第8話 社長同行

「明日は今日と同じ服装でいいからね。」


社長からそう言われたので、今日も昨日と同じリクルートスーツっぽい服装で出勤した。

会社に到着すると、社長の運転するレクサスに乗って出発。


「履歴書には普通免許ありって書いてあったけど、瀬尾さんはクルマの運転はどう❓」

「免許はありますけど、車を持ってないので、すっかりペーパードライバーですね。維持費も大変なので、前の職場のお給料ではちょっと無理でしたね。」


「僕の仕事を手伝ってくれるんなら、一緒に動くから運転しなくてもいいんだけど、車が運転できないと厳しいかもしれないね。そこは専務と相談してよ。」


「はい、わかりました。」


なんて会話をしながらクルマは環七通りから甲州街道を抜けて、竹橋あたりに到着。


<財団法人○○協会>

官庁街の一等地。いかにも家賃が高そうなテナントビルのフロアに社長と共に入って行った。

やたらと毛足の長いカーペットの敷かれた豪華なオフィスに案内される。


「10時に理事長とお約束してます舞波です。理事長にお取次ぎいただけますか?」

そう告げるが、受付の女性は明らかに怪訝なカオ。


「少々お待ちください」

型通りな対応の後、10分ほど待たされた後「理事長」が現れた。


「理事長、今日はウチに新入社員が来ましたので、紹介とご挨拶にまいりました!」


「・・・・失礼ですが、どちらさまでしょうか?」


かなり若作りな感じの70代くらいの「理事長」は怪訝なカオ。

なんとなく、社長と同じような雰囲気だが、身なりにお金がかかっている。


「いやだなあ、練馬の舞波ですよ。ほら、この間の財団設立30周年パーティーでもお会いしましたよね。来季の役員のメンバー入りも考えていただいているおっしゃってくれたじゃないですか!!」


「理事長」はしばし考えたあと、「あ!舞波さんね。すいません。会う人が多くて、なかなか顔を覚えていられなくて。先日は、財団への寄付もいただき、ありがとうございました。また、会合もありますので、その際にはご案内を出しますよ。」


「よろしくおねがいしますね!あ、今度、新しく入社した瀬尾君です。」


「舞波さんとは、今後もいい協力関係を築いていきたいから、あなたもよろしくね」。

と、名刺を渡される。

昨日、来たばかりのあたしは当然、まだ名刺はないが、「理事長」はこちらの名刺を求めるそぶりを見せなかったので、そのまま受け取るだけになる。


「じゃ、すいません。今、来客中なので、失礼します。」


え、さっき、社長10時に約束してるって言ってたよね・・・?


「はい!よろしくおねがいします!」と社長。

・・・・?

「行くよ、瀬尾君」

「は、はい!」と社長の後をついていく。


・・・この後も「NPO○○」とか、「なんとか研究財団」等、名前が立派なところをいくつも回った。

共通点は、とにかく賃料の髙そうなオフィスと、話す人の身なりがすごくよいところだった。


会社に戻ると、同僚の女性。小田さんが声をかけてきた。


「お疲れ。どうだった、出勤初日は?」


「いや、なんかよくわかんない立派なオフィス廻りで疲れましたが、なんですかね、コレ?」


小田さんは、苦笑いして、「通称、社長詣で。社長は新人が入ると、とにかくに会わせたがるんだよね。今日会った何人かで、見覚えのある人もいたでしょ。」


そういえば、2つ目のNPOのヒトは前の政権の大臣だった人だったし、午後イチで行った財団のヒトは、地震の時の対応がまずかったとして辞任した、ニュースで見た官僚のヒトだった・・・。」


「あなたが今日行ったのは、ご存じの通り、が税金でつくった組織。悪い言い方すれば、「天下り先」ってやつね。今でも公共事業なんかは、そういうヒトたちのご意向で決まることが多いから。流行のってやつね。で、社長はそういうところとコネクションを作ることで、大きな仕事が来るって考えて動いてるのよ。新入社員が入ったって言うのは、顔見世に行くためのいいネタだからね。」


「ということは、小田さんも行ったことがあるんですか?社長詣で。」


小田さんは肩をすくめる。


そんなにこまめに顔を出している割には、ぞんざいな対応をされることが多かった。


「それで、そのっていうのは、今までに来たことはあるんですか?」


小田さんは、もう一回肩をすくめて、「残念ながら無いわね。かなり寄付したりとか、パーティーなんかにも社長は出てるけど、それに見合ったバックはないと思うわ。時々、偉い人のおウチのリフォームを頼まれたりするけど、なヒトの仕事だから、打ち合わせの手間の割には利益が出ないし。まあ、やらない方がいいカテゴリーの仕事ね。」


「かなりお金も時間も使ってる割には、成果がほとんど出てないから、どうなのかなあ?専務もその辺は分かってると思うけど、黙認してるわね。」


「あの?変な言い方ですけど、ですよね?」


「うん。でも、社長って、現場もこなせないし、設計もできないし、パソコンも苦手。ネットを使った集客なんかまったくわからないから、実質会社を仕切ってるのは専務ね。

ウチのホームページ見たでしょ。あれ、業者に頼まないで、専務が自分で作ってんのよ。専務、ウチに来る前は設計事務所に勤めてたから、設計実務も一通りできるし、現場の仕切りもできる。しかも、大工仕事もやっちゃうくらいだから。ハイスペックすぎるのよ。専務。」


ハローワークで紹介された後、ホームページを見たが、確かに、デザイン、レイアウトとか、SNSとの連携なんかもかなり考えられていて、かっこよくて、見やすいホームページだった。


「しかも、あのルックスだから、施主の奥様はぽーっとしちゃう。シゴトが決まるのも早いわよ。」


ようするに、


「社長は社長らしくできないから・・・。」


「そ、専務になんとか対抗したくていろいろやってるけど、空回りって感じかな」


なるほど。

あたしの面接をとにかく先にやりたかったのも、そんな事情なのかな?



「で、専務、独身だし」

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