第4話 お嬢様 領に帰る

ヴィクトリア領ーーー

セイント王国の中でも海側に接している領の一つであり、他国からの産業物や工芸品などの貿易が盛んな領である。

また、セイント王国からの輸出も行っており、他の領からは商人の町とまでいわれ、領に手に入らないものなどないと言われるほど、毎日多くの物が流通していた。


「みんなーー!たっだいまーーー!!」


戦場から戻ってきたアメリア達は、正門から領の家に続いている大通りを通る。


「アメリア様!」

「アメリア様だ!」

「おかえり!アメリア様!」


正門からバエイ、ロン、アメリアと続き、フェイも後ろから入って来た。

大通りを通ると流石商人の町であり、様々な店が立ち並んでいる。

よくアメリアは幼いころ屋敷を抜け出し、この通りで遊んだものだ。

店の者達も顔馴染みで第二の家と思っている。


「アメリア様、今日はどこに行っていたのですか?」

「えへへ・・・。ちょっとね。」

「ひぇ~。将軍様達がお揃いで。またいつものイタズラですか?」

「バカだねぇ~。アメリア様は、もうそんなことしないよ。」


(ハハハ・・・。)

返す言葉がなかった。

流石にちょっと戦場へ行ってきましたと言えるはずがない。

そんなことを言ってしまえば、アメリアも怒られるが、バエイ達を責めることは目に見えている。

「アメリア様、着きましたぞ。」


大通りを更に奥へと進むと、石煉瓦で建てられた正門が建てられている。

石煉瓦の正門をくぐると、山々に囲まれた屋敷があった。


(帰ってきた・・・。)


アメリア達はヴィクトリア領の屋敷へと入っていった。


******


我が家に入ったらそのまま、ロンと共に部屋に向かった。

いや、向かってはないな。

本当はそのまま逃げるように自分の部屋に逃げ・・・、いや戻りたかったのだが、前には執事、後ろにロンがいて逃げられない。

特にロンは私があの場所へ行くときに逃げられているから、今度は逃すまいと警戒している。

途中何名か使用人を見かけたが、皆若干驚き、少し悲鳴を上げている。

顔は見えないが恐いのであろう。

バエイやフェイもいつの間にか、いなくなっていて、多分フェイへの説教だと思う。

フェイよ。心の中で合掌しかできないことを許しほしい。

今度、フェイの好きなものを奢るから。


「イーゼス様。アメリア様がお着きになりました。」


そんなことを考えているうちに、ドアの前まで来てしまった。

執事がノックをし、ガチャッとドアを開ける。

部屋の中は茶色で統一された家具で、とてもシンプルなレイアウトになっており、真ん中にはソファーとテーブルが置いている。


「おかえり、リア。」


ソファーとテーブルの奥に落ち着きのあるアイボリー色の執務机に一人の少年が座っている。


「さぁ、今回の件についてゆっくり話をしようではないか。ゆっくりとね。」

(ハハハ・・・。)


アメリアは諦めることしか出来なかった。


******


カチャーーー

目の前のテーブルに紅茶を置かれた。

そのお茶から爽やかな香りが広がり、アメリアは心を落ち着かせ・・・

(落ち着くかーーー!!)

いや、無理だった。


「どうぞ、イーゼス様。」

「ありがとう。リア、この茶葉は朝に取り寄せた物で、実に爽やかな香りだろ?」

「そ・・・そうですね。」

少年はそう言い、カップを取ると紅茶を一口飲み、にこりと頬笑む。

「味もいい。流石、ウィリアムズが入れる紅茶は上手いな。」

「イーゼス様。ありがとうございます。」


優雅に紅茶を飲んでいる男。

名前はイーゼス・ヴィクトリア、悪役令嬢であるアメリアの実の兄だ。

しかもゲームでは攻略対象の1名である。

ゲーム上では、オーガスタの婚約者の兄として俺様キャラで、主人公のイベントや他のキャラルートのイベントで、よく対立している。

イーゼスルートになると、人を物として扱うイーゼスに対して主人公と何度もぶつかり、イーゼスもそんな主人公に嫌がらせをしてくるが、主人公が孤独となったイーゼスを助け、その日境に心を入れ替えハッピーエンドにむかうようになる。

