082

 いきなりヨミは立ち上がって、背中を向けると首を振った。

「いや、やっぱりだめだ」

 いくら僕でもヨミがあのあと何ていおうとしてたかぐらいは分かる。僕も立ち上がって、ヨミの背中に語りかけた。

「ヨミ、こっちを向いて」

 でも、ヨミは首を振るばかりだ。

「い、今のは忘れてくれ」

「ヨミ、僕は――」

「だめだ。だって、私はこんな能力を持ってしまっているんだぞ」

「別にかまわない。それに、サキみたいにいつか能力はなくなるかもしれない」

「外見もこんなだし」

「僕は別にかまわないよ」

「性格もこんなだし。偉そうだし」

 一応自覚してたんだ。

「もう慣れたよ」

「パ……パンプキンでもか?」

「は?」

「あだ名だ。西部地区に来たとき、みんなからそう呼ばれた。肌の色がかぼちゃみたいに黄色いから」

「何いってんの? そんなの気にするわけないじゃないか」

「でも、TBたちみたいにきれいじゃないし、カカオみたいにかっこよくないし――」

「パンプキンでもかまわない」

 おそるおそる、ヨミがこちらを振り返った。

「そ、そうか」

「僕はヨミが好きだ」

 ヨミは真っ赤になってうつむいてしまった。

「わ、私もカカオのことが好きだ」

 僕は思わずヨミを抱きしめていた。

「おい、ばか、何やってるんだ、やめろ!」

 腕の中でヨミがもがいたけど、僕は離さなかった。

 僕は初めて知った。好きな人を思い切り抱きしめることがこんなにも心地いいものだったなんて。

 そして不意に悲しくなった。こんなふうに誰かを思い切り抱きしめることができないTBのことを思って。

 そして、いずれは僕もまた――。

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