053
日の出とともに僕たちは宿を出た。できればMAを人目に触れさせたくはなかったけどそうもいってられない。幸い通りにはまだ人はいなかった。もしかしたら不穏な噂を聞きつけて家に閉じこもっているのかもしれない。
僕はバーニィを乗せて、ヨミはひとりでMAを操縦し、残りは徒歩だ。僕たちのうしろにはデッドウッドの『アーム』の人たちが十人ほど付いてくれている。
野外劇場は町の大通りの外れに建てられていた。屋外に舞台と客席が設けられている。レッドフィールドが建てさせたそうだ。
舞台の上にクリスがいた。梁から吊るされたロープに両手を縛られている。かなり痛めつけられていた。顔が腫れ上がって見る影もない。その前に大柄な女と、舞台に腰かけている大男が見えた。どちらも黒ずくめだけど、ファントムのスーツとは違う。
「奴らだ。レッドフィールド子飼いの『先祖返り』。名前は確かアデーレ・ベルガーとアヒム・ベルガー」
後部座席のバーニィが僕の座席を叩いた。僕とヨミはMAを止めて着座させると風防を開けた。バーニィが降り立つ。
「ようこそ、『アーム』の皆さん!」
姉のアデーレが舞台の中央に進み出て、大袈裟に両手を広げた。
「ああ、何て麗しい同胞愛なんでしょう。仲間を助けるため敢えて死地に赴くなんて、ぞくぞくしちゃう。でも、ごめんなさい。うるさい蝿はこのあたりで追い払っておけとのご命令なの」
アデーレは鞭を取り出すとビシリと床に叩きつけた。
「人質を盾にするなんて無粋な真似はしないから、さあ、こっちにおいでなさいな」
『アーム』の人たちが一斉に銃を構える。でも、それは気休めだ。僕たちの銃では彼らを倒すことはできない。
「あらあら。もっと近くに来てもいいのに。じゃあ、そろそろショウを始めていいかしら」
アデーレの口上なんてものともせず、TBが客席の中央を舞台に向けてずんずんと進んでいく。
その姿を見て、弟のアヒムが舞台から飛び降りた。
「なんだよ、ふざけんなよ。姉貴以外にも『先祖返り』の女がいるじゃないか。しかもなかなかの別嬪ときた」
TBはアヒムの数メートル手前で立ち止まる。
「なあ別嬪さんよ、俺とよろしくやらねぇかい。俺がこれまで好きになった女はよ、俺が思いっ切り抱きしめるたびに、俺の腕の中で死んじまうんだよ。ぼきぼきってさ。骨が折れちゃってさぁ。分かっててもついやっちゃうんだよ。ああ、もう思い出せないくらい何人もだよ、ちくしょう。ぼきぼきっていう、あの感触。忘れたくても忘れらんねぇ。でもあんたなら大丈夫だよな。なあどうだい――」
アヒムが一歩踏み出した瞬間、TBが動いた。これまでで最も速い踏み込みだった。
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