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今度はハッタリだった。爆弾はひとつだけ。手持ちのカードはもう残っていない。少なくとも僕のカードは。
「シル、シャトル内の爆発物の検知と除去は可能?」
イルザがたずねた。
「できません。私が認識できるのはシステムの異常だけです」
「いったい、いつの間にそんなものを……」
「ラオスー――チェイス・リーが何度かセンターに侵入したはずだ」
「あのじじい……」
カウントは片手を額に当てた。
「カウント、だから私は何度も――」
「今さらそんなことをいってもはじまらない」
イルザの言葉を手で制して、カウントはちらっとロバートに視線を向けた。
次の瞬間、ロバートが僕に突進してきた。でも、僕は彼の動きを完全に読んでいた。ロバートの突き出した腕を難なくはじき返して、動きに逆らわずに投げ飛ばすと、彼は天井にぶつかってうめき声を上げた。にわか仕込みとはいえ、ラオスーに体術を習っておいてよかった。
「次に変な真似をすれば、すぐにスイッチを押す。僕は本気だ」
これが、バーニィのひとつめの計画だった。
シャトル内部に、ラオスーは爆薬を仕掛けていた。いつか切り札になるかもしれんじゃろ――そういっていたらしい。まったく、とんでもない人だ。
僕たちは、ドクター・マチュアの懐中時計に遠隔操作の起爆装置を組み込んだ。ただし、半径百メートル以内じゃないと作動しない。僕とヨミがシャトルとその発射施設を爆破させて、ファントムを足止めさせることで計画の変更を余儀なくさせる、それが狙いだった。ファントムといえどもナオミのドレイン・アニムスの影響はまぬがれない。
でも、起爆装置の懐中時計を取り上げられたから、その計画はいったん頓挫してしまった。だからヨミは僕をシャトルに乗せようと思ったんだろう。いや、最初から彼女はこうするつもりだったのかもしれない。
「レン、こんなことをしても無駄だ。西部地区の破棄は最優先事項なんだ。低軌道ステーションがひとつなくなるとしても、優先されるんだよ。そういう命令だからね」
カウントが淡々と告げる。
やっぱり、そうそう上手くはいかないか。でも、こちらもここで引くわけにはいかない。
「あなたならそういうと思っていた。こちらもシャトル及びステーションの爆破は優先事項なんだよ。ナオミの能力発動を阻止できなくても、ここの爆破は行う。ちなみにこれは誰からの命令でもないよ。『アーム』のみんなで決めたことだ」
カウントが首を振り、口を開きかけたとき――。
「変です、カウント。東部地区のネットワークに侵入者が……」
シルの姿がザザッと波打って揺らぎ始めた。白い服が赤に変わった。
「第三層までのプロテクトが解除されました。セキュリティプロトコル再構築中――再構築失敗。E―SOL三号機起動。発射秒読み開始。第四層まで侵入され――」
そこで唐突にシルの姿が消えた。
「なんってこった」
カウントたちが窓に飛びつく。
僕らのいる低軌道ステーションのすぐ近く、少し下の軌道上で何かが輝き、光の柱が地上に落ちていく。その真下、西部地区のセンターにある、ヨミの母親の棺めがけて。
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