第14話 トラブル発生-2
D邸の作業が終わった後、施主さんにいただいた金一封を使って、大泉学園駅近くの居酒屋で専務と小林くんへの「お詫びの宴」を開いた。
「このたびは、お二方にご負担かけてしまい、申し訳ございませんでした。」
「大丈夫ですよ。華さんのお仕事に問題なかったのが証明されましたし、ウチの対応を見たDさんは、新築のお客さんを紹介してくれるそうですから、営業費用と思えばいいんじゃないですか?ね、専務。」
いつのまにか、「華さん」呼びになった小林くんが言う。
「そうですね。結果的にはうまく納まりましたから大丈夫ですけど、瀬尾さんも、手伝っていただいた職人さん各自にお礼を言っておいてください。」
今回の作業は、大工さん、内装屋さん、塗装屋さん、電気屋さん、左官屋さんと、多くの職種の職人さんが手伝ってくれた。
自分たちのミスではないのに、時間をとって作業をやってくれたにも関わらず、どの職人さんからも請求書はあがってこなかった。
コンスタントにお仕事をだしている舞波工務店との信頼関係の深さがよくわかる。
「ただ、こういうことにあぐらをかいていてはだめで、きちんと会ってお礼を言って、今後もちゃんとお仕事を出すようにしてください。」
専務に諭された。
こういうところが、この人。そして舞波工務店がこのご時世でもお仕事が途切れない一因なのかなあ。とも思う。
「でもね、女の子が作業したから、やりなおせ。なんて私は納得してないのよね。なんかおもしろくない。」
あかりさんが言う。
今回の件はあかりさんも手伝うつもりでいてくれたそうだが、また「女の子が作業するのか。」と言われると大変なので、参加できなかったのだ。
「そもそも私、もう女の子じゃないのにさ」と自虐的に現場への参加を求めてくれた。
「あかりさんもご協力いただいて、ありがとうございました。」
と、ビールを注ぎながらお礼を言う。
施主さんのご希望の日程に作業を入れるため、あかりさんは自分の現場を一時止めて、職人さんをD邸によこしてくれたのだ。
そのあとの、工程の遅れの調整は、あかりさんの現場の負担になっている。
「あかりさんの現場で手伝えることがあったら、言ってください。あたしもガンガン手伝いますから。」
「うれしいこと言ってくれるわねえ!!今まで色んなオンナノコがきたけど、華ちゃんが一番だわ!」と肩を抱き寄せてくる。
あかりさんは、いろんなところの体格がなかなかよい・・・。ので、抱かれがいがあるわあ。
宴がひと段落ついたところで、専務が頼んだ追加のハイボールがきたので、あたしが受け取って、専務のところに持っていく。
「専務。どうぞ」
「今回の件で、委縮しないでいただきたいのはヤマヤマですが、以前も言ったとおり、ご自分で作業をされることはなるべく控えて、やむを得ず作業をする際には、作業の完成度のほかにも、いろいろと注意を払ってください。そうしないと、今回のようなことが起きますから。でも、そもそも工務店っていうのは、全部の作業を自分でやることができるのが本当で、昔の大工さんは、自分で板に絵を書いて、なんなら一人で1軒建てちゃう人もいたんですよ。なんでもかんでも分業制になっている今の建築業界おかしいし、分離発注とか、フランチャイズなんて、施工する側の責任回避の最たるもんですよ、そんなもんが大手を振って商売になっているのはおかしいし・・・・・・・・。」
「せ、専務???」
「あ、専務酔っぱらったわね。こうなるとうざいわよ。酔うと持論を延々垂れ流すから。」
「まあ、聞き流して、見物しておきなさい。このハイスペックイケメンの数少ない萌えポイントよ。」
見た感じはあまり変わらないけど、確かに目の焦点があってない。
さらに横で正座して、うん。うん。といちいちまじめにうなずいて聞いている小林くんとのツーショットも、とっても萌える。
「ね、この図式、最高のおかず・・・。違った、おつまみでしょ。」
というあかりさんに同意しながら、このおかず・・・。おつまみをさらに楽しむべく、グラスワインを追加注文した。
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