107

 日が暮れてしばらくしてから、バーニィたちが戻ってきた。アレンの店の二階の部屋に僕たちは集まった。バーニィ、TB、そしてヨミ。僕は三人にライブラリでカウントに会ったこと、そのときに聞いた話をすべて伝えた。

 みんな、ほとんど口を挟まず、黙って僕の話に耳を傾けていた。ジェイダが入れてくれたコーヒーにも口を付けずに。話し終えると、バーニィが最初に口を開いた。

「それで、お前はどうするつもりだ」

「どうするって。決まってるじゃないか。僕は地球に行ったりはしないよ」

 バーニィはこれまで見たこともない鋭い眼差しで僕を見つめた。

「レン。俺は行けとも行くなともいうつもりはない。お前がどちらを選んでも、これまで通り、お前の力になる。ただ俺はお前の本心が聞きたいんだ」

「行かない。これが僕の本心だ」

 TBもじっと僕を見つめている。僕もTBを見つめ返した。TBがゆっくりとうなずく。

「分かった。TB?」

 TBはバーニィにこくりとうなずき、ヨミに視線を移した。ヨミはじっと考え込んでいる。バーニィがそっと僕にたずねた。

「レン。お嬢ちゃんにこの話をしたのは初めてなのか」

「うん」

 TBが立ち上がった。

「そうだな。俺たちは席を外そう」

「いや。いてくれて構わない」

 ヨミはそういうと、僕に視線で問いかけた。僕はうなずいた。そして、ヨミは話し始めた。

「行ってほしくない、それが私の正直な気持ちだ。でも、こればかりは本人が決めるしかない。その判断に私への感情が入ることは仕方が無いことだ。それも含めてお前にしか判断できない。そして私はお前の判断を尊重する」

「ヨミ。僕はカウントに会ったあと、ずっと考えた。ずっと考えて、そして決めたんだ。さっきもいっただろ。僕は君といっしょにいるよ」

 ほんのかすかに、ヨミは笑ってうなずいた。

「よし。こうなると、ちょっと作戦を変更しなければならんな。レン、カウントはもう一度お前に接触してくるんだな」

「たぶん、そうだと思う」

「明日、みんなを集めて指示を出す。その前に俺たちとフランチェスカ、キャット、クリスだけで集まろう。それにしても……」

 バーニィが溜息をついて椅子に体を預けた。

「『先祖返り』がそんな役割を担っていたとはな」

「私たちは苗床だ」

 ヨミが冷めてしまったココアをすすりながらつぶやいた。

「苗床?」

「作物を育てるために作られた場所だ。私たちは『先祖返り』を生み出すために生かされているんだ」

「なるほど。作物をじゅうぶん刈り取ってしまったら、用済みってわけだな」

 苦笑いを浮かべてバーニィが立ち上がった。

「レン、少し時間をくれ。カウントから接触があったら交渉してほしいことがあるんだ。詳しいことは明日話す」

 TBとバーニィが部屋を出て行き、僕とヨミはなんとなくその場に残った。

「本当にいいのか、これで」

 ココアの入ったカップを両手の中で回しながら、ヨミがいった。僕に向けていったのか、それとも自分自身に向けてなのか、分からなかった。

「いい。これでいいんだよ」

 こくん、とヨミはうなずいた。

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