アメリアはイーゼスと一緒に嫌がらせをするのだが、主人公によって心を入れ替えたイーゼスを見て、主人公を事故に見せ掛けて殺そうとするのだが、イーゼスがそれを止めて逆にアメリアを殺してしまうストーリーだ。

因みにハッピーエンドは、イーゼスがセイント王国の宰相まで上り詰め、そんなイーゼスを懸命に支えた主人公と共に結婚する。


ゲームでは、兄妹仲は冷えきっていて、お互い血縁上は繋がっているがほぼ他人として見ていた。

ヴィクトリア領を栄えると同時に幼いころから兄妹仲を深めれば、イーゼスも俺様キャラにならないかなって思って、色々な事をしたけど・・・。


「リア、何か言いたいことはある?」


何故かこの笑顔がこんなにも恐いなんて・・・。

あなたがこんな腹黒キャラになると思いませんでした。


******


(落ち着くのよ・・・私。)

アメリアは、軽く深呼吸をする。

今回のことについて、皆から止められていたはずなのに勝手に行ってしまった私が悪い。

しかも、ロンがお目付け役でいたのにも関わらずだ。

ここは素直に謝るべきだと思う。

「兄様・・・。」

「ん?」

「この度は、ご迷惑をお掛けして申し・・・」

「あっ!そういえば!」

「はぁ??」

こちらが、珍しく、素直に、下手で、謝ろうとしていたのに何故この兄は遮るのか?

しかも、「あっ!そういえば!」ってなんつう、態とらしい口調で。嫌がらせか?

いや、この兄はただの嫌がらせなどしないはずだ。

アメリアは本能的にそう思わざるえない。

そして、アメリアは知っている。

この兄の笑顔は嫌な予感しかないことも。

気持ちを落ち着かせようとイーゼスが口を開く前に紅茶を飲もうとしたら。

「先程の戦場で軍師を名乗る人がいたらしけど、アメリアなにか知らない?」

ブハッッッ!!

この兄はとんだ爆弾を投げてきやがった。


******


先程の戦場で軍師を名乗る人がいたらしけどーーー

確信をついてくるとは思わなかった。と、いうより何故、その情報を知っているのか?

アメリアは思わずお茶を吹き出さなかった、自分自身を褒めてやりたい。

アメリアはお茶をゆっくりと飲みほし、カップを置いた。

「ぐ・・・軍師ですか?聞いたことがありませんね・・・」

本音を言うと後々、説明をするのが面倒だと思ったので、とりあえずは知らぬ存ぜぬを通そうと、にこりと微笑んだ。

「あっれ~?ナギサからの報告では自分は軍師だと名乗ったと受けているが間違いなのかな?」

「うぐっ・・・」

(ナギサ。後で覚えておけよ・・・。)

アメリアは心の中で毒づいた。


「さて、冗談はさておき・・・アメリア。」

「はいッッ!」


急にイーゼスが、真面目な声で言って来たのでアメリアは驚いてしまった。

真正面にいる兄の顔を見ると、さっきまでとは違い真剣な顔つきだ。


「今回の件について、どうして行ったのか話してもらおうか。」


******


イーゼスside


兄イーゼスから見て、この妹は少し・・・いや、かなり変わっていると思う。

何故、あの両親からこのような子供が生まれたのか、不思議でしょうがない。


俺は、このヴィクトリア領の後継ぎとして生まれ、貴族として幼い頃より父親より厳しく教育を受けた。

母親はアメリアを生んで、病気で亡くなってしまった。アメリアはもうすぐ7歳、俺が8歳の時だ。

正直に言うと、その頃のアメリアは嫌いだった。

こっちは後継ぎとして、毎日講義やら訓練やらでやっているなか、アメリアは蝶よ花よと育てられいた為、我が儘になっていて毎日使用人で遊んでばかりいる。けして、使用人とじゃない。

