035
ふっ、とバーニィが息を漏らして、ふたりの間の緊張が急に解けた。
「あんたのおかげで、ドクが想定した最悪のシナリオになりそうだよ」
そういって、バーニィは首を振る。
ヨミがきっぱりと答えた。
「変革のためにはリスクを負う必要がある」
バーニィは苦笑いを浮かべる。
「そのリスクを負うのがあんただけなら文句はない。だが、失敗したときに迷惑をこうむるのは何も知らない人たちなんだぜ」
「分かっている。だが、私は自分を偽って安全に暮らすより、たとえ大勢の人間から恨まれようとも自分が正しいと思った道を選びたい」
しばらく無言でうつむいていたバーニィが顔を少し上げた。いつもの苦笑が消えている。
「それはな、お嬢ちゃん。あんたが若くてまだ守るものがないからなんだよ」
そしてまたいつもの苦笑を浮かべた。
「まあいい。今のあんたにいってもしょうがないことだ。お嬢ちゃんの目指すところはだいたいわかった。共同戦線を張ろう」
「バーニィ……」
フランチェスカが心配そうな顔をしている。
「ただし、ドクを奪い返すところまでだ。そこから先のことは約束できない」
「いいだろう」
「ちょっと、バーニィ。ほんとにファントムとやりあうつもりなの」
詰め寄るフランチェスカをバーニィは手で制した。
「いや、今回の件はコーディネーター、それも恐らくレッドフィールドが単独で動いている」
「仮にそうだとしても、彼の力は大きいわ。それに、背後にファントムがいることに変わりはない。本気でかからないとつぶされるわよ」
「どのみちこうなったんだ。腹を決めよう。俺たちもそれなりの準備はしてきた。そうだろ、フランチェスカ」
「わかったわ、リーダー」
溜息をついてうなずくと、フランチェスカはちらっと僕を見た。その視線を追って、バーニィもこちらに顔を向ける。
「お前も連れて行く。人手が必要だ」
ヨミが何かいいたそうな顔をしたけど、黙ったまま考え込んでいる。そんな彼女の様子を見ていると少し不安になってきた。僕の気持ちを見透かしたように、バーニィが苦笑する。
「そんなに心配そうな顔をするな、坊や。まだ幕は開いたばかりだ」
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