第21話 あんたがやりなさいよ!
「そもそも、日本にはまともな建物を作れる工務店なんかないんだよ。
設計事務所もそうだ。やつらには知識も経験もないし、まともな設計ができる事務所なんかない。私はそんなやつらに鉄槌をくだしてやりたいんだよ。」
本間氏が言う。
「じゃあ、あなたがちゃんとした家を建てればいいじゃないんですか?きちんと事務所を据えて、自分で図面を書いて!」
「職人を動かして、専務みたいに自分で手を動かして。ほこりまみれになって現場をやればいいじゃないですか!
ヒトのあら捜しばっかりしてないで、自分で建てたらいいじゃないですか!
日本にきちんと家を建てる工務店がないんだったら、なんであなたがやろうとしないんですか!」
あかりさんが叫ぶ。
本間氏はニヤニヤしながら、
「そんなこと言っていいのかなあ?そうそう、今までにあんたが建てた家も調べがついてるんだよ。テレビ局と調べに行くよ?俺が調べれば、20や30の欠陥は簡単に見つかるんだから。アンタも専務みたいになりたくなかったら、大人しくしてた方がいいよ。アカリサン。」
「・・・まだ、調べてる途中だったんだけどなあ・・・。」
とあかりさんが、自分のデスクからタブレットを取り出す。
「経験がない設計事務所が許せないっておっしゃいましたよね。
私、調べたんですけど、本間さん。建築士になってずいぶん長いみたいですけど、本間さんって、ご自分で設計された建物って一軒もないですよね?ご経歴を見ても、意匠系の設計事務所にお勤めされた経験はないし、ゼネコンの下請けの下請け事務所に1年くらい勤めて、そのあとは、内装屋さんにお勤めだったみたいですね?」
あかりさんが、時々見せるちょっと邪悪なカオで畳み掛ける。
「その後、設計事務所を開いたみたいですね。WEBにご自分で作られたホームページが微妙に残ってましたよ。」
「そこでも一軒もまともなお仕事されてなかったみたいですね。
そうそう、ごりっぱな施工事例は載ってましたね。公民館の手すりの一部とか、結局実現しなかったビルのパースとか。
図面も載ってましたけど、あれ、JW-CADの練習課題ですよね。あんなもん、ホームページに載せたって、お客さんなんか来ませんよ。」
「そうそう、これだ。」
あかりさんが、タブレットに表示された画面を本間氏につきつける。
あたしからも画面が見えた。
やたらと書き込みの多い緑色のラインがごちゃごちゃと書かれている図面と、フォトショップ?で微妙に手書きパースを加工したプレゼンボードが載っているが、あまりセンスがいいとは思えない。
本間氏の顔がみるみる赤くなっていく。
「結局、あなたのやってることの原動力ってただの嫉妬でしょ?
華々しい経歴の専務が憎い。
施主さんに信頼されて、努力して培った技術で勝負している職人さんが憎い。
女の子なのに、自分で設計も施工もやっている私や華ちゃんが憎い。」
「みっともないわよね。」
ちょっと、やばいよ、あかりさん・・・。
「お、お前・・・。調子に乗るなよ・・・・!」
「へええ、なんか他に言うことないの?オンナノコにここまで言われて、なんかないの?」
「おれの設計を理解できるやつなんかいない!要求してくる予算で家が建つわけもないのに言ってくる無知な客、俺の設計に予算を合わせようとしない工務店!
おれが誰よりもいい家を建てることができるのに理解できるやつなんかいない!
それなのに、いいかげんな予算と設計で家を建てて金儲けしているやつが多すぎる!
お前のところの専務もそうだ!安西事務所にいたことをハナにかけて、えらそうな顔してるが、今は小さな工務店で、現場を走り回ってるだけじゃないか!
あんなやつになめられるのは、許せない!
俺にやらせれば、間違いない家が建つんだよ!」
一通り吠えると、本間氏は我に返ったような表情でさらに叫ぶ。
「お、おまえ!そんな生意気な口きくと、ホントにつぶすぞこのやろう!」
「できるもんなら、やってごらんなさいよ!受けて立つわよ!このヘタレ口だけ男が!」
あかりさんが、本間氏に近づき、タブレットを投げつける。
「・・・・・!」
顔を真っ赤にした本間氏があかりさんの胸ぐらをつかもう・・・。としたところで、腕をねじり上げられ、床に組み伏せられた。
本間氏より頭ひとつ背が高く、日々、現場を走り回って鍛えられた、体力や身のこなしでも並みの男には負けないあかりさんに、決して体格がいいとはいえない本間氏はかなわない。
「このお!」
本間氏は組みふせられたまま、片手で床にころがったタブレットをあかりさんの頭にたたきつけた。
「ごん!」という音がして、あかりさんが床に崩れ落ちる。
そのまま、あかりさんに馬乗りになろうとしていたところで、まんまるの影が本間氏を後ろから羽交い絞めにした。
「何やってんだこの野郎!」
田尾さんだった。
あかりさんよりさらに体格のいい田尾さんに抑えられては、本間氏は身動きできない。
「本間さん。落ち着いてください!」
専務も事務所に入ってきて、本間氏を抑える。
小林くんと3人がかりで取り押さえた。
「わかったよ、はなせ!」本間氏は3人を振り払うと。
「また叩き潰してやる!今度はこの女も一緒にな!もう一人のおまえ!お前の会社の物件も調べたからな!テレビ局と施主の手配も取った!
欠陥住宅として告発してやる!覚悟しておけ!」
本間氏は捨て台詞を吐いて、事務所を飛び出していった。
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