第5話 お嬢様 作戦をたてる

翌日、アメリアが起きると日がすでに高くなっていた。

(憂鬱だわ・・・。)


ーーーー俺とアメリアの2人で王都に行くから。


いや、その前に子供2人だけで王都に行くのはどうかと思うが・・・。

アメリアはイーゼスに大人がいた方がいいと抗議をした。

ゲームではオーガスタと出会うのは婚約者を決める舞踏会の時になので、今回の御披露目については、どのようなイベントだったのかも分からずに向かうので、正直に言うとアメリア自身は行きたくはない。

どうしても、イーゼスと父親にいって欲しかったのに・・・


『父親よりも、俺とアメリアでいった方が何かあった時、直ぐに対応出切るでしょう。』


あっさりと返された。

何度も父親とイーゼスの2人で行かせようと話をしたのだか、覆すことが出来ず結局はイーゼスとアメリアが行くことになってしまった。


(全く・・・なんでこう・・兄様は頑固なの?いや、其れ処でもない)


兄イーゼスの性格はさておき、問題は此れからのこと。

オーガスタに会うと言うことが一番ヤバイ。

(どうするのよ私!想定外のことよ!!)

ゲームであれば舞踏会でオーガスタに出会うはずなのに、それよりも前に出会う形となってしまった。

(ぬぉぉぉぉ~~~~。逃げたいし隠れたいよぉ~。)

アメリアはベッドの上で頭をかかえで、端から端までゴロゴロと転がる。


「お嬢様、お目覚めでしょうか?」

「セラ。」


アメリアの部屋ドア前にメイドがたっていた。


「遅くまで部屋から声が聞こえたのですか、どうしたのでしょうか?」

「聞いてくれる!!」


アメリアはジャンプをしながら ベッドから降りた。

下にはふかふかな絨毯が引いてあるので、痛くはない。


「あのバカ兄ひどいの!私行く必要がないはずなのに勝手に決めて・・・。あーもう!考えるだけでイライラしてきた!」


ウジウジ考えても、らちが空かない。

もう、決まっていることだし、兄からやっぱり無しでしたとかあり得ない。

素直に腹をくくるしかない・・・。


「考えてもしかながないわ。セラ、今日は訓練所に行くわ。支度をお願い。」

「畏まりました。」


******

アメリアが訓練所に行く時、服装は大体決まっている。

ドレスだと派手すぎて、いかにもお嬢様って感じで好きではなく、漢服風の服装にしている。

漢服風だと頭が良さそうな感じがすると同時に兵士達に自分が軍師だと印象づけている。

そして、必ずセラも一緒。

まぁ、1人でいくとバエイやロンに怒られるので、必ず誰か連れてくようにしている。

訓練所は家から近く、アメリアの部屋の窓から見える場所にあった。


「今日は、普通の訓練だっけ?」


アメリアは後ろに着いてきているセラに聞いた。


「はい、その様に聞いています。朝からずっと稽古のようです。」

「ふーん・・・。」


セラと話ながら歩いていたら、いつの間にか訓練所に着いてしまった。

特に話をかけることもなかったので、こっそりと扉から覗いて見ると・・・


「ちょっ・・ちょっとタンマ!ロンも将軍もやり過ぎッス」

「何を言うか、このたわけ!一から鍛え直してくれよう。」

「フェイ。これも鍛練だ。」

「いやッスーーー!!」


訓練所が地獄化とされていました。

地獄といっても全体ではない。一部を見て、そう思ってしまった。

兵士達は個々の力を高めるべく、違う部隊の人達と共に武器を交えていた。

その証拠に、バエイの部隊は薙刀、ロンは槍を持っている。

フェイの所は遠距離の攻撃に長けた部隊だが、万が一敵が接近された場合も考え、剣を持っている。

ある者は接近された時の対処として、また、ある者は遠距離からの攻撃をいかに避けるか、各々で訓練をしていたようだ。

そんな中、訓練所のど真ん中で各部隊の将軍であるバエイ・ロン・フェイの3名は、三つ巴の戦いをしていた。


「この距離で避けるって、あんた怪物っすか?」

「人を怪物呼ばわりするな!」

「フェイ、隙が出来ているぞ」

「ロン!いじめッス!」


バエイがフェイに向かって薙刀を右上から左下に振り降ろし、それを避けたフェイが至近距離からボーガンで矢を放ったが、バエイはその矢を避けた。

そのまま、バエイは横一線に薙刀を振ると、フェイは横からくるバエイの薙刀を掴み、後方に飛んだ。

その隙をついて、今度はロンがフェイに攻撃を仕掛ける。

速すぎてまばたきが出来ない。

周りを見ると、手を止めて3人を見ている兵士がちらほらいる。

因みにいうが、全て刃は潰してあるので、大怪我はしないと思うが・・・


「逃げるな!フェイ!」

「なんで俺ばっか!!」

「これも鍛練だ!」


一振りするだけで土埃が舞い上がり、よく見ると地面に斬り跡がある。

もう一度言いますけど、刃は潰してありますからね。

でも絶対、怪我人がでてもおかしくないと思う。


「ひえええぇぇーーー!!!」

(フェイ、御愁傷様・・・)


