043
「さあさあ。見てくれこの新鮮な野菜。奥さん、どうだい、このジャガイモ。うまいよ。安くしとくよ」
僕たちがやっかいになっている『アーム』のアジトの近くまで来ると、キャットの威勢のいい声が聞こえてきた。ポートタウンの『アーム』の拠点は市場の中にあった。一階は野菜や果物を扱う店舗になっている。
ポートタウンのリーダー、アレン・アイバーソンは快く協力を請け負ってくれたけど、条件がひとつあった。
店の手伝いだ。
庶民的というかなんというか、調子が狂ってしまう。でも、早馬の手配や、情報収集などに走り回ってくれているから、そのあいだ店の面倒を見なければならないのは当然といえば当然だった。
「ねえ、キャットってああいうのがすごく板についているみたいだけど、ほんとに盗賊なの」
「あいつの実家は農家だ。家業を継ぐのが嫌で家を飛び出したらしいが、ほんとはああいうのもまんざらではないみたいだな」
僕たちは二階に上がった。部屋にはバーニィとTB、アレンの奥さんのジェイダがテーブルを囲んでいる。ジェイダは身重だ。三ヶ月らしい。アレンとジェイダは僕と同じような肌の色だった。フランチェスカは早馬に乗り換えると河沿いの最短距離を通って次の町のデッドウッドに向っている。そこで武器と弾薬の調達をする予定だ。
「どうだった」
テーブルの上に広げられた紙を見ていたバーニィが顔を上げた。僕は席に着きながら報告する。
「レッドフィールドはこの町に泊まってた。アレンさんが宿屋の主人に確認してくれた。二泊して昨日の朝に出発してる。かなりの人数だって」
「そうか」
「クリスにも伝えてあるって」
昨日の夕方、ひと足先にこの町に着いたクリスはレッドフィールドのあとを追って、再び出発していた。
「でも、泊まってる場所までよく分かったね」
僕の疑問に、バーニィが答える。
「この町で一番高い宿屋だからな。しかも娼館が近くにある」
ヨミが顔をしかめた。
「奴の親父さんは立派な人だったんだけどねぇ。息子はひどいもんだよ」
ジェイダが腕組みをした。頼りがいのあるおかみさんといった感じの人だ。
「ああ、まったくだ」
バーニィはうなずきながら、テーブルの上の紙を覗き込んだ。地図が広げられている。
「すごい。こんなに詳しい地図があるなんて」
僕が思わず声を上げると、ジェイダが笑った。
「あたしたちが苦労して作ったのさ。正確な地図を作るろうとするとファントムがつぶしにかかるからね」
そうだったのか。それで今までいい加減な地図しか出回ってなかったんだ。
「予想通り、奴は俺たちへの襲撃の結果を待たずに移動した。恐らく二日後にデッドウッドに入るだろう。デッドウッドから奴の屋敷のあるシルバーレイクまでは目と鼻の先だ」
「途中で追いつくことはできないの?」
地図の上の町の名前を見ながら、僕はたずねた。
「今からじゃ、どれだけ急いでも難しい。ただし――」
「ただし、MAなら話は別だ」
ヨミがバーニィのあとを引き継いだ。
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