第7話「魔法の授業」」


 葛城はセミアに治療を受ける必要があったのだか、自分は調べることがあると、セミアには昼間、宗一郎にミラ語と、ついでにフーリと共に教養を教えるよう葛城に言い渡されていた。というのは、宗一郎は

奴隷としての作法以外何も知らなかったからだ。


 授業を受ける宗一郎は、セミアが只者ではないという事実にすぐ気づいた。


 その、しなやかな鞭捌き、その、艶めかしい体の、そのみだらな使い方、そして、ここぞと言う時に耳元で囁いくあだっぽい声。


 セミアは生徒のやる気を出すために、なぜかお仕置きやご褒美でもって、勉強に打ち込ませていた。言葉責めと鞭による罰(バラ鞭なのでそんなに痛くないし、デリケートな股間部分へのムチ殴打ももちろんしない。)、そして、ご褒美に、飴玉をくれるのと、よくがんばりました、と小さく言いながら優しく頭を撫でてくれていた。


 そうやって毎日、宗一郎にミラ語を教え込んできたかいあって、宗一郎は通常の倍の速度でミラ語を習得していき、もう普通に会話できるようになっている。


 しかしこれは、宗一郎の奴隷の作法のせいでもあった。奴隷の作法が体に染み付いて、大人の前で怠けるという事はできなくなっていたのだ。


 宗一郎が、ミラ語がある程度わかるようになると、セミアは、フーリと一緒に、数学、世界史、魔法を宗一郎に教えていく。


 宗一郎は、この世界についての知識をぐんぐん吸収していっていた。


   ◇


 今日は、初めての魔法の授業をする事になった。


 何時も授業を受けるのは、前方の壁に黒板がはめ込まれ、セミアが昔手作りで作ったという立派な教壇がある部屋で、宗一郎とフーリは二人机を並べ、セミアが入室すると立ち上がって礼をする。


「はい着席してください。じゃあ、まず適性を調べます」


 セミアはそう言うと、手に持っていた鞭を腰にぶら下げ、「魔法タイプ判定テスト」と書かれた紙を五枚、宗一郎に渡す。


「さあ、開始して」

「はい」


 宗一郎は受け取りながら返事をした。


「さて、終わるまで暇ねフーリ」

「暇だぁ!

なので寝てまーす!

グー!」

「駄目よ、精神統一の訓練してなさい」


 と、セミアは鼻ちょうちんを割ると、


「さあ、禅を組んでるのよフーリ」

「……はぁーい」


 そんな二人を横目に、宗一郎は鉛筆を取り出す。テストの内容を読み進めると、



   「らくらく!マナタイプ判定テスト」

                      スベガミ教会魔法管理省製


 これからの質問に、一、二、どちらかというと一、どちらかというと二の内当てはまるものを選んでください。そのおり、一、二をできるだけ選ぶようにしてください。


   第一問 せっかくの大型連休なのに友達がいないや


       一、全然平気


       二、辛い寂しい



   第二問 お金が落ちてるぞ、ねこばばだ!


       一、欲しかったものを買う


       二、自己投資に使う



 第一問は一に丸を、第二問には迷った末に一に丸をした。


 どんどん進めていき、三十分後、


「セミアさん、できました」


 テスト用紙を揃えて、教壇のセミアの元へ提出しに行く。


「採点するから、待ってて下さい」

「はい」


 宗一郎は席に戻って、鉛筆をしまうと、


「宗一郎様、採点できました」

「は、早いですね」

「さてと、フーリ、禅終わっていいですよ」

「ぷふぁー!

辛かったー!頑張ったー!そんな私偉かったー!」

「はい、偉い偉い」


 セミアは飴玉を一つ取り出してフーリに与えた。


「さて、宗一郎様、あなたの適正は」

「ドゥルルルル、ジャン!

適正は!」


 効果音をつけてくるフーリを流し目に、


「……火属性よ」

「パッカパカーン!

炎!炎!炎ー!」

「初めてだから説明します。

 今のテストはマナの種類、術者がどの元素に属しているかというものを調べるためのものです。火、土、水、風は、この世界を構成している四大元素の事、全てのものはこの中のどれかに属しています」


 と、黒板に


     火  →  風


     ↑     ↓


     水  ←  土


 と、書いた。



「これが強弱関係。ようするに火属性は風属性に強くて、水属性に弱く、あと相性の悪い水属性とだけは連携強化できません――」

「はぁーい!私、宗一郎のじゃくてーん!

 ビュー!」


 そう言いながら、指先から水を出して、宗一郎の頬にビューと当ててきた。


「やめろー!」

「ワッハハハ!」

「マナが火属性なだけですので、宗一郎様が水に弱いと言う事なのではありませんよフーリ。やめなさい」

「えっそうなの!」


 (セミア先生、怒るところが違うんじゃ……)


「魔法を使うには神と通じなければなりません。それは知っていますか、宗一郎様」

「はぁーい!」


 となぜかフーリが返事をする。


「いえ、よく知りません」

「魔力の強さは、一、思念の強さ、二、神との親和性、しんわせい、というのは心が合うとかそういう意味です、三、マナの積載量、せきさいりょう、というのは持っているマナの量の事です。その三つに依存し、持って生まれた才能がものを言います」


 セミナは話しながら、黒板に書いていく。


「魔力は、<浮揚魔法>イデデで、自重、じじゅう、というのは自分の体重の事です。体重を一チョー(百十メートルほど)持ち上げるのにかかる魔力を一として数えてゆきます。二チョー持ち上げたか、おもりを持って自分の二倍の体重を一チョー持ち上げたとしたら、その人の魔力は二ですね。たしか平均――さすがに知ってますか、平均って言葉?」

「知ってます先生」


 ノートを取りながら宗一郎は言った。


「そうですか、えっと、十歳児の平均は魔力数値は百六です。魔力は魔法を使うごとにある程度強くなっていきます。宗一郎様は百六を目指して頑張っていきましょうね」

「はい、先生」

「イデデのような魔法を操作魔法、ザーポリのような魔法を具現化魔法と呼びます。ぐげんか、というのは、物を作りだす、という意味です。火属性の宗一郎様は、ザーポリのような水を作り出す魔法は使えません。

 初心者はまず、どんな属性でもほぼできる、軽い物を使った操作魔法から順に習っていきますが、何よりも前にまず精神統一です」


 と、セミアは鞭を取り出した。二人に戦慄が走る。


「精神統一をし、思念を神に届かせ、神の力を自分の魔力によって具現化したものが魔法になります。

 思念を神に届かせる。その思念を神に届かせるために行うのが詠唱です。唱える呪文はそのためにあるもので、ものすごく才能があると、さっきのフーリみたいに詠唱なしでも放てます」

「……フーリって才能があるんですか?」

「天才ですよ。魔力数値は五千を超えています」

「五千んん!」

「むふふ、そうなのよ私!」


 (……人間、一つは得意なものがあるんだなぁ)


「でも、そうだからといって禅を組むのが不必要なことにはなりせん。精神統一はすべての基本です。二人ともこれから禅を組んでください。できてないと見たら」


 ――ビシィッ


 セミアは鞭を振った。


「良いですか?」

「はぁーい!」

「はい、先生」

「はい、良い返事です」


 セミアはニコリと微笑んだ。

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