フェイの叫び声が響き渡る。

アメリアは心の中でもう一度合掌をした。


******


「ひっでぇーよ!おじょー、聞いてくれぇ、バエイ将軍もロンもスパルタでよぉ・・・。俺に集中攻撃だよ。」

「お前は根を上げすぎる!あらゆる事を想定し、鍛練しなければならないのだ。」

「将軍クラス2人に迫られるって、どんな状況だよ!」

(ははは・・・確かに。)


一般的な兵士だったら、2名でもフェイだったら余裕で勝てると思う。

でも、バエイほどの強さとなると苦戦はする。

その上、ロンまで迫って来たら、不満の1つも言いたくはなるだろう。


「それにそうなったら、即逃げるよ!」


それが正解だ。

ことわざであるだろう、『逃げるが勝ち』と。


「それでは訓練にならんのだか・・・」

「まぁまぁ、バエイ将軍。我々も少し厳しすぎました。もういいでしょう。」

「しかしだな・・・。」


バエイほどの武人であると、逃げるという選択は余りしたくはないようで、少し不満の所もあった。


「バエイ。強くなることも必要だと思うけど、逃げるのも戦略よ。大事なことは生き延びること。そうでしょ?」

「アメリア様・・・。」

「それはそれとして、一息休憩を入れましょう。今日は饅頭をもってきたのよ!」

「っっうぉっぅしゃゃぁぁぁーー!!!」


訓練中だった皆から、大きな雄叫びを上げた。

特にフェイの声は大きかった。

今の世界では、甘味と聞けばとても高価なものだ。

高価な物ではあるのだか、砂糖自体は高い訳でもない。

普段の生活で、調味料として国民も普通に使っている。

それなのに何故高価だと言うと、セイント王国では甘味=果実フルーツもしくは、フルーツを使用したお菓子と言う認識なのだ。

確かにこの国では、果実は輸入が多くその取引の金額も高い。

アメリアも誕生日にフルーツの入ったケーキを口にできる位である。

砂糖はあるのにお菓子がないなんて・・・。

アメリアは、現世の知識を使い、砂糖を使ったお菓子を色々編み出していた。

クッキーやケーキもフルーツがなくても、砂糖やハチミツで作れるし小豆もあって、かなりのレパートリーが広がった。

そのなかでも特に人気なのが小豆を使った饅頭だ。

焼き饅頭、揚げ饅頭、蒸し饅頭とあって今ではヴィクトリア領の定番のお菓子となった。


「今日は、蒸し饅頭ね。セラ宜しく。」


******


「むぐっ・・・でも・・・うめっ」

「フェイ、一気に頬張るからですよ。」

「いいじゃん。俺、饅頭好きだし」

「バエイどう?今日の新作なの。」

「この、皮に入っている黒糖でしたかな?ちょうどいい甘さです。」


(うん、大成功ね!後で商品化の話もしとこ!)


アメリア、セラ、バエイ、ロン、フェイと囲み、皆でセラから渡された黒糖饅頭食べている。

好評はよかったみたいで、あっという間になくなってしまった。


「そういえば、お嬢様。」

「なに?ロン。」

「お嬢様が急に差し入れをもってくるなど、何か相談事でもあるのですか?」


(わっ・・・・忘れてた)


アメリアはロンに言われて思い出した。

新作のお菓子で頭が一杯だったので、オーガスタの御披露目の事などすっかり忘れてしまってたのだ。


「いや・・ね。ちょっと相談がございまして・・・」

「相談事?」


アメリアはことの詳細をバエイ達に話をした。


******


「で、お嬢様はどうにかして、オーガスタ殿下に目をつけられたくないと・・・。」

「そうなのよ、ロン。」

「おじょーだったら、何か策でもあるんじゃね?」

「昨日から考えているけど、全く思い付かない。」

「諦めて、いっそのこと普通にしたらどうでしょう。」

「やっぱりそうなる~。」


饅頭も食べ終わったので、セラがお茶を淹れてくれたので皆で飲んでいる最中だ。

饅頭といったらやっぱり緑茶でしょう。

これもアメリアが開発したものだ。

因みにバエイやロンは好んで飲むが、フェイは渋いのが苦手で飲まない。

兄は飲めるが紅茶の方が好きらしい。


「人前にでるなんて苦手だけど、普通におとなしくしとくわ。」


もう、相談と言うよりは、アメリアの愚痴を聞くだけになってしまった。

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