使用人でだ。


その光景を見るたびに俺は、その歳から勉強をさせられているのに、贔屓ばかりを感じる日々だった。


変わったのはいつだろう・・・。

それはアメリアが7歳の誕生日だったと記憶している。

いつものように父親から『誕生日なにがいいい?』と聞いた時、『物はいらないので、人を雇い入れてほしい。』と言い出した。

この返事に俺と父親は驚いて、固まってしまった。

父親はアメリアに弱く、おねだりとかも直ぐに叶えてくれて、お人形とかお菓子とか買って貰ったりしている。

たまに宝石とかアクセサリーとかも強請るから、たちが悪い。

まぁ、それを買う父親もどうかと思うが・・・。


そんな我が儘な妹が、物をいらないだと言い出したもんだ。

流石に父親も、駄目だとは言えず良いと言った瞬間、『では、私兵を雇い入れてます。人選は私が決めますのでお願い致します。』


一瞬、耳を疑った。

私兵と言い出したぞ、この妹は。

お付きの使用人が欲しいとかだったら分かるが、まさかの私兵がほしい?何に使うのだか。

イーゼスはこの時、疑問に思うしかなかった。


******


その日からアメリアが、奇妙な事を言い出し始めた。

『全体での訓練を行いましょう。』

『軍に部隊を作りましょう。』

『武器を変えましょう。』

その他にも、生活用品の開発、貿易の改善など誰も聞いたことがない知識を広めていき、今まではセイント王国一栄えている領になったのではないかと思う。

でも、それらの知識を他の領に広めることなどしなかった。

特に軍事力は秘密厳守で徹底をしている。

まあ、父親は貿易や領中心で仕事をしていて、軍については殆ど知らない。

費用は出して、丸投げの状態だった。

まさか元将軍達が横領していたなんて、気付くはずもない。

全てアメリアが内々で解決をさせている。

そして今やヴィクトリア領はアメリアの私兵と言っても過言ではないはずだ。

もちろん、父親は知らない。

父親が今現在の姿を見たら驚くと思う。しかも、アメリア中心でやっていたと知ったら、多分倒れるだろう。

今さら知ったところで、もう遅いが・・・ね。


******


「・・・で、お前は殿下の無事を自分で確認するために行ったと言うことか。」

「はい・・・。」


アメリアはイーゼスに洗いざらい話をした。

流石に死亡ルートを避ける為にイベントの阻止に行っていましたと、言っても信じては貰えないだろうと思うので、前々から同盟国が裏切る情報が入ってきた丁度に殿下が初陣にでるから無事を確認するために言ったと話した。

「・・・全く、お前の事だから安全な所にいたと思うが、あまり心配をかけさせないでくれ。」

アメリアの話にイーゼスは呆れて、気が緩んだのか座っているソファーに仰け反った。一気に疲れがきたと思う。

それもそうだ、たった1人の妹が戦場にいったのだ。心配で仕方もなかっかはずだ。

アメリアもそんな兄の姿を見て「ごめんなさい・・・。」としか言えなかった。


パンッッ!


「まぁ、しんみりとした話はこれくらいにして、これからの事を話そうではないか。」

「これからの事??」

「いやね・・・。明後日、殿下のお披露目があるから王都に行かないと。後、俺とアメリアの2人で行くから。宜しく。」


イーゼスが軽く柏手を打ち、話を変えたと思えば、さらに爆弾を投げてきた。

これには流石のアメリアも頭にくる。


「こっっ・・・この腹黒兄~~~!」


本日もヴィクトリア領は平和であった。

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