第五章 あの日以来一日も忘れたことはない
036
翌日、日の出とともに僕は文字通り叩き起こされた。
ガン、ガン、ガンというすさまじい音が耳元で鳴り響く。僕がベッドから飛び起きるのと同時に、ゴツンという鈍い音がお尻の下から伝わってきた。
「痛ててて」
二段ベッドの下の段に寝ていたキャットが上段の底板に頭をぶつけてうめいている。
「おはよう男ども。食堂に集合よ」
フランチェスカが左手にフライパン、右手に何故かレンチを持ってにっこりと微笑み、部屋の入り口に立っていた。
ぼーっとした頭で僕とキャットが鉱山脇に建てられた小屋に入っていくと、僕たち以外はテーブルに着いて食事を始めていた。朝食のオートミールを胃の中に流し込みながら、バーニィが次々と指示を飛ばす。
「レッドフィールドの屋敷があるシルバーレイクまで早くても馬で五日だ。移動しながら『アーム』の拠点に寄って準備を整える。おい、TB、そいつは俺のソーセージだぞ。ったく。通常のルートだとポートタウンとデッドウッドを通過するはずだ。レッドフィールドはまだポートタウンにいる可能性が高い」
「今から行けば追いつけるんじゃないの」
席に着きながら僕はたずねた。
「向こうの陣容が分からん。まずクリスを先行させる。クリス、ポートタウンに入って情報収集してくれ」
「わかった。すぐに発とう。ポートタウンのアレンは昔なじみだ。人を借りられるよう交渉してくる」
「頼む。俺たちは今晩ポートタウンに移動する。デッドウッド集合は四日後の予定だ」
フランチェスカが「オーケイ」といいながら、ソーセージとターンオーバーの目玉焼きをみんなの皿に盛っていく。
TBはそれを一瞬で平らげて、テーブルに転がっているりんごにかぶりついた。二口で食べきってしまうと芯を窓から外にぽいっと放り投げて二個目に手を伸ばす。それをぽかんと見ていたキャットが、突然さっと顔色を変えた。
「しっ」
全員の動きが止まった。
ヨミはソーセージにフォークを突き刺したまま固まっている。
「馬だ」
キャットがささやいた。僕には何も聴こえない。
りんごにかぶりつく寸前、大口を開けたままのTBが指を二本立てた。
ふたりか。
今度は僕にも聴こえた。ぶるるるという馬のかすかないななき。
TBがりんごをさくっと齧った。
まるでそれが合図だったかのように、銃声とともに一斉に窓ガラスが割れて、僕たちはテーブルの下にうずくまった。
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