第21話「別れ」

 ユー・ニラは、宗一郎とフーリがホテルの受付の人に呼んでもらって、しばらくすると二人の元へやって来た。


「君が宗一郎君だね、女王さ――いやあの方から聞いたよ、飛空艇に乗るのが夢なんだってね、今日は本物の船長さんとかに会えるよ」


 と人柄の良さそうな小太りのニラは、優しい声で宗一郎に話しかけた。


「……ああ、はい、……そうなんです。お願いします」


 宗一郎は、下手な作り笑いをしながら話を合わせる。


「一応、僕の従弟の子って事でよろしくね、話を合わせるんだよ」

「はい、わかりました」

「でも、二人かい?女王さ――じゃない、あの方からは、一人って聞いてたけど」

「ああ――」


 宗一郎はフーリに振り向き、


「じゃあフーリ、ここでお別れだね」


 と過度に明るくそう言った。


「嫌よ」


 しかし、フーリはそれに食い気味に反対した。


「……もう、入れないんだからしょうがないじゃないか……」

「嫌よ、なんか私も行きたい」

「何言ってるんだよ」

「ああ、ケンカしないでよ、構わないよ、子供の一人二人、僕たちの船は皆のびやかにやってるからね」


 宗一郎は困った表情でニラを仰ぎ見た。


「良いんですか?」

「ええ、良いんだよ。女王さ――いやあの方からの頼みだから、ぐふふ」


 三人は、「アギラ・ヴァカンツァ船長、就任十周年おめでとう。」と書かれた横断幕を掲げられていた会場に入っていく。


 入った途端、宗一郎とフーリは、急ぎ足でヴァカンツァ船長の元へ向かう。


 アギラは、見慣れない子供の姿に気づき、ちらと見た。その子供は、自分を睨みつけるように見てこちらへ近づいて来ている。


「何か用かな、僕」


 ヴァカンツァは、話しかけようとする宗一郎に先制して、少し戸惑いながらそう尋ねた。


「……あの、ヴァカンツァ船長、お父さんからメッセージがあるんです!」

「君の……お父さんから?」


 ヴァカンツァの戸惑いがさらに増した。


「僕、お父さん、とは誰かな?名前言える?」

「はい、葛城正って言います。あなたに会いに行って伝えろと僕に死んじゃう前に言いました」

「!!!

 葛城!……死んだ……!?」


 ヴァカンツァの顔が一気に強張った。


「とりあえず、これです」


 宗一郎はそそくさと左腕を掲げ、魔石を見せた。


「これは、魔石……、ちょっと待て……、

――おい、すまないが少し席を外れる」


 ヴァカンツァは隣の制服を着た真っ黒な角の生えた男の人にそれだけ言うと、


「僕、お嬢ちゃん、こっちへ、ついて来て」


 とヴァカンツァは早歩きで会場を出て、廊下を渡り、階段を上っていく。宗一郎達は置いてけぼりになりそうになりながらも、必死でついて行って、彼のホテルの部屋へ入っていった。


 鍵を閉め、窓の外を確認したヴァカンツァは、


「さて聞こう。僕、魔石をこっちへ」


 宗一郎は、左腕を掲げる。


「……待て、而して希望せよ」


 魔石は、強烈に緑色にの閃光を放ち輝いた。


「わぁー!何これ宗一郎面白ーい!」

「静かにフーリ、始まるよ」


輝きが徐々に収まっていくと、魔石から葛城の声が流れ始めた。


――アギラ、懐かしい息子に対して心から挨拶を送る。


 これを聞いているという事は、わしはもうすでに死んでおるという事になる。まあ、いつかはわかってた事じゃ、その事は良いとしてっと。


 ええ、今、アギラの前に居るその子は、わしが最後に残す息子じゃ。名前は宗一郎という。わしは彼に貴下の庇護を受けるようにと言い渡してある。わしは、わしと同じように彼を助けることを貴下に頼みたい。大丈夫じゃ、わしの名において、彼を満腔の自信をもってその身柄を引き渡そう。


 そしていつか、彼が元の居場所へ帰る手助けをしてほしい。彼は奴隷の出身ではない、彼はエリクサンの飛空艇で別世界から連れて来られたのじゃ。私は、各国が隠している秘密の魔航路の内一つが宗一郎の故郷と通じていると考えておる。頼む、情けをかけてやってほしい……。


 ……それだけじゃ……アギラ、頼んだぞ。


 ……わしは、アギラ、宗一郎、君たちのおかげで我が人生は満ち足りたものとなった。この世界に来て絶望しかないとおもったが、終わってみれば、長く実りの多い人生を歩ませてもらった。何の後悔もありゃしない。普通に生きるより幸せな日々じゃった。


 ……ありがとう。

 それしか言うべき言葉が見当たらない。

 そして……さよなら――


 ヴァカンツァは唇を噛みしめ、その顔は泣くまいとして必死でこらえて歪んでいた。しばらく経ってから、


「了解した。宗一郎君、私と共に船に乗りたまえ」

「……あっ……はい!」


 ヴァカンツァ同様、唇を噛みしめ、泣くまいとして必死でこらえていた宗一郎は、悲しみを振り切るように、大声で返事をした。


「ねぇ宗一郎、どっか行くの?」

「……ああ、知らなかったんだね……。ヴァカンツァさんの船に乗って……ミラを出るよ、フーリ……」

「えええええ!!

 嫌よ!離れ離れは!!」


 フーリは宗一郎の肩をひしと掴んで睨みつけた。


「……しょうがないじゃないか、僕は軍に追われてるんだよ」

「嫌!」

「また会いに来るよ、フーリにもセミアさんにも」

「……」

「フーリ、元気でね」

「……嫌」

「……もう……フーリ」


 宗一郎はそれからかなりの時間、嫌を繰り返すフーリを説得し続けた。そして必ず会いに来る約束と、お土産をたくさん持ってくるという約束をして、フーリはやっと納得して、


「さよなら!」


 と言って宗一郎に告げてくれた。


「うん、さよなら……フーリ」


 夜の第一分節丁度。


 宗一郎はヴァカンツァと共にトイ車に乗って、ミラ中央飛行場へとホテルを出発した。


「さよなら宗一郎!

約束破ったら許さないからね!」


 追いかけてくるフーリに、宗一郎はずっと手を振って答えた。


 夜の第一分節半。


 泣きじゃくりながらも、これが宗一郎のためなんだ、我儘言っちゃ駄目だと言い聞かすフーリは、行く所がないのならと、明日からここで働くことになったセミアと、赤鉛筆を耳に挟んで保険金の計算をしているシンシアに迎えられて、水浸しでごちゃごちゃのカルカット・バーに帰宅した。


 夜の第一分節四分の三。


 三人は夕食を持って屋上へ移動した。食べながら、二番滑走路の場所を確認していると、何でも屋に葛城邸から持って来てくれと頼んでおいた、葛城の肖像画が届いた。


 夜の第二分節丁度。


 フーリ、セミア、シンシア、葛城の肖像画は、ミラ中央飛空場をじっと見守った。


 二番陸着面にサテン号が低空飛行で入って来る。薄暗くなったミラの空に、緑色をした信号代わりのパッカが司令塔から打ち上がった。


 と同時、二番陸着面のサテン号が轟音を上げて、中天へと飛び上がる。


 そして宗一郎の乗ったサテン号は、四人の頭上はるか上空を横切って、北の方角へと飛んで行った。

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異世界の太陽に焼かれて わをんわおーん @akasawaon

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