桜が舞う中で

私は、短いが今の境遇によく似た、お姫様のお話に関心を持った。


「……へえ、そんな言い伝えがあるの? 確かにここは桜の名所よね?」


 彼の転勤場所は東北で、関東から出た事がないわたしは、彼と一緒にいるべきなのか迷い、五月のゴールデンウィークを使って、雪降る町に来ていた。


 彼とわたしの気持ちを確かめる為に。


 彼はわたしに自分で答えを見つけろと言い、雪解けの清流が流れる、川のほとりに連れてきた。


 ここに来る途中で数百年前にあった逸話を話してくれた。

 もちろん、ただ逸話を話したわけではなく、照れ屋の彼の気持ちがこもっていると、感じられた。


 東北の桜は関東より遅く、四月の末から五月初頭に見頃を見せる。わたしの歩く川のほとりの先、数キロにわたって、桜並木が続き、たくさんの花びらが宙を舞い、地上に落ちさくら色の絨毯をつくる。


「少し見頃は過ぎたけど、これもいいものだろう?」

 散り始め。わたしの身体に触れる桜の花びら。

 強い風が吹き花びらは高く、高く空へと流れる。

「うん、桜がわたしを向かえてくれているみたい」

 

 もう若くないわたしが、はしゃぎながら、踊るように廻りながら桜の風の中を歩く。


 ひらひら、ゆらゆら、さらさら、舞い踊る桜の花。


 両手を広げて花びらを受けいる、私を見て彼が歩みを止めた。

 それに気がつき、わたしは彼を振り返る。


「一緒にいてくれないか」

 彼は本当の言葉をわたしに告げた。まるで昔のお姫様の愛しい方のように。


 だからわたしも素直に告げよう。

 春には桜が舞い、冬には雪が降り積もるこの町で「彼と一緒にいたい事を」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひこばえ こうえつ @pancoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る