第22話 お姫様だっこ

「小田さん。大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。イケメン3人に助けられるっていうのもなかなかいい気分ね。」


「無茶なことしないでくれよ。嫁入り前の身なんだから。」

田尾さんがあかりさんの手当てをしながら言う。


タブレットが当たった時、かなり大きな音がしたが、なんとか出血も止まっている。


「横になって。あかりさん。」

あたしはソファの背もたれを倒して、あかりさんを横たわらせる。


「田尾さんもどうしてここへ?」


「いや、本間氏に呼び出されたんだよ。ってね。さっきの捨て台詞から察するに、今度は俺をターゲットにするみたいだな。」


「ああ!ますますアタマに来るわね、あのオトコ。また来たら今度こそぶっとばしてやるわ!」


「瀬尾さんも大丈夫ですか?怪我はありませんか?」専務がやさしく聞いてくれる。


「びっくりしたけど、大丈夫です。でも、本間氏、相当ツボに入っちゃったみたいですね。過去のこと言われるのが、相当いやなのか、トラウマなのか、あんなに怒るなんて・・・。」


「私もあそこまで怒るのにはびっくりしたわ。ただ、あいつやあいつの取り巻きのやりかたって、本当に気に食わなくて、いろいろ調べてたのよ。なんなら、アイツらの建てた建物をアイツのマニュアル使って、私が仕事として欠陥物件として告発してやろうかと思って。」


「そうしたら、見事なくらい無いのよ。あいつらの建てた建物が。取り巻き連中も、設計事務所に就職できなかったり、建築士試験に落ちまくって、建築士になれないようなやつばっかりで、実務をやったことのないやつばっかり」


「まあ、自分で建てた建物がないんだったら、強気に出られますよね。僕なんか、欠陥の検査してても、<あれ?ここ、僕の物件ではこうやったっけ?>なんて迷いがあって、本間氏みたいに元気よく、<欠陥だああ!>なんて言えないですもんね。」


小林くんが言うように、あたしも「欠陥検査」をするときには、後ろめたくて、「この建物に欠陥なんかありません。安心して下さい(ホントに欠陥なんかないんだけど。)」って言って帰ってくることがほとんどだった。


帰ると本間氏にこっぴどく叱られたが・・・。


「まあ、小田さんも言ってくれたけど、本間氏のモチベーションの原点は嫉妬だからな」


田尾さんが、専務の顔を見ながら言う。


「そう、嫉妬だろうな。俺もいすみの件があったとき、人づてで話を聞いたんだけど、本間氏もいすみや俺と同じK大学の建築学科を出た。優秀だった。


今ほど難しくはなかったけど、早い時期に1級建築士も取った。

順風満帆だった。


でも実務はうまくいかない。

最初は、どっかのゼネコンか、設計事務所に入ったらしいけど、昔からあんな風だったから、人づきあいがうまくいかない。事務所の同僚ともうまくいかなくて1年ももたなかったらしい。


で、しかたなく自分の事務所を開いたらしいが、施主や工務店と打合せができないから仕事がとれない。結局、細々と店舗の下請け図面を書いたり、建築士の名義貸し(当時はOKだった)でなんとか食ってたから、自分よりずっと年下のいすみが、設計で、自分がやりたくてできなかった意匠で、輝かしい成果をあげているのが我慢ならなかったんだろうな。まあ、いすみに限らず、建築で成功して、稼いでいるやつがとにかく憎いんだろうな。」


「欠陥住宅の交渉を、には、調。なんてやり方じゃだめなんだよな。

そんな冷静な建築士は、<業者をやっつけてやる!>なんて頭に血が上ってる施主には腰抜けに見えるから依頼されない。

まじめに、公平に調査をする建築士ほど、<欠陥住宅調査>っていう仕事で食っていくのは難しい。


アイツみたいに常に業者を悪者と決めつけていくスタイルは、そんな施主には頼もしいと映るから、仕事の依頼が多くなっていったんだよ。

皮肉だよな。打合せができない。業者が憎いからうまくいかない。そんな欠点が、欠陥住宅相談って仕事では抜群のスキルになるなんてな。」


「あのキャラだから、テレビでも使いやすいんだろうな。

あいつ、ウチもターゲットにするって言ってたな。もう、俺も会社たたむかなあ・・・。」


いつも自信満々な田尾さんにしては珍しく弱気だ。

専務が神戸で本間氏にやられたことをよく知っているからなのか。


「田尾、小田さんを病院に連れて行ってくれ。」

どんどん顔色が悪くなっていくあかりさんを心配して、専務が田尾さんに頼む。


「まかせろ。お前のピックアップじゃ揺れるから、社長のレクサス借りるぞ」


鍵ケースから勝手に社長のクルマのカギを手に取る。


「大丈夫よ、このくらい、寝てればなお!!!!」


言い終わる前に、田尾さんがあかりさんを軽々と「お姫様抱っこ」で抱き上げる。


「!!!」


じゃあ、あとはよろしく頼む!

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