから、あの方に依頼したらどうですか>と言われてしまって困ってるんです・・・・。」
専務に相談すると、
「今は工務店ネットワークの施主さんが最優先ですから、すぐには無理です。でも、さしあたって、ブルーシートで壊れた壁をふさいだ方がいいから、小林くんとスケジュールを相談してください。それから、時間はかかるかもしれないですが、必ず直しに行きますので、安心してください。と伝えてください。」
このあとも、同様の相談連絡はあったが、そろって本間氏とは、連絡がとれないそうだ。
こちらからの連絡にも本間氏は応答しない。
例のテレビクルーに連絡を取って、直接伝えてもらったが「補修や修理は私の仕事ではない、そういう施主と連絡を取るつもりもない。」と言っていたそうだ。
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