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「ファントムはそのメタンっていうのを独り占めしているということ?」

 僕の言葉に、ヨミはうなずいた。

「北部の採掘場から地下のパイプラインを通してファントムの拠点にメタンが供給されている。その一部はコーディネーターたちにも分配されているんだが、私たちもそいつを利用させてもらっているというわけだ」

「利用? ぶんどっているんじゃなくて?」

「ま、まあ、それはそれぞれの立場によって捉え方は様々だ。うん」

 どうやらぶんどっているみたいだ。

「と、とにかくだな。ここでは、メタンを改質して水素を取り出し、それを燃料として発電機を回してるんだ。これで『電気』を作ることができる。しかも同時にお湯も作れてしまう優れものだ」

 だからここにはお湯がふんだんにあるのか。昨日の夜、フランチェスカがやたらと感激していた。

「それをみんなが使えるようになれば――」

「確かにそうだな。でもこの仕組みはこの星の人間にとってあまりにも進みすぎている。オーバーテクノロジーすぎるんだ。道具として使えても、その技術を自分たちのものとして吸収することはできないだろう。それこそ、ファントムが黙っちゃいないだろうしな。いずれにしろ、この星の進化はいびつなんだよ」

 僕にはヨミのいうことが完全には理解できなかったけど、マックスの作った飛行機とこのMAとを見比べるとなんとなく分かる気がする。MAを作れるようになるまでに、普通は長い長いプロセスを経なければならないはずなんだ。そして、その最初の一歩をマックスは踏み出そうとしていた。

「もしかして、このMAも同じ仕組みで動いているの?」

「なかなか鋭いな、少年。その通り、MAも燃料電池を搭載している。水素と酸素を燃料として動いているんだ」

「ところでさ」

「なんだ」

「いい加減、その少年っていうのやめにしない?」

「そうか。わかった、ミスター・マーシュ」

 なんで苗字。しかもミスター付き。

「レンでいいって」

「う……」

「どうしたの」

「私たちの一族は他人をファーストネームで呼ばないんだ」

「そうなの?」

「いや、必ずしもそうではないんだが……」

「?」

 ヨミは溜息をついて、観念したように僕を見たあと、苦しそうに口を開いた。

「レ……」

「うん」

「レ……」

「……」

「レ……」

「オーケイ、もういいよ」

 肩で息をしている。そんなにいいにくいものなのか。ヨミは東部地区の出身だ。他の地区の文化はそんなに違うものなんだろうか。

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