114

 今度はハッタリだった。爆弾はひとつだけ。手持ちのカードはもう残っていない。少なくとも僕のカードは。 

「シル、シャトル内の爆発物の検知と除去は可能?」

 イルザがたずねた。

「できません。私が認識できるのはシステムの異常だけです」

「いったい、いつの間にそんなものを……」

「ラオスー――チェイス・リーが何度かセンターに侵入したはずだ」

「あのじじい……」

 カウントは片手を額に当てた。

「カウント、だから私は何度も――」

「今さらそんなことをいってもはじまらない」

 イルザの言葉を手で制して、カウントはちらっとロバートに視線を向けた。

 次の瞬間、ロバートが僕に突進してきた。でも、僕は彼の動きを完全に読んでいた。ロバートの突き出した腕を難なくはじき返して、動きに逆らわずに投げ飛ばすと、彼は天井にぶつかってうめき声を上げた。にわか仕込みとはいえ、ラオスーに体術を習っておいてよかった。

「次に変な真似をすれば、すぐにスイッチを押す。僕は本気だ」

 これが、バーニィのひとつめの計画だった。

 シャトル内部に、ラオスーは爆薬を仕掛けていた。いつか切り札になるかもしれんじゃろ――そういっていたらしい。まったく、とんでもない人だ。

 僕たちは、ドクター・マチュアの懐中時計に遠隔操作の起爆装置を組み込んだ。ただし、半径百メートル以内じゃないと作動しない。僕とヨミがシャトルとその発射施設を爆破させて、ファントムを足止めさせることで計画の変更を余儀なくさせる、それが狙いだった。ファントムといえどもナオミのドレイン・アニムスの影響はまぬがれない。

 でも、起爆装置の懐中時計を取り上げられたから、その計画はいったん頓挫してしまった。だからヨミは僕をシャトルに乗せようと思ったんだろう。いや、最初から彼女はこうするつもりだったのかもしれない。

「レン、こんなことをしても無駄だ。西部地区の破棄は最優先事項なんだ。低軌道ステーションがひとつなくなるとしても、優先されるんだよ。そういう命令だからね」

 カウントが淡々と告げる。

 やっぱり、そうそう上手くはいかないか。でも、こちらもここで引くわけにはいかない。

「あなたならそういうと思っていた。こちらもシャトル及びステーションの爆破は優先事項なんだよ。ナオミの能力発動を阻止できなくても、ここの爆破は行う。ちなみにこれは誰からの命令でもないよ。『アーム』のみんなで決めたことだ」

 カウントが首を振り、口を開きかけたとき――。

「変です、カウント。東部地区のネットワークに侵入者が……」

 シルの姿がザザッと波打って揺らぎ始めた。白い服が赤に変わった。

「第三層までのプロテクトが解除されました。セキュリティプロトコル再構築中――再構築失敗。E―SOL三号機起動。発射秒読み開始。第四層まで侵入され――」

 そこで唐突にシルの姿が消えた。

「なんってこった」

 カウントたちが窓に飛びつく。

 僕らのいる低軌道ステーションのすぐ近く、少し下の軌道上で何かが輝き、光の柱が地上に落ちていく。その真下、西部地区のセンターにある、ヨミの母親の棺めがけて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る