第5話 工務店なんて
自分には縁がないと思っていた「ハローワーク」についに足を運んだ。
新宿のハローワークのあるオフィスビルには、某有名住設メーカーのショールームがあり、エレベーターには、そこへ行く家族連れやカップル。垢抜けた服装の設計者やデザイナーが一緒に乗ってくる。
彼らの楽しそうな表情。設計者と思しき面々の知的でやる気に満ちた表情に嫉妬を覚えながら、ハローワークのある階に向かう。
ハローワークに行く面々はすぐわかる。
「あ、この人ハローワークへ行くんだなと見える」ヒトは間違いなく、ハローワークのある階で降りる。まあ、自分もその一人なんだけど。
「工務店?」
「そう。設計、デザインの経験がある若い女性なら、ぜひとも。と先方の社長さんが言ってるんだよね。」
「でも、工務店って、大工さんがいて、作業着で、現場で職人さんとか施主さんにどなられながら頭さげたり、女の人だったらずっとオネエチャン扱いで、自分のやり方押し付けてくるオジサンばっかりの職場ですよね。私は設計がやりたいんです。」
「・・・かなり偏見を持ってますね。
でも、最近の工務店は自社で設計もやるし、この工務店は「○○の設計」とか「○内デザイン」とかの雑誌にも自社の設計施工の作品が乗っている会社ですよ」
そう言って、雑誌のページをカラーコピーした紙を見せてくれると、確かに見た事のある雑誌の紙面を飾っているのはこの工務店名だ。
作品はイケイケな建築家の建てる家によくある、大きな吹き抜けや無茶なオーバーハング。トレンドの、意味のないスキップフロアや無理な自然素材使用もしていないが、よく考えられた間取りと質感の住宅だった。
「今の工務店って、施工もできる分、設計事務所よりもデザイン向きな仕事ができるところも結構あるんですよ。ただ、あなたのように工務店っていうだけで敬遠してしまう人がいるので、なかなか決まらないんですよね。
建築の仕事をしたいんなら、いいと思うんだけどなあ。」
やけに工務店を推す職員さんだなあ。と思ったら、
「実は、ウチもここに建ててもらったんですよ。社長の息子さんが設計もやってるんですけど、建てた後もなにかと面倒みてくれて助かってますわ」
なるほど。そういうわけか。
この工務店からなんかもらってんじゃないの?的な気もしないでもないが、設計の仕事ができるんなら、いいかもな?と面接の申し込みをした。
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