037
キュンという音とともに兆弾がかすめる。
ドアに一番近いクリスが飛び出し、フランチェスカがキッチンのほうに走っていく。
銃撃はすぐに止み、僕が恐る恐る顔を上げると、いつの間にか僕の周りに黒い霧が漂っている。ヨミが力を使ってくれたんだ。
「ありがとう」
隣でしゃがんでいるヨミにいうと「べ、別に礼をいわれるほどのことでは……」と、そっぽを向いて立ち上がった。
テーブルの下から這い出ると、TBが悠然と三つ目のりんごに齧りついたところだった。
すでにキャットとバーニィも外に出ている。小屋の前では、クリスと男が十ヤードほど離れて対峙していた。
その男の背後、数十ヤード向こうでは、もうひとりの襲撃者を乗せた馬が走り去っていく。
「バーニィ、あれ」
「大丈夫だ」
直後、頭上で銃声が鳴り響いた。一秒後、すでに百ヤード以上離れていた馬上の男の体がゆらりと揺れて、地面に落下した。そのまま動かない。小屋の屋根を見上げると、ライフルを持ったフランチェスカが上体を起こした。
「で、昨日ここを襲ったのはお前さんたちか」
バーニィの言葉に僕は再び小屋の前の男に目を向けた。
「違う。それは別の奴らだ」
「さすがはレッドフィールドだ。人は豊富だし、金もある。お前もたんまりもらったんだろう」
「あいにく一セントたりとも貰っちゃいない」
「レッドフィールドの差し金だというのは否定しないんだな」
男は地面に唾を吐いた。
「俺だって『アーム』のはしくれだ。地球人(テラン)の思い通りにはさせたくない。だが、コーディネーターに任せたほうがいい場合だってあるんだ。そこのお嬢ちゃんがこのまま暴走したら地球人(テラン)は本気で押さえ込んでくるぞ」
ヨミが何かいいかけるのをバーニィが手で制した。男が続ける。
「あんた、バーナード・アリソンだろ。あんたたちはもっと賢いと思っていたんだがな」
「賢いよ。レッドフィールドの犬にならない程度には」
男の顔が歪んだ。
「能書きの多い奴だ。男なら銃で語れ」
クリスが淡々と告げる。
「クリス・バートレット。あんたとは一度やってみたかったんだ」
「こっちは待ちくたびれているんだが」
クリスの腕はホルスターに伸ばすことなく、だらんと垂らしたままだ。
「抜け」
男が銃に手を伸ばした